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第10話 スキンシップスイッチ?

 あの時の来須の反応が謎過ぎて、オレまで迷走させられたんだ。 「ぁあ、うん。…他の人に食べられちゃうの嫌だなって思って」  詰め寄るオレに、来須は何かを思い出すように、視線を空へと投げた。 「誰かに取られるくらいなら、強引にでも僕がもらっちゃおうって思ったんだよね」  思い出した感情に、来須は1人で納得する。  ふわっと戻ってきた来須の瞳がオレを捉え、ははっと小さく笑った。 「フラれるとか、付き合うとか…先のコトなんて考えてなかった」  照れたように笑う来須に、呆気に取られた。  後先考えなさすぎ。  ……無鉄砲にも、程があるだろ。  オレの反応に首を傾げながらも、殴られた場所を擦っている来須。 「まぁ、結果オーライだからいいってコトか。てか、マジで悪かったって……」  殴った場所を指差し、ごめんの気持ちを込め見上げるオレに、来須は慌て手を離した。 「ぁっ、いや。痛いとかじゃなくて。無意識。……でも、怪我の功名?」  へらっとした笑みを見せた来須の指先がオレの顔に伸び、ふにゅりと唇を押し潰された。 「このふにふに、僕だけのものになったし」  満足げに笑む来須に、オレの顔がぶわりと赤くなる。  急に見せられた独占欲に、心臓が、ばくんと鳴った。  思わず後退り、恥ずかしさに唇を手の甲で隠した。  こいつのスイッチどこにあるんだよ?!  てか、場所を(わきま)えろっ、場所をっ!  動揺しすぎたオレの言葉は声にならず、来須には通じない。  真っ赤に染まるオレを見やりながら、来須は相変わらずのニコニコ顔だ。 「あ、洸と煌にも、もう触らせちゃダメだからね?」  少しだけ口を尖らせ、拗ねるように言葉を紡ぐ来須。  オレは、騒ぎ立てる心臓をなんとか宥め、思いついた言葉を投げた。 「あー、オレ隠す気ないんだけど、平気?」  熱い頬を手で扇ぎながら問うオレに、来須は首を傾げる。 「いや、盛大に“オレたち付き合ってます”ってバラすつもりはないんだけど、隠すつもりもないというか……」  既に自分の性癖をオープンにしているオレは、来須という彼氏が出来たコトを隠すつもりはなかった。  オレたちの関係は、どっからどう見てもマイノリティだ。  大っぴらに祝福しろと、大手を振れるような関係性じゃないのは重々承知している。  でも隠れてこそこその付き合うというのは、オレの性に合わない。  大声で言いふらすつもりもないが、全力で隠匿するつもりもなかった。  オレの言葉の意図を汲み取った来須は、へらりと笑んだ。 「僕も隠すつもりはないよ。僕のものだって言わないで、誰かに食べられちゃったら困るし」  後ろに回り込んだ来須は、オレを抱きしめ、背中側から顔を覗いてくる。  周りには、高校生がじゃれているようにしか見えないだろうが、急に始まる過度なスキンシップはオレの心を騒がせる。  いやらしい空気なんて微塵もなくて、ただただ触れられているだけなのに、そわそわとする気持ちが心臓を打ち鳴らす。  ぬっと視界に入ってきた来須の頭を、ぺしりと叩いてやった。 「そんな軽くねぇよ。どんだけ浮気性だと思ってんだよ」  落ち着かない感情を誤魔化すように、むっとした声色で言葉を紡いだ。 「そうは思ってないけどさ。僕、ヤキモチ妬きだから。穂永の方が苦労するかもね」  腰のホールドをそのままに、するりと背後に戻った来須の額が、オレの頭頂部にぐりぐりと攻撃を仕掛けてくる。  ぐりぐりされる頭の天辺が、摩擦で熱を帯びてくる。  じわじわと増してきた腕の力が、身体を締め上げてくる。 「お、まえ。苦し、って」  腰に回っている来須の腕を、べしべしと叩いて抗議した。 「あ、ごめん」  ふわりと腕を離した来須は、ははっと小さく笑い、オレへの失礼発言を煙に巻いて誤魔化した。

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