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第2話
「勇吾が軟禁されてるって…どういう事だよ…」
桜二の車の助手席に座ると、運転席の桜二を見つめてそう尋ねた。
ずっと気になっていたのか、後部座席の依冬が興味津々に身を乗り出して、桜二を見つめて首を傾げた。
やっと聞く耳を持ったオレに、桜二はコクリと深く頷くと話を始めた。
「…今日、俺の電話に出た時、明らかに様子がおかしかったんだ。声に覇気が無かったし、言葉を選んだ素振りと、やたらと玉すだれの話をしてて…ピンと来た。」
は?
玉すだれ…?
あ、さて、あ、さて、さては南京玉すだれ…?南京…軟禁?
「ぶぶっ!!だ~はっはっはっは!!」
その連想はマジで…年齢がうかがい知れるよ?
ひとしきり大笑いすると、桜二の肩をバシバシと叩いて言った。
「ひ~!桜二ったら、こんな時に笑わせに来ないでよ!!」
そんなオレをジト目で見つめると、桜二は静かな声で言った。
「なんでシロに連絡をしないんだって俺が聞いたら…あいつはこう答えた。NEW2(ニューツー)が玉すだれをしてるから…その案件には手が出せないんだよ。NEW2が玉すだれをしていて…どうにもこうにも…だるまさんが転んでる…。」
オレはそう話す桜二をニヤけた顔で見つめながら、彼の見解を聞いた。
「それで…桜二はその会話から何を読み取ったの…?」
桜二はオレをジト目で見つめたまま首を振って言った。
「俺の事…馬鹿にしてるんだろ?」
あ~はっはっは!大当たりだ!
「そんな訳ない!ただ、暗号めいたやり取りだって言う事は分かった。」
オレはそう言って取り繕うと、桜二の顔を再び覗き込んで言った。
「で…どうなの?」
オレの言葉に桜二は気を取り直すとこう言った。
「NEW2…新2…真司…真司が玉すだれをしてる…真司が軟禁をしている。どうにもこうにも、手も足も出ない…そう読み取ったんだ。」
「このおじさんたちは…何を言ってるの?」
依冬がそう言ってオレの肩をチョンチョンしてきた。
やめろ。
オレも…少し、そう思ったんだから…
「でも、今日…勇吾から電話があったよ?軟禁されてるんじゃオレに電話はかけられない筈だろ?なのに、彼から電話があった…」
オレはそう言うと、桜二に着信履歴を見せて言った。
「ね?」
丁度…その時、再び着信を受けた…
発信者は、勇吾。
「あ…」
余りのタイミングにオレが固まって動けなくなると、桜二が通話ボタンを押して携帯電話をオレの耳に押しあてた。
「もしもし…依冬君のお兄さん…?」
それは…紛れもない。
半年ぶりに聞く勇吾の声だった…
体中の鳥肌が立って、ふわっと…香る筈もない彼の香りが鼻の前を掠めて行く。
彼の事を諦めるって…
あんなに…決心したのに、あんなに分かったつもりだったのに、彼の声を聞いたら、そんなのすべて吹っ飛んだ。
「勇吾…どうしたんだよ…!ずっと、心配してたんだよ…?どうして…?オレの事を忘れちゃってたの?もう…もう…酷いじゃないかぁ…!馬鹿!馬鹿ぁ!」
我慢していた気持ちが溢れて、ボロボロと涙を落しながら黙ったままの電話口の彼を詰った…
「勇吾…勇吾…どうして…どうしてこんな事するんだよ…。もう、オレの事なんて…好きじゃないの?イギリスにいつまで経っても行かないから…嫌いになっちゃったの…?」
「…分からない。」
覇気のない声でため息を吐くようにそう言うと、勇吾は悲しそうに声を落として言った。
「こぶしの花が…好き…」
こぶしの花…
それは、オレが彼を例えて言った花…
彼の頭の上に手のひらで降らせた、春を知らせる甘い香りのする大輪の白い花。
…勇吾
彼のその言葉を聞いたら、胸の奥からこんこんと熱い気持ちが沸き上がって来た…
「うっうう…勇吾…勇吾…!た、たま…玉すだれが、開催されてるの…?ひっく…だから、だるまなの…?」
オレがそう言って泣きじゃくると、電話口の彼は動揺した様に声を震わせて言った。
「ごめんね…泣かないで…泣かないでくれよ…!」
電話口の向こうで…誰かが勇吾に何かを言って近づいて来る声が聞こえて…その声に応える彼の声が…怯えてる様に聞こえた。
だから、オレは、咄嗟に…言ってしまった。
「…った、助けに行くからっ!オレが行くからっ!待ってて!」
ふふっ…と彼の乾いた笑い声が耳に聞こえると、電話口で鼻をすする音を最後に、勇吾との通話が切れた…
覇気のない勇吾の声も、彼の息遣いも、彼の話した言葉も、全て耳と心に留めた。
「…切れた。桜二が言った様に…様子がおかしかった…」
ポツリとそう言うと、止まらない涙をそのままに桜二を見上げて言った。
「桜二?明日…イギリスに行ってみる…」
彼はオレをじっと見つめると、コクリと頷いて言った。
「…分かった。」
1月1日…元旦に…オレは勇吾に会いにイギリスへと向かう。
運良く?しばらくお店もお休みになる。ポールが設置されるまで、どのくらいの期間がかかるのか…その目途すら立っていない。
行くなら、今しかない。
あんなに元気のない、枯れすすきの様な彼を放って置ける訳がない。
ありったけの勇気を出して…発作の事も、着いた先の事も何も考えずに…
勇吾を助けに行く。
「もしもし?夏子さん?あのね、勇吾に会いに行くんだけど、彼が今、何の仕事をしていて…職場がどこなのか教えてよ…?」
年越しのやたら騒がしい番組が映るテレビを横目に、ソファに座りながら携帯電話で夏子さんにリサーチする。
「え~?勇吾?今、何してたっけ…?確か…ストリップの公演が上々で…また春に公演予定だったはず。それの準備をしてると思うけど…ホールはどこだったかな…?それより、シロ坊!この前送ってくれた佃煮、めちゃめちゃ美味しかった~。あれ、また送ってよ~!」
ふふっ!
陽介の実家の佃煮が夏子さんのお口に合ったみたいだ。
オレはクスクス笑うと、メモ帳に“佃煮”と書きながら言った。
「分かった。今度送るよ。ありがとう、じゃあ、またね?」
要件を聞き終えると、早々に夏子さんとの電話を切った。
…彼女は用もない長電話が嫌いなんだ。
「クゥ~ン…」
熱心に情報を収集するオレの隣で、依冬が心配そうに眉を下げてオレを見つめて言った。
「急だよ…。もう少し、準備を整えてからの方が良いよ…。」
確かに急だ…
あんなに躊躇っていた海外旅行を即断で決めたんだ。
オレ自身、こんなに強い気持ちが生まれるなんて思っていなかった。
だからこそ、この勢いに乗らないと…オレは一生勇吾の元に行けない様な気がして、この機を逃しちゃダメだって、強く思ったんだ。
「依冬にもお願いして良い…?オレは飛行機の乗り方を知らない。だから教えてよ。切符はどうやって取るの?」
首を傾げて彼にそう聞くと、依冬は深いため息を吐いて言った。
「もう…人の言う事、全然、聞かないんだから…」
ふふっ…
決めるまでに時間がかかりすぎるけど、決めたらすぐにやりたがる…
そんなオレの悪い癖を半ば諦めの表情で見つめて、首を横に振りながら依冬が携帯電話で何かを探し始めた。
「もう…急に明日なんて…空席があるのか…。最悪、キャンセル待ちかもしれないよ?」
口を尖らせてそう言う依冬をギュッと抱きしめて、彼の髪に顔を埋めて甘ったれる。
「あるよ…きっと、空席がある。」
適当にそう言って、ため息をつき続ける依冬にしがみついて、彼の匂いをクンクン嗅ぎながら腕に巻いた桜二のお守りを指で撫でる。
勇吾…まるで別人の様に元気がなくなってしまったあなたを、助けに行くよ…。
いつもの行く行く詐欺じゃない。
オレは本気を出したんだ。
「さて…勇吾君は、どちらでお仕事をされてるのかね?」
演技がかってそう言うと、携帯電話で勇吾の公演を調べてHPで今後の予定を確認する。
“ハーマジェスティーズシアター”…
「随分、有名な所で公演をするんだね…」
オレの書いたメモを見てそう呟くと、依冬はオレの顔を両手で包み込んで言った。
「もし…何かあったらすぐに連絡をして?13時間後には必ず、シロの隣にいるって約束するよ。良いね?」
格好良いだろ?
これが…オレの可愛い依冬だよ?
「飛行機のチケットは取れた。10:50羽田発のヒースロー空港行…。ホテルの手配は済んだ。支払いは全てカードで済ませるから現地で何も支払う必要はないよ。明日、空港でいくらか現金をポンドに変えよう。ヒースロー空港に着いたらタクシーに乗って、ホテルまで行く。下りる時にチップを渡すんだ。何かしてもらったらチップを渡すの。良いね?」
そんなに沢山一気に言われても…頭が追い付かないよ。
頼りになる彼の胸に顔を埋めると、クスクス笑いながら言った。
「チップ…って、オレが貰うやつ?」
「もう…真面目に聞いて?」
口を尖らせて眉を下げる依冬を見上げて、心配そうに揺れる二つの瞳を見つめる。
「…依冬、ありがとう。」
無茶苦茶なオレに付き合って…助けてくれてありがとう。
両手で彼に抱き付くと、大きくてあったかい体に埋もれて一緒に床に転がっていちゃいちゃとじゃれ始める。
「シロ?ダメだぁ…その気になっちゃうよ?依冬がその気になっちゃうよ?」
「ふふっ!どの気になるの?どの気になっちゃうの?」
ふざけてキャッキャと笑うオレに覆い被さると、チュッチュッチュっと何度もキスして、髪を優しく撫でる。そして、うっとりと瞳を色付けると、熱くてむせ返るようなキスをくれる。
「あ~…ほらぁ、シロ。依冬はもう…やる気しかないよ?」
オレの耳元で依冬がそう言って、自分の股間をオレに擦り付けて腰を振ってくる。
「ん~ふふふ!本当だ…依冬は、もう、やる気しかないみたい…こんなにおっきくして…どうしたら良いの…?」
彼の両頬を手で撫でながらそう言うと、依冬はニヤリと笑って言った。
「責任とってよ…」
ふふっ!
「…シロ?荷物を入れたから、一緒に確認して…」
いちゃつくオレたちを真顔で見下ろすと、桜二がオレに手を伸ばして言った。
「早く…」
彼の表情は…何とも言えない。そんな表情だ…
「依冬とイチャイチャしてた。」
オレがそう言うと、彼は首を傾げて言った。
「後にして。こっちにおいで?」
そう言ってオレの手を握ると、引っ張り上げて自分の部屋に向かった。
「桜二?心配…?」
彼の背中にそう尋ねると、桜二は振り向きもしないで言った。
「いいや。全然…」
嘘つき…
一緒に行くと言った桜二と依冬の同行を拒否した。
これは…オレの乗り越えなきゃいけない壁だから…ひとりで行きたいと言った…
愛していたのに、糧にしていたのに、いつまで経っても彼に会いに行かなかった…そんな自分に、しっかりとけじめを付けなければいけない。
ひとりで会いに行く事が勇吾に対する…オレのけじめ。
大きな桜二の黒いスーツケースに、綺麗に詰め込まれた自分の荷物を眺めて、ひとつひとつ桜二と一緒に確認していく。
「向こうは寒いから…あったかい肌着を着て、高熱を出さない様に気を付けて?食べ物はコンビニみたいなところを探して、そこで…買うんだよ?ホテルに着いたら必ず連絡して?いつもみたいに、連絡をしないで放ったらかしにしないで、ちゃんと連絡して?…良いね?」
そう言って震える手元を誤魔化す様にひっこめると、桜二がオレの顔を覗き込んで言った。
「行って…どうするつもりなの…?」
オレは彼の不安に揺れる瞳を見つめながら言った。
「…とりあえず、この…“ハーマジェスティーズシアター”って所に行ってみる…真司君には顔がバレてるから…かつらを被って変装をして行こうと思ってる…。」
オレがそう言うと、桜二はスーツケースに目を落として着替えのパンツを追加で入れた。
彼の不安の分だけ、パンツが増えていく…
パンツだらけのスーツケースの中身を眺めながら、それをぼんやりと見つめる桜二の顔を覗く…
きっと、彼はとっても心配してるんだ。
でも、オレを信じて行かせてくれる…
オレがやる気を出したらやる男になるって知ってるから、何も言わずに荷造りしてくれてる。
「桜二の匂いがする服を、ひとつ、入れてよ…?」
クスクス笑いながらそう言うと、彼は今着てる服をおもむろに脱いでスーツケースの中に入れた。
「ふふっ!カッコ良いじゃないか!桜二~!」
そう言って彼の素肌に頬を付けると、離れる恐怖を感じて瞳の奥がウルッと歪んだ。
この人から…離れられるの…?
怖くて、堪らないのに…ひとりで行けるの…?
桜二の胸に頬ずりして、彼の温かさを堪能する様に、ぴったりとくっついて抱きしめる。
…シロ。
兄ちゃんを失って…逃げる様に東京に来た時の事を思い出して?
あの時の勇気を…もう一度持てば良いんだよ…。
桜二と離れる勇気…兄ちゃんと離れる勇気…
怖くて足が震えても…進まなきゃダメな時がある。
きっと、今がそうなんだ。
「桜二…オレ、勇吾を助けてくるよ?そうしたら、沢山、褒めてくれる?」
彼の体に埋まりながらオレがそう言うと、桜二はオレの頬を撫でてキスをくれた。
そして、優しく瞳を細めるとふざけて言った。
「あったり前田のクラッカーだよ?」
ふふ…!
彼の膝に跨って座ると、逃げて行かない様に頭を抱きしめて熱烈なキスをする。
「桜二!エッチして…!」
オレがそう言って自分のトレーナーを脱ぎ始めると、クスクス笑いながら桜二が言った。
「依冬が…妬いちゃうね?」
そうだ!忘れていた!
オレは桜二の膝から降りると、彼の手を掴んでリビングへと戻った。
「…なんだ、始まっちゃってるの?」
上半身裸のオレと桜二を見ると、口を尖らせて依冬がそう言った。
「まだだよ?これから始まるんだ。」
オレはそう言うと、室内照明を最高にムーディーな物に調整して、仕事道具の入ったリュックから、長襦袢を取り出して言った。
「おふたりさんにとってもセクシーな長襦袢のショーを見せてあげよう!」
彼らに見守られながら自分の服を全部脱ぐと、すっぽんぽんの体にひんやりとトロける長襦袢を羽織った。
年末のめでたい時間を、これを着て遊ぼうと思って持って帰って来てたんだ。
「あぁ…シロ。俺、もう…今ので十分興奮したよ?」
依冬が興奮してそう言っても、オレは手を緩めないよ?
長襦袢の腰に帯を巻いてキュッと縛ると、背中に手をまわして襟を落とした。袷を綺麗に手で直して整えると、クルリと振り返って二人を交互に見ながらポーズを取った。
「あぁ…禁断の、長襦袢が…解禁された!」
依冬が感嘆の声をあげる中、惚けた表情でオレを見つめる桜二の顔を見て吹き出しそうになる…!
だって、とってもだらしない表情になってるんだ…
やっぱりこの長襦袢の生地のトロみは、エロイんだ。
すっかり出来上がったエロい雰囲気に満足すると、彼らと距離をとってソファに腰かけた。両足を上に高く上げると、湿った重さを持った生地がトロリと袷からはだけて垂れていく…
「あぁ…!なんか、とってもそそるね?」
桜二がそう言って前のめりになるから、オレは両足を一気に引っ込めてソファの上に四つん這いになった。
「お触りしたら、ダメだよ?」
ムスッと顔を膨らませてそう言うと、依冬の膝に横に座って袷からチラチラと太ももを覗かせてみる。
「あふっ!ああ…あふふっ!」
ジッと太ももを見つめて興奮して行く依冬を見て、楽しむ。
これくらいで勃起していくなんて…長襦袢って本当に最強のエロツールだな…
「シロ?思ったんだ。」
オレがじっくりと長襦袢の威力を確認していると、桜二が突然何かを思って、オレの両脇を抱えて抱き上げた。
「こら!触ったらダメだって言っただろ?もう、桜二は出禁だよ?」
彼を振り返って見てそう言うと、足をジタバタさせて抗議した。
「桜二は、何を思ったの?」
キラキラした瞳を桜二に向けると、依冬はソファから立ち上がってオレの目の前に来た。そして、暴れてはだけたオレの胸元を指先で撫でながら、ニヤリと口元を歪ませて笑った。
こんな時だけ…このふたりは阿吽のチームワークを見せる。
きっと、結城さんの遺伝子でそうなる様に、プログラムされてるんだ。
「これはきっと、シロのエロへの探求心を研究する時間なんだ。」
桜二はやたらハキハキした声でそう言うと、オレを抱えたままソファに腰かけた。
「桜二?桜二?」
両脇を抱えられたまま桜二の足の間に座らされると、後ろの彼の表情を見ようと体を捩らせた。
「あぁ!なるほど!そうだったのか!」
楽しそうに声を弾ませて依冬がそう言って、オレの足の間に体を入れて来た。
「こら!依冬も出禁だよ?良いの?」
そう言って彼の頭を足の裏で抑えると、思い切り押し退けた。
「シロ?こうした方が、もうちょっと…エロいよ?」
桜二がそう言ってオレの胸元の袷から手を差し込んで、乳首を弄り始めた。
「んっ…桜二…だめぇ、違うの。長襦袢ショーを見せてあげたかったの!」
そう言って首を横に振っても、桜二は止まらない。
オレの胸元を広げて開くと、剥き出しになった乳首を指先で転がして摘んだ。
「あっ…!だ、だめぇ…んん…!」
「シロ?ダメって言っておきながら、こんなに大きくして…エッチだね?」
依冬はそう言うと、長襦袢の上からでも分かるくらい勃起したオレのモノを、指先で撫でてクスクス笑った。
「はぁはぁ…んん…依冬、依冬…お口でしてよぉ…お口でして…?」
彼の指で撫でられただけなのに、すっかりその気になったオレとオレのモノはゆるゆると腰を動かしながら、ニヤける依冬を挑発する。
「もっとエッチにおねだりしないと…お口でしてあげないよ?」
そう言って、オレの太ももを長襦袢の上から撫でると、ゆっくりと足を開いていく。
「ん…んん…えっちぃ…!だめぇ…ん、もう…あっああ…ん…」
桜二に掴まれた両脇から、腕を上に上げるとオレの襟足にキスする彼の髪を掴んで言った。
「桜二…キスして…?」
「ふふ…可愛い…」
そう言って惚けてほほ笑むと、桜二は音を立てながら舌を絡ませたキスをくれる。
あぁ…気持ちいい。クラクラするくらい、熱くて、濃厚なキス。
「んふっ…んん…ん、はぁはぁ…依冬ぉ…お口でして…シロのおちんちん、お口で舐めてよ…お願い…してぇ…ねえ、してよぉ…!」
足の間に入ってオレの内太ももにキスする依冬の体を両足で挟むと、自分の股間に沈めこもうと力を入れた。
「あふ…!シロ…本当に、可愛いね…良いよ。お口でぺろぺろしてあげるね?」
依冬はそう言ってクスクス笑うと、オレの勃起したモノを下から上へとねっとりと舐めあげた。
「ああっ…!はぁはぁ…もっとぉ!もっと、舐めて!…気持ちい!」
「お口を外さないでよ…シロ。」
桜二はそう言うと、オレの顎を掴んで再び熱心にキスを初める。
依冬がオレのモノを口の中に入れて扱き始めると、体が跳ねて腰がびくびくと震える。
「あぁ…とってもエッチだ…」
依冬の色っぽい声が耳の奥に届いて、撫でられるお尻に鳥肌が立って行く。
「可愛いよ…シロ、とっても可愛い…」
やっとキスを外した桜二はうっとりとそう言うと、オレの首を何度も舐めて吸った。
「んん…はぁはぁ…あぁん…気持ちい…あぁ…気持ちいの…依冬…あぁ…んん」
依冬の髪を撫でながら、快感に震える腰をゆるゆると動かして、彼の口にファックする。
「シロはお行儀が悪いんだ。」
そう言ってオレの足を大きく開くと、依冬はお尻の下に足を入れてオレの腰を浮かせた。そして口の中でねっとりと舌を絡めながら、オレのモノを扱き始める。
「あぁ…依冬…イッちやう…気持ち良いの…イキそう…!」
「あ!そうだ…!」
突然依冬は何かを思い出して、オレの足の間からいなくなってしまった…
「シロ?依冬は何かを取りに部屋に戻ったみたいだね?」
そう言ってオレにチュッチュっとキスすると、桜二はオレを後ろから抱え込んで中に指を挿れて来た。
「ん~~!桜二、気持ちい!あっああん…桜二、桜二…はぁはぁ…イッちやう…イッちやうの…!」
「イッて良いよ…ほら、シロ、イッて良いよ?あぁっ!可愛い!」
桜二はね、意地悪なんだよ。
気持ち良くなってイキそうなオレを、わざと畳みかける様に煽って…イカせるんだ。
「だめぇっ!ん、やぁだ!あっああ!桜二…!だめ、気持ちい!!あっああん!」
「なぁんで!ほら…イッて…?気持ち良いだろ?シロの可愛いイキ声を聞かせてよ!ほらぁ…あぁ…もう、イッちゃいそう!あぁっ…気持ちいね…?」
こんな事、耳元で…エロい声で言われ続けるんだもん。
イッちやうよ。
「ん~~!はぁあはぁ!だめぇ!んっああん!!」
腰をビクビク振るわせて激しくイクと、ちょうど戻って来た依冬がオレの顔を持ち上げてキスして言った。
「めちゃめちゃ可愛いじゃん…」
クラクラするよ。
この快感にも、彼らの放つ色気にも、ひたすら溺れてクラクラし続けてる…
依冬は手に持った何かを手のひらに垂らすと、自分のモノに付けて言った。
「あぁ…なんかこれ、気持ち良いね?」
「ひとりでそのままイッてしまえよ…」
「うるさいな…ほんと、こういう時に桜二の声を聞きたくないんだよ。」
…勇吾も同じ事言って、キレてたな…
依冬がオレに自分のモノを押し付けて、グッといつもの調子で中に入って来る。
オレは訪れる苦しさに備えて、息を吐いて体の緊張をほぐした。
「あっああ!!」
いつもと違う…。
ニュルっと奥まで一気に挿入されて、すんなりと入って来た大きなモノと、突然の快感に頭が一気に真っ白になっていく。
「あぁ…!シロ…凄い…このローションは、万能だね?」
そう言ってクスクス笑う依冬は既にイキそうになってる。
そういうオレも…あまりの快感に、イッたばかりのモノがビクビクと震えて、桜二の体の中で既にイキそうだ…
「はぁはぁ…気持ちいの?」
耳の奥に、桜二のエロい声を聞きながら、依冬がくれる快感に理性を無くして乱れて行く。
「はぁあん!依冬…!依冬…!気持ちいの!イッちやうの~~!」
「あはは!…可愛い。シロ、めっちゃ可愛い!」
苦悶の表情を浮かべながら依冬がそう言って、イキそうなオレのモノにローションを垂らす。
ばかやろ!そんな事をするな!ただでさえイキ易いんだぞ!
「んん~~!らめぇ!あっああん!!」
あっという間に、彼に遊ばれてイッてしまった…
「はぁはぁ…すっごいヌルヌルしてて気持ち良いね?シロ?」
オレの体に覆い被さって、ヌチュヌチュといやらしい音を出しながら、依冬がオレの中をかき混ぜて快感でいっぱいにしていく。
「うん…うん…気持ちいよぉ…依冬…好き、好き…大好き…!」
彼の体にしがみついてそう言うと、オレの中で依冬のモノがドクンと派手に暴れた。
「出して?出して?中に出さないで?」
そう言った桜二の声なんて聞こえないみたいに、うっとりとオレを見つめて依冬が言った。
「今…気を抜いたら…イク…!」
吹き出して笑いそうになるのを必死に堪えて、ギリギリを堪える依冬を見つめた。
「早く、イケよ…」
ため息を吐くように…桜二がポツリとそう言った…
桜二…頼むから、笑わせないでくれ…!
だって、依冬は今、ギリギリを楽しんでるんだから。
でも、おっかない兄ちゃんがイライラし始めるから…今度はふたりっきりの時にしようね…?
こんな事をしちゃう可愛い依冬の髪を撫でて、鳥肌を立てる彼の背中を指先でなぞった。
「はぁはぁ!あっ…!」
依冬はオレの中から急いでモノを出すと、オレのお腹の上にドクドクと精液を吐き出して項垂れた。
「10秒は…耐えれた…」
何と戦ってるんだい?!
そう言いながらオレの体に圧し掛かると、熱くて長い甘いキスをくれる。
「あぁ…シロ。この服とってもエッチで…すぐにイッちゃったよ…」
そう言ってオレのお尻をモミモミする依冬君は、もう一回やりたそうだ…
ローションってすごい…依冬の大きなモノが、全然苦しくなかった。
「これを箱買いしておこう。」
そう呟いた、天然の依冬に吹き出して笑いながら、オレの手を引っ張る桜二の膝の上に跨って座った。
「ふふっ!箱買いって…風呂にでも入れるつもりかな?」
目の前の桜二に笑いながらそう言うと、彼はオレを見つめて言った。
「良いんだよ…あんな奴の事は。俺だけ見て…俺だけ愛してよ…」
ふふ…!
全く…彼は、いつまで経ってもカマチョのクソガキで…可愛いんだ。
「ふふ…桜二…好きだよ…」
うっとりと彼の唇にキスしながら、ヌルヌルの残った中に彼のモノを沈めていく。
気持ちよさそうに首を伸ばして、口が半開きになる彼の唇を食んで、やわらかくて美味しい彼の唇を堪能する。
「あぁ…本当だ…箱買いだ…」
「バカ…」
オレの腰を掴む彼の手を自分の両手で包み込んで、ねっとりと腰を動かして彼を気持ち良くしてあげる。
「はぁはぁ…あぁ…桜二、気持ちいね…?」
オレの胸にキスする桜二の髪を撫でて、一緒にゆっくりと気持ち良くなっていく。
「あぁ…シロ、可愛いよ…愛してる。」
ふふっ…
知ってるよ。
桜二がオレの事を愛してるなんて…
諸行無常と同じくらい…当たり前で当然の事の様に感じてしまう程に…知ってる。
太陽が昇って沈む様に、形あるものがいつか壊れてしまう様に…
まるで、イデアの様に…それは絶対に不変なんだ。
「桜二…離さないで…オレの事、離さないで…」
小さい声で彼の耳元にそう囁くと、惚けた瞳を潤めてオレを見つめて言った。
「絶対に…離さないよ…」
頭の中から快感が溢れて、満たされていく…
彼とのセックスは、体の快感だけじゃなく…心が気持ち良いって、言うんだ。
ねっとりと下から突き上げてくる彼のモノに、トロけるくらい気持ち良くしてもらうと、項垂れて喘ぐだけになったオレの体をソファに押し倒して、桜二がオレに覆い被さってくる。
そして、彼の絶妙な腰使いでもっと気持ち良くしてもらうんだ…
「あぁ…!桜二、イッちやう…イッちやうよ…!気持ちいの…」
「うん…シロ、俺も気持ち良いよ…はぁはぁ…」
堪らなく甘くて、堪らなく官能的で、堪らなくエッチな彼の声に、体中の鳥肌が立って行く。
「ん~~!イキそう…イキそう!」
「ふふ…もうちょっと頑張ってみなさいよ…」
両手で髪を掴んで必死にイクのを我慢すると、桜二は腰の動きを変えて、ねっとりとオレの中を刺激しながら腰を動かし始める。
体がのけ反って、顎が上がって…オレのモノは痛いくらいに勃起して、ビクビクと震えて…今にもイキそうだ。
「桜二…らめぇ…あっあっ…気持ちい!はぁあん!桜二、桜二!」
「はいはい…」
苦悶の表情を浮かべながらも、随分と余裕ぶった声を出すから、オレは彼の首に両手をかけて言った。
「桜二…大ちゅき…大ちゅきなのぉ…シロにチュウしてよぉ?」
「ぶふっ!」
彼は吹き出して笑ったけど、オレの中の彼のモノは確実に…反応を強くした。
「なぁんだ…シロは、俺にギリギリを味わわせたくなっちゃったの?…悪い子だね?」
そう言ってクスクス笑うと、オレの口の中に舌を入れて舌を絡ませながらじっと見つめてくる。
「やぁだ!」
「…なぁにが?」
「じっと見てこないで!」
「…なぁんで?」
だって…ずっとロングストロークで動かし続けられる彼の腰付きに…今にもイキそうなんだもん…こんなにじっと見つめられてると、さすがに恥ずかしくなって来て…
集中して、気持ち良くなれないよ…
「だって、可愛い顔をずっと見てたいの…」
もう…桜二は…甘々の甘だ。
「ふふ…大ちゅき…桜二、大ちゅき…」
彼の背中を抱きしめて自分に引き寄せると、桜二の耳元で彼のくれる快感を味わって喘ぎ声を出す。
「あぁ…シロ。イキそう…」
「キスして…!」
トロけて惚けて、今にもイキそうな苦悶の表情の彼を見上げて、彼の両頬を掴んで自分に引き寄せる。
肩をあげて、荒い息遣いの彼の唇に食らいつく。
「はぁはぁ…桜二、桜二…シロの中に来て…来てよ。」
「シロ…愛してる…大好き…」
唇が離れない様に彼の舌と自分の舌を絡めて繋いでしまう。
「ん~~!桜二、イッちやう…あっああ…気持ちい!んん…あっああん!!」
激しく腰を震わせてイクと、彼の口に自分の熱い吐息を送ってトロけたままの舌でキスをする。
そんなオレのだらしないキスにオレの中で桜二のモノがドクンと震えて、ドクドクと精液を吐き出した。
「あぁ…気持ちい…シロが可愛いから…めちゃくちゃ気持ち良かった…」
そう言いながらオレの体の上に項垂れて覆い被さると、チュチュチュチュっと高速のキスをオレの頬や、肩や、胸や、髪に落とした。
「年を越してたね…」
3人一緒にシャワーを浴びて、3人一緒にテレビの前で呆然と立ち尽くす。
「ほんとだ…ふふ」
いつの間にか1月になっていた…
そして、オレがイギリスへ向かう日を迎えていた。
「ひとりで寂しくならないかな…?」
桜二のベッドの上、依冬がそう言ってオレの髪を撫でる。
「ならないよ…。シロは…強い子だから。」
一番不安そうに目を潤ませる癖に、彼は心強い言葉をくれる。
「うん。オレは見事に勇吾を助け出して、無事にふたりの所に帰ってくるよ?」
そう言うと、オレに抱き付くふたりに交互にキスする。
キツキツの桜二のベッドの上…
3人で並んで寝るには…クイーンサイズよりもキングサイズのベッドが必要だ…
「シロ…愛してるよ。お休み…俺の愛しい、可愛い人。」
そんな甘い言葉を耳にしながら、あったかいふたりに囲まれて眠りについた。
「シロ…起きて。飛行機に乗るよ。」
「おっ…」
依冬の言葉に目をパッチリ開くと、ガバっと体を起こして時計を見た。
「7:00…寝坊した?」
寝ぐせだらけの依冬を見上げて尋ねると、彼は半開きの瞳を向けて言った。
「いいや…チェックインは1時間前に済ませれば良いから…大丈夫だよ。羽田まで近いし…今日は元旦で車も少ない。あっという間に空港まで着くよ。」
そうなの…なら良かった…
「勇吾に何をお土産にしようか?」
「はっ!そんなの要らないよ。シロを独占出来るんだ!十分なお土産だよ?」
桜二が緊張のせいか…少し荒々しくなっていた。
「忘れ物、ない?」
「…うん。多分…」
大きなスーツケースを依冬が持って、桜二がオレの手を繋いで車まで連れて行く。
何度もふたりを見上げて、今更、胸がドキドキして痛くなってくる。
決めただろ…シロ。
勇吾に会いに行って…枯れすすきの彼を助けるんだ。
“こぶしの花が…好き”
力なくそう言った彼を助けて…自由にしてあげるんだ。
車に乗って道路に出ると、依冬が言った通り…元旦の道路を走る車は片手で足りる程度だった…
「特撮ヒーローのオープニングみたいだね?」
空港までの一本道を桜二の運転する車だけが走っている様子にオレがそう言うと、怖い顔をして運転していた彼は、不自然な笑顔をオレに向けて言った。
「そうだね…」
「オレがヒーローだよ?」
畳みかける様に、心配で死んでしまいそうな彼に話しかけ続ける。
「何色のヒーローなの?」
後部座席の依冬がそう聞いて来るから、オレは胸を張って教えてあげた。
「しろ~!」
「ふふっ!1番、強そうだね?」
そう。
赤は典型的なヒーローの色。
黄色はお調子者で、緑は落ち着いた人、黒はちょい悪で、ピンクはたいてい女性。
そして、白は…話の後半になると出てくる、1番強い謎のヒーローだ。
「颯爽と現れて、強くなって来た敵をバシーン!バシーン!と倒していく…そして、変身前は知的で、謎の多いイケメン…そんな、白いヒーローだよ?」
オレがそう言ってキメ顔をすると、依冬がケラケラ笑って、強張った表情の桜二の口元も…少しだけ緩んだ。
桜二の運転する車は、あっという間に空に飛行機が飛ぶ…空港へとやって来た。
「着いた…」
気の抜けた声でそう言うと、オレを見つめて桜二が言った。
「シロ…」
オレは彼を見つめると、首を傾げながらムカつくひよこの顔をして見せた。
口を尖らせて、目を寄り目にして、眉を目いっぱい上に上げる。
「ほんと…その顔…ムカつくひよこの顔にそっくりだ…」
依冬がそう言って、後部座席から一足先に車の外へと降りた。
「だって、この顔のテーマはまさしくそれだもんね?」
クスクス笑いながら桜二にそう言うと、助手席のドアに手をかける。
「シロ…!」
「大丈夫。桜二。大丈夫だよ…。」
そう言うと、オレの腕を必死の形相で掴む彼の腕を優しく撫でて言った。
「オレは、強くなったんだ。それに、一時的にあなたと離れたとしても…オレは、また、あなたの元に戻ってくる。そうだろ?だって、オレの帰る場所は、桜二と依冬なんだから。」
瞳をグラグラと揺らして涙を湛える彼の目元を指先で拭うと、彼の唇に優しいキスをして言った。
「上手く行くって…言って…?」
あなたがそう言ってくれたら、本当に上手く行く気がするんだ。
オレの瞳を見つめると、桜二はグッと唇を横に引き締めて言った。
「上手く行くよ…絶対に、上手く行く!」
ふふ…そうだろ?
オレもそう思ってるよ…
一緒に車を降りると、依冬が出してくれたスーツケースをコロコロと引いて歩く。
「寒いかな?寒く無いかな?」
「寒いに決まってる!」
空港に着くと、依冬が飛行機の切符をオレに渡して言った。
「帰りは迎えに行くから…一緒に帰ろうね。」
まじか…でも、依冬は本当にやりかねない。
「ふふ…分かった!」
オレはそう言うと、桜二に手を引かれてスーツケースを預けに行った。
「この切符を…飛行機に乗る時に見せたら良いの?」
彼の顔を見上げてそう尋ねると、ボロボロと涙を落しながら普通の顔をして言った。
「そうだよ。」
ふぅん…
「東京バナナを買って行こうかな?それとも…ひよこにする?」
お土産屋さんでそう言うと、桜二がボロボロと涙を落しながら言った。
「ひよこが良いよ。それをムカつくひよこの顔をしながら渡してよ。」
「ふふっ!そうしよう!」
お土産を買って地面にリュックを置いて中に詰め込むと、桜二が自分のマフラーを一緒にリュックに詰めて言った。
「寒いから…持って行きなさいよ。」
「うん…ありがとう…」
彼のボロボロと落ちる涙が、全然止まらなくて、胸が苦しくなってくる。
手荷物検査の列に並ぶと、依冬と桜二を振り返って言った。
「じゃあ…行ってきます。」
大好きなふたりから離れて…少しだけ遠くへ行きます。
難しく考えると怖くなるから…
玄関を出て、買い物に出かける感覚で…ふたりと離れます。
手荷物検査を受けると、桜二と依冬の姿が見えない場所へといつの間にか来てしまった…
あぁ…手も振れなかった…
しょんぼりと背中を丸めると、ひとりぼっちの体を当てもなく…フラフラと誰かの後ろを付いて歩いた。
あんなに大丈夫だって言ったのに…
姿が見えなくなった途端に、心細くて、堪らないよ。
何となく腰かけると、目の前の大きな窓から見える…今まで見た事も無い距離まで近づいて来る飛行機が怖くて、胸が苦しくなる。
「おっきい…」
あまりの大きさに圧倒されて、呆然としたまま、左手に巻いたお守りをギュッと握りしめて息を飲んだ。
「お姉さん…?大丈夫?」
急に隣から声を掛けられて、固まった体をガチガチと動かして相手を見た。
「んふふ…飛行機に乗るのが怖いんだ。」
中学生?高校生?年齢不詳の少年はそう言ってほほ笑むと、左手の指をしきりに撫でながら言った。
「…どこまで行くの?」
「イ、イ、イギリス…」
「へえ…イギリスは好きだ。だって、演劇が盛んだし歴史のあるホールも沢山ある。きっと楽しいよ。観光?」
知らない人と話しちゃダメって…兄ちゃんが言った。
でも、この子は屈託なくペラペラとよく話す…不思議な雰囲気を持った子。
「うん…観光みたいなもの…」
彼の朗らかさに少しづつ緊張が解けていくのを感じて、口元が自然と緩んでいく。
「そう、じゃあシアターに行くと良いよ。きっと素敵な舞台が見られる。そこにオケの生演奏が加わったら最高だ。あっという間に空間を彩って体中を持って行かれるよ?」
体中を持ってかれる?
それは…いったいどんな感覚なんだろう…?
勇吾ならきっと彼の話が分かるのかもしれない。
「ふふっ…面白い子だね?」
クスクス笑ってそう言うと、彼はオレを見つめて言った。
「お姉さん?飛行機は中に乗っちゃえば電車と同じだ。映画が見放題だから、ずっと見てたら良い。あっという間にヒースローに到着するから。だから、あんまり緊張しないで良いんだ。そうだな…俺なら、じっくり聞きたい交響曲を順番に聞いて過ごすかな…?」
あぁ…
優しい…!
オレがど緊張してパニックになりかけていたのを、声を掛けて宥めてくれたんだ…!
勇吾…?
世の中には、良い人も一定数はいるんだよ…。
「君は…優しい子だね…。でも、オレはお兄さんだよ。」
オレがそう言うと、少年はケラケラ笑って言った。
「なんだ!紛らわしいね?」
あ~はっはっは!言うね。
優しい少年は一足先にフランス行きの飛行機に乗って行った…
あんなに若いのに、一人旅なんて…信じられない。
世の中には、オレの想像も及ばない世界観で生きてる人が、沢山いるみたいだ…
「ふふっ。良い子だった…北斗君。また会えると良いな…」
彼の乗った飛行機が飛び立つのを目で見送って、自分の乗る予定の飛行機が到着した事をアナウンスで知った。
“飛行機に乗ります”
桜二と依冬にメールを一斉送信すると、ドキドキする胸を抱えたまま搭乗ゲートへと向かう。
勇吾も、夏子さんも、依冬も、桜二も、飛行機に乗った事がある…
オレだって…やってやる…!
搭乗ゲートまでやってくると長い列の最後尾について、切符を手に持ってスタンバイする。
どんどんお姉さんに切符を切られた人が中に入って行く…みんな慣れた様子だ。
「搭乗券を拝見しま~す。」
目の前のお姉さんはそう言うと、オレが手渡した切符を見てピリリと破って返した。
何も考えられないまま、他の人が進んだ廊下を同じ様に歩いて向かう…
ドキドキドキドキ…
再びお姉さんの関門を迎えて、オレはピリリと切られた切符を再び新たなお姉さんに見せつけた。
「あ…お客様はこちらの席です。」
そう言われて案内されたのは、広々とした席。
映画で見たのと違う。
最近は…こんなに広々とした空間の飛行機が主流なのかな…?
「お客様は、こちらのビジネスシートです。」
係のお姉さんがそう言うから、オレは首を傾げて言った。
「僕はビジネスで行くんじゃなくて、観光で行きます。だから、ビジネスシートじゃなくて、バカンスシートに座ります。」
「ぶほっ!」
どこからともなく吹き出す声を聞いて顔を真っ赤にすると、大人しく言われた席に腰かけた…
だって…ビジネスで行く訳じゃないのに…ビジネスシートってのに座るのは…おかしいじゃないか…
動き始めた飛行機の小さな窓の外を眺めると、ふと目に着いた展望台に、桜二と依冬を見つけた。
「あ…!桜二…依冬…!」
今生の別れじゃない。
オレは、また、ふたりの元に帰ってくる。
そう…分かってるのに…
涙が止まらなくなって…怖くなって…寂しくなって…心細くなった…。
桜二のお守りをしきりに撫でて、蹄鉄の金具の部分を指で何度も撫でる。
勇吾…
あの時、勇吾にも…こんな風に見えたの…?
あなたの飛行機に手を振るオレが…こんな風に、見えたの…?
それは…とっても…胸が苦しくなったでしょ?
今のオレの様に…とっても、悲しくて、寂しくて、心細くなったでしょ…
飛行機の中は思った以上に快適空間だった…
飛行機に乗っている事を忘れる程、映画を何本も見た。
美味しくない機内食を頂いて、あっという間に…イギリスの上空へとやって来た。
緑が…綺麗だ…
日本の様な田園風景じゃない。
色鮮やかな緑が広がって…仕切りの様により濃い緑の垣根がどこまでも続いてる…
「すごい…綺麗だ…!」
すっかり夢中になって、眼下に見える風景に目が釘付けになる。
全てが美しくて、まるでお芝居の中に紛れ込んでしまった様な錯覚さえする…
そんな美しい風景に…胸が熱くなって、なぜか涙がポロリと落ちた。
こんな所に…あの人がいる。
勇吾…会いに来たよ。
オレが、助けに来たよ!
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