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第11話

入れ替わりにユニが休憩に向かった後で、ハルはブランの顔周りの印象が午前中と違うことに気づいた。 「何か変わった気がする」 と、云うとブランは嬉しそうに笑った。 「あ、気づきました?これ先刻、ユニさんにもらったんです」 そう云って自分の襟元を指した。 「ネクタイ?」 「はい、俺にはこっちの色の方が似合ってるって云ってくれて、交換したんです」 似合っているとかの理由ではない気がするが、ハルは否定しなかった。 「はあ、そうなんだ」 「あれ、塩対応だ」 わざとらしく消沈するブランに対し、ハルは声の調子を明るくした。 「いや、色いいんじゃないのか」 「でしょう?しかもこれ、俺の好きなブランドなんですよ。俺が元々してたネクタイなんて、その辺で買った安いやつなのに取り替えてくれるなんて、良かったのかなあ」 なるほど、ユニも色々下調べした上でこういう作戦に出ているのかとハルは思った。 「本人がいいって云ってるならいいんだろ。良かったな」 ハルは適当に応じて話を切り上げようとした。だが、ブランはそれに気づかない。 「俺、社会人になったらこのブランドで一式統一してみたいと思ってたんですよね。でも正規で買うと高いんですよ。ネットで古着を見つけられたらラッキーなんですけど」 「へえ、あ、チラシ配布しながらどんどんお客さんに声かけてね」 なるべく素っ気ない態度にならないように後輩の注意を逸らした。 ブランはユニとは反対に文系の大学出身で、少々要領を得ない、鈍い面を持った男だったが、明るく素直でもあった。彼は自分の出来が然程良くないのを弁えた上で、仕事に熱心に向き合い、職場に馴染もうとしていた。そんなひたむきさがハルは好きだった。 ショッピングモールの閉館時刻より一足早く、ハル達はブースを畳んでいた。 別の商業施設でプロモーションをしていた現地の営業所の社員達と合流して夕食をとる予定になっており、時間通り撤収作業を完了しなければと少しハルの気は急いていた。しかし普段感じることのない足の疲れが、片付けを捗らないものにしていた。 ブースのテントを畳むのにハルが苦労していると、ブランが手伝いに来た。 「ハルさんは今日が最終日で、明日の朝帰っちゃうんですよね」 「ああ。本当はこの後、夜の高速列車で帰るつもりだったけど、せっかくここの営業所の人達に食事に誘ってもらってるしな」 本音を云うと仕事を終えた後はホテルへ直帰したいハルだったが、現地の社員達は、休日返上で本社からヘルプに来てくれた社員達を労おうとしてくれているのでそれを無碍にするわけにもいかない。 「ハルさん、先に帰っちゃうなんて心許ないです」 「一人取り残されるわけじゃないんだから」 「俺も一緒に帰ったらだめですか?ちょっとこの辺観光してから帰りましょうよ」 ブランの冗談に対し愛想笑いで応じていると、少し離れたところからユニがこちらを見ているのに気づいた。 「冗談云ってないで。さ、約束の時間があるんだから」 その日の食事会を終えた夜のことだった。深夜、ユニがハルの部屋を訊ねて来た。 数分前、ハルは今日の報告書をまとめ終えたばかりだった。食事会を途中で抜け、早めに戻って来て取りかかって良かった。既に若干眠くなりつつある。煙草に火を点け、部屋のシーリングライトを落とし、代わりに電球色のランプを二か所点けて脳を落ち着けようとした。間もなく日付は変わろうとしている。 煙草を吸い終えたらシャワーを浴びようとぼんやり考えていた直後のことだった。 扉を開けるなり、ユニは不機嫌だった。 琥珀色の双眸が乾ききっていない髪の下で睨みを利かせている。既に風呂は済ませたのか、身軽なTシャツに穿きやすそうなスウェットという装で彼はやって来た。先輩の部屋にやって来るにしては、時間も遅すぎるし、服装もラフすぎる。いつものことではあるが、彼のその眼に、礼儀や親しみは感じられない。 「何の用?」 ハルがそう云いかけた矢先、ユニは許可も得ずに室内へ押し入って来た。 「ちょっと、何なんだよ?どうした?」

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