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第12話 幸せには繋がらない

 自販機に寄り、紙パックの紅茶を2つ。  それを手に、屋上の扉を開けた。  煌が1人になりたい時、気晴らしに屋上に来るコトは、オレも洸も知っている。 「煌くんよぉ。また、洸に彼女できたら邪魔すんの?」  屋上の金網越しにグラウンドを眺める煌の横に立ち、同じような空間を見下ろしながら、口を開いた。  煌は、洸のコトが好きだ。  でもそれは、“愛”とか“恋”とかそういう部類の感情とは、違う気がする。  ただ、洸は俺のものという独占欲だけは、人一倍で。  洸に彼女が出来る度に、その彼女を試すようなコトを繰り返してる。  んっと、買ってきた紅茶のひとつを差し出しながら、オレは言葉を繋いだ。 「お前、わざと洸より先に待ち合わせ場所、行ったんだろ?」  彼女を試しているコト、洸の恋愛を邪魔しているコト、煌が洸を好きなコト…全部、()(くる)めて、知っているんだぞと煌に問う。 「彼女のクセに、俺と洸の区別つかない方が悪いでしょ」  面白くなさそうに表情を歪めながら、受け取った紙パックのストローを押し出す。  苛立ちを当てつけるように、ぶすりと伸ばしたストローを差し込んだ。 「あの女、洸には内緒にして俺とも付き合いたいとか言い出したんだよ。別れて正解でしょ」  俺は正しいコトをしているんだと言うように、ふんっと鼻を鳴らし、紅茶を啜る。  悪びれる様子のない煌に、オレは言葉に詰まってしまう。  確かに、その彼女は、ろくでもない。  でも。  彼女を試したって、洸の恋路を邪魔したって、煌が幸せになれる訳じゃない。  何を紡ぐべきなのかと、ちらりと向けた瞳に映る煌の横顔。  あんなコトをしても無意味だとわかっていると言いたげに、煌の瞳はグラウンドを睨んでいた。 「煌先輩!」  屋上への出入口から響いた声に、2人揃って振り返った。  オレたちの視界に映り込んだのは、後輩の 凉原(すずはら) 稜都(りょうと)だ。  くりくりの瞳と長い睫毛が印象的な顔。  身長は、170センチ近くあり、それほどの低さではないのに、何故か小動物感が否めない。  ふわふわと跳ねる猫っ毛や、ちょこまかと動く仕草が、そういう印象を与えるのかもしれない。

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