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第16話 1人分しか減らせない

 グラウンドの中央では、バチバチと音を鳴らしながら、キャンプファイヤーが燃え盛る。  楽しかった学園祭も、最後の後夜祭だ。  オレの隣には、スーツ姿の来須が立っている。  すらりとした身長に、綺麗に整えられた髪。  馴染んだスーツは、着られている感が皆無だ。  見上げる首が痛くて、顔を正面へと戻す。  目の前に立っている男も、オレよりも背が高く、キャンプファイヤーが、よく見えない。  見やすい場所を探し、じりじりと来須の傍を離れていた。  炎を探すオレの腕が、がしりと捕まれる。 「……っ」  痛みに、オレの手を掴んできた張本人を見上げる。  相変わらずの馬鹿力だ。 「どこ行くの?」  見上げた来須の顔が、不安げに揺れていた。  どんだけ、寂しがり屋なんだよ。 「あ…。よく見えなくてさ」  図体に似合わず直ぐに不安がったり、そうかと思えば、急に色気を放ちオレを翻弄してくる。  振り回される未来しか想像できないが、それはそれで楽しそうだと、腹の中で笑った。  オレの視線までしゃがんだ来須は、あぁと納得の声を上げた。 「じゃ、こうすればいい?」  すっと腰を落とし、腿を両腕でホールドした来須は、オレを抱き上げる。 「ぉ、わ…っ、ばっ、……恥ずかしいだろっ」  落ちないようにと左手で来栖の肩を掴みながら、腹に埋まるその頭を、バシバシと叩く。 「もう見えなくても良いからっ。お、ろ、せっ」  腕を締め上げるコトでオレを掲げたまま固定した来須の両手は、交差した先でむにゅりと太腿を掴んでくる。 「ここも、ふにふにだ」  ふくくっと含み笑いのような音を漏らす来須。 「ちょ、くるすっ」  予想外に揉まれる尻近くの裏腿。  ぞわっとする感覚が、背を登る。 「ここも僕の、ね。…てか、全部。穂永の全部、僕のもんだよ」  腹から顔を離した来須は、じとりした独占欲を滲ませた。 「ぅ、ぐ………」  もうこの状態が恥ずかしいのか、来須の気障(キザ)ったらしい言葉に照れているのか、定かじゃない。  恥ずかしすぎる格好に、擽られる胸底に、顔の赤さが引いていかない。  少しでも、視線を減らしたくなる。  オレは、見上げてくる来須の頭をぐっと抱きかかえ、とりあえず1人分の視線を抹消した。

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