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第15話 兄離れ? <Side 穂永
学園祭当日。
日常とは違う空間に、校内は活気づく。
オレと洸は、自分のクラスの前で、プラカードを抱え、呼び込みに精を出していた。
「ぉわっ」
ぴょこっと視界に入り込んできた姿に、洸が驚きの声を上げた。
「なんだ、凉原かよ」
気持ちを落ち着けるように、ふうっと息を吐いた洸が、両手で抱えていたプラカードを左手に下げ、目の前に現れたふわふわの頭をガシガシと撫でる。
「ぅわっ。違った!」
若干がさつな洸の撫で方。
触られた瞬間に、面と向かっている相手が、お目当ての煌でないと気づいたらしい。
「うわって…、酷くね?」
気持ち悪いものにでも触れられたかのような声色で紡がれた凉原の悲鳴に、洸が悲しげにオレへと訴えてくる。
「オレに訴えられても、困るわ」
ははっと笑い飛ばすオレ。
頭の上に洸の手を乗せたままに、凉原の視線は、きょろきょろと周りを探る。
「僕、煌先輩に用事があって……」
忙しない凉原の視線に、洸が隣のクラスへと瞳を向けた。
「煌ならまだ隣でゾンビやってんでない?」
凉原の頭から離した手で、煌のクラスを指差す。
「ありが……」
「ドリンク、1杯ぐらい飲んでく時間あるでしょ?」
お礼を言い立ち去ろうとする凉原の前に身体を入れ、自分のクラスへと誘い込もうとする洸。
学園祭では、各クラスの催しに対するコンテストが開かれている。
優勝したから何があるというわけではないが、それぞれのクラスは、その名誉を勝ち取るために頑張っている。
1人でも客が多い方が、コンテストでは有利に働く。
オレたちのクラスへと引きずり込まれそうな凉原。
「これ、俺の客でしょ?」
むっとした煌の声が、飛んできた。
ぬっと背後に現れたゾンビ姿の煌が、凉原を後ろから抱き竦めた。
「ぎゃっ」
肩から前へと回された血塗れの腕に、凉原が悲鳴を上げる。
「ぎゃって…、酷くね?」
煌が悲しげに、オレに訴える。
「同じ反応すんなよ。オレに訴えられても、困るっつうの」
「ぁ、わ。ごめんなさい、煌先輩っ」
くるりと勢いよく振り返った凉原は、ぺこぺこと頭を下げ、心臓を押さえる。
「心臓出るかと思いました……。僕、スプラッタだめなんで」
心臓を押さえながなら言葉を紡ぐ凉原の視界に、既に洸の存在はなくなっていた。
「なんで煌にだけ謝るんだよぉ」
俺だって傷ついてるのに…と、洸はオレの肩口にいじいじと人差し指を突き立てる。
いじける洸を放ったままに、煌と凉原の会話は続いていく。
「見回りだよな? …そんな怖いなら、メイク落としてこようか?」
きゅうっと眉間に皺を寄せ、困り顔で煌を見上げる凉原。
「でも、またその顔作るのに時間かかるんですよね? 大丈夫、うん、平気です。中身は煌先輩なんでっ」
言い切った凉原は、気合いを入れるように、ふんっと鼻を鳴らした。
ふふっと笑った煌は、凉原の頬をツンツンと突っつく。
何かを思いついたような顔をした煌が、凉原の頬に顔を寄せた。
―― はむ。
「………っ?!」
柔らかく甘く噛まれた頬を押さえた凉原の瞳が、白黒する。
「これでお前もゾンビだな。もう、怖くねぇだろ?」
ははっと可笑しそうに笑う煌に、オレも洸もぽかんとなる。
「見回り、いってくるわぁ」
自分のクラスへと声を掛けた煌は、凉原の手を引き、歩き出した。
暫く2人の後ろ姿を眺めていたオレたちに、クラスメイトの声が飛んできた。
「サボってんじゃねぇぞ!」
真面目に呼び込めと、怒鳴られてしまった。
見たことのない煌の甘い雰囲気にあてられ、呆気に取られていたオレたちの意識が呼び戻される。
「良い傾向……、なんでない?」
ぼそりと放ったオレの声に、洸もぽかんとしたままに言葉を紡いだ。
「兄離れ…的な?」
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