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第13話 めっちゃ一緒

 凉原の存在を知ったのは、1ヶ月ほど前だ。  学園祭の実行委員をしている煌を探しにきた凉原が、煌のクラスを経由し、オレたちのクラスを覗いた。  廊下側のオレの座席で、いつものように話している姿を見た凉原が、瞳をぱちくりさせていた。 「ん? 1年?」  存在に気づき声を放つオレに、凉原は両手で目を擦る。  手を離し、再びオレたちを見やった凉原が、ぽかんとした声を出す。 「水面先輩が2人に見えます……幻覚ですかね?」  僕、疲れてます? とでも言いたげに、放たれた言葉に、思わず笑っていた。  軽く笑いが収まったところで、事実を告げてやった。 「こいつら双子」  洸と煌を交互に指差しながら放たれたオレの言葉に、凉原がぽんっと手を打った。 「なるほど! で、どっちが……」  どちらが自分の知っている水面先輩なのかと、凉原の視線が、2人を行ったり来たりする。  まぁ、そうなるわな。 「どっちだろね?」  意地悪な言葉を紡いだのは、洸だ。  それに乗っかるように、煌も口を(つぐ)んだ。  数秒2人を見比べていた凉原に、煌が口を開きかけた。 「あ。待ってくださいっ」  答えを告げようとする煌に、凉原の声が被った。 「当てたい! 当てたいですっ」  悩ましげに2人を見比べていた凉原の瞳に、なぜかわくわく感がプラスされていた。  また数秒の沈黙が訪れる。  その間、凉原の瞳は、忙しなく2人の顔を往復する。  ぐっと両手で頭を抱えた凉原が、天井を仰ぐ。 「めっちゃ、一緒ぉ~っ」  凉原の嘆きの声が響いた。  真剣に2人を見極めようとしていた凉原が、音を上げた。  悔しがる凉原に、あははっと笑う洸と、ははっと笑う煌。 「あ! わかった! こっち、こっちが水面先輩です」  瞳をキラキラとさせながら、煌を指差す凉原に、洸がにたりと笑った。 「いや。どっちも水面だけど?」  意地悪く、にたにたと笑みながら放たれる言葉に、凉原が声を詰まらせる。 「ぅっ。そんな意地悪言わないでくださいよっ。…実行委員の、僕の知ってる水面先輩は、こっちです」  煌に向けた指先を揺らしながら、少し怒り気味に紡がれる声に、煌の笑い声が被る。 「ははっ、正解だよ。よくわかったな?」  偉い偉いと褒めるように凉原の頭をわしゃわしゃと混ぜる煌の手。 「本当にちょっとですけど、笑い方、違いますよね」  えへへっと照れ臭そうに笑った凉原は、自慢気に洸と煌の違いを語る。 「あと、僕の知ってる水面先輩は、あんな意地悪言わないです」  ふるふると頭を横に振る凉原に、あははっと笑った洸が口を開く。 「ちなみに、お前が知ってる方が煌で、俺が洸な」  煌と自分を順番に指差した洸は、言葉を繋ぐ。 「今後は“洸先輩”と“煌先輩”とでも呼べばいいんじゃね?」  こてんと首を傾げる洸に、はにかみながら嬉しそうに笑った凉原は、はいっと元気よく声を返していた。  屋上でオレたちを見つけ、小刻みの早歩きで寄ってきた凉原の顔は、満面の笑みだ。 「やっと見つけました」  煌の顔を見ながら、にこにこと言葉を紡ぐ。  ただ煌の顔を眺め、にこにこと笑んでいるだけの凉原に、首を傾げた。 「なんか用事あったんじゃねぇの?」  オレの声に、瞬間的にはっとした凉原が口を開く。 「あ、学園祭の時の……」 「委員会の話か。んじゃ、オレ戻るわ」  実行委員の話をしたくて、煌を探しここに辿り着いたのだろう凉原に、オレはお暇することにする。  ふと手に持っている紙パックの紅茶に気づいた。 「これ、やる」  持って戻っても良かったが、少しでも長く煌の傍に誰かがいた方がいいような気がして、それを凉原に押しつけた。  去る前にと、煌の耳許に顔を寄せた。 「洸だって馬鹿じゃねぇし、気づいてるぞ」  ぼそりと告げた言葉に、わかっているというように煌は、投げ遣りな瞳を足許へと向けていた。

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