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第7話

#勇吾 あの子が俺の傍に居る…! それだけで…気力がみなぎった。 廃人の様に、真司の言いなりになっていた自分が…嘘みたいだ。 シロはそれを“寂しかったんだね”と言って…俺を慰めた。 俺は…真司の執拗な接触に疲れて、メグを傷付けられて、参ってしまったんだと思っていた… でも、 もしかしたら…あの子に会えなくて…寂しすぎて、死にかけていたのかもしれない。 だから、あんな理不尽を許して、水面に浮いた葉の様にただ、波紋を漂っていたのかもしれない。 「勇吾…ポールダンスの構成見たよ…ただ、細かい部分を詰めたい。お前の恋人に踊って貰えないか…?」 そう言って音楽を担当するベンが俺を見て首を傾げた… え? 今までそんな事言った事なかっただろ? お前はただ、あの子の踊る姿が見たいだけなんじゃないの? 「良いよ。」 そう言うと、シロをスタジオに呼んでザッとポールダンスの構成を一通り説明した。そしてあの子の顔を覗き込みながら聞いた。 「これを、踊ってみてくれないか…?」 あの子は二つ返事で引き受けると、俺を見つめて聞いて来た。 「この…グルンってのは…どうやるの?」 彼にお手本を見せる為にポールに乗ると、俺に笑顔を向けるあの子にウインクして言った。 「この時、ポールを挟んだ膝からこっちの腕の方に意識を移して、思いきり体を乗せて回すんだ。その時、膝にはポールは触れてない。どう?分かる?」 俺がそう言ってお手本を何度かすると、シロは首を傾げて言った。 「…多分…」 十分だ。 「勇吾?曲を一度聞かせてよ…」 そう言うとベンの渡したヘッドホンを耳に付けて、音楽を聴きながら、俺の渡したポールの構成表に目を落とした。 彼の好きなロックじゃない、バレエ曲でもない…クラシックの曲。 もしかしたら、初めて聞く曲かもしれない。 いつもと違う、テンポの無い様なこの曲を、お前ならどうやって踊るの? ジッと目を落とす彼のうなじを見つめて…細くて白くて滑らかな肌にムラムラしながら、彼が納得するまで曲を聴かせる。 「…綺麗な曲だね。…特に、最後が美しい…」 シロは笑顔になってそう言うと、ヘッドホンを外してポールに手をかけた。 そして、ベンが流し始めた曲に合わせて、体をポールへと持ち上げていく… 「あぁ…良いね…」 そう、まるで…俯瞰して見えている様に、彼は魅せ方を知ってる。 体のしなり方から、手足の伸ばし方まで…それは計算された、美しさだ。 「ワオ…シロ…」 仕事をさぼったケインがポールを踊るシロに見惚れて足を止めると、わらわらと集まった他のスタッフもシロの演舞に目を奪われる。 初めて踊ったとは思えない… 初めて聴いたとは思えない… まるで、前からこの曲と、この構成を知っていた様に…迷いなく踊り上げていくシロに心が震えていく… シロはあの時のスランプを経て、俺の知ってる頃よりもずっと上手になっていた。 確実に力を付けて、表現の幅がぐっと増えたんだ。 「凄いぞ…」 ポツリとそう呟くと、自然と口元が緩んでいく。 あぁ…! どうして、この子はこんなに…俺の理想と相性が良いんだろう。 俺が魅せたい物を、シロは無理なく…表現して魅せてくれるんだ。 まるで俺の為のお前みたいな…唯一無二の存在価値を感じるんだよ。 シロ… 「とっても、綺麗だよ…」 うっとりとあの子を見上げてそう言うと、シロは伏し目がちにほほ笑んで、美しく体を反らしていく。 あぁ…!! 最高のタイミングで音楽と彼の体の動きが合わさっていく様子に…ぞくぞくと鳥肌を立てて…体中で感動する。 曲のクライマックスをさっき教えたばかりの大技を使って決めると、まるで夕方になって花びらを閉じる花たちの様に…体を小さく縮こませてつぼみになった。 「ブラボーーー!」 ベンがそう言って拍手をあの子に贈ると、美しい表情をケロッと一変させて、にっこり微笑みながら元気にポールを下りてくる。 あぁ…なんて、可愛い子。 「この曲はなんて曲?気に入った。」 そう言って俺の体に抱き付くと、顔を見上げて来るあの子が可愛くて…手のひらで髪を撫でながら教えてあげた。 「アダージェットだよ…とっても美しかった。ねえ…どこか踊り辛い箇所はあった?」 「ない!」 ふふ…! 「本当に、シロは見事に踊る。他のダンサーも彼の様に踊れると良いけど、特にクライマックスのここは…難易度が高そうだ。」 いつの間にか現れたショーンがそう言って、構成表を指さして言った。 「シロは柔軟性が高いうえにバネがある。だから、このスピンも美しく流れていく。でも、他のダンサーの子達は、体のバネじゃなく自前のパワーで回って踊る子もいる。彼らにこの動きは難しいかもしれない。」 確かに… 音楽担当のベンはすっかりシロに夢中になって、ヘッドホンをあの子の頭に乗せて音楽を聞かせまくってる。 …お前が“細かい部分を詰めたい”と言うから、シロに踊ってもらったのに… 何の意見も何の見解も無いまま、彼はシロにデレデレに鼻の下を伸ばして、彼の真っ白な肌を見つめてる。 ダメだ! 「シロ?おいで?」 俺はそう言ってあの子を腕の中に隠して、視姦する男どもから守った。 ここは、危険だ! 「今日はもうお終い。疲れたから、ご飯を買って帰ろう。」 俺がそう言うと、シロはにっこり笑って言った。 「じゃあ、オレはホテルに戻る。」 …なぁんで!? そんな気持ちを察せられないように、落ち着いた雰囲気を保つと、壁に腕を突いて、リュックに荷物を詰め込むシロを見下ろして言った。 「ど、ど、ど、どうして?勇ちゃんのお家に一緒においで?」 あの子は俺を見上げると、肩をすくめて言った。 「ダメだ。だって、ホテルに桜二を置いたままだもの…」 は…? 桜ちゃんが来てるの? それは、聞いてないよ… 血相を変えてしゃがみ込むと、シロの手を掴んで、あの子の顔を覗き込んで聞いた。 「桜ちゃんが…来てるの?」 「あふっ!違う…桜二の、スーツケースが…ホテルに置きっぱなしなんだ。」 あの子はそう言うと、ケラケラ笑って俺の手をどかしてリュックのチャックを閉めた。 なんだ… シロが“桜二”と呼んでいるのは、桜ちゃんのスーツケースの事みたいだ。 …良かった。 「…じゃあ…勇ちゃんがシロのホテルに一緒に行っても良い?」 ほころんでいく顔をそのままに、あの子の顔を覗き込んでそう聞くと、シロはにっこり笑って言った。 「うん、良いよ?」 なんだ、簡単じゃないか。 …俺が、行けば良かったんだ。 「シロ~!バイ~!」 すっかりうちのスタッフと打ち解けたあの子にたじたじになりながら、車の助手席のドアを開いて言った。 「シロ、乗って…」 まさか、この子を自分の車に乗せる日が来るとは思わなかった。 まさか、この子が、俺に会いに来てくれるなんて…思わなかったんだ。 それは嬉しい様な、恥ずかしい様な…不思議な気持ち。 助手席に何度も乗り損ねるシロのお尻を押し上げると、運転席に座って車のキーを探す。 「勇吾の車は大きいね。上るのに一苦労だよ…。あっ!ペンギン!」 そう言って満面の笑顔になったあの子の視線の先には、俺の手に持たれた…車のキー。 そう…俺の車のキーには…シロがくれた“すみだ水族館”のお土産。 ペンギンのキーホルダーが付いてるんだ。 「ふふ…良いだろ?可愛い子がくれたんだ。」 俺がそう言って見せびらかすと、シロはクスクス笑って言った。 「うん。とっても可愛いね。」 車に乗る度にあの子の面影を思い出しては…目を逸らして、それでも外さずつけ続けた。ある意味…俺の最後の砦の様な存在だった…ペンギンのキーホルダー。 お前を握るも、見るのも、もう…怖くないよ… キーを差し込んでいつもの様にエンジンを掛けると、可愛いシロを乗せて…彼が宿泊するコンノートホテルまで車を走らせる。 「勇吾?道路が逆だと変な感じだね?だって、日本ではこっち側は向こうへ行く車が走る方だもの。あべこべになってるみたいな感じがして、混乱するよ。」 そんな可愛い事、言って…きっと俺を誘ってるんだ。 シロの言った通りに、真司のご両親に電話して彼の状態を説明した… 彼の母親は、もともと有名なバレリーナだった。幼い頃から将来、バレエを生業に出来る様に…イギリスに移住までして熱心に彼を教育した。 彼の姉弟、姉2人もバレリーナとして、フランスの地で現役で活躍している… 俺の突然の電話に彼の母親は戸惑った様子を見せた。でも、もともと繊細だった真司が…プリンシパルの大役にプレッシャーを感じていた事も知っていた。 精神的にバランスを崩す可能性を否定はしなかった。 俺が真司に出会った3年前…彼は既に立派なバレエダンサーで、ロイヤルバレエのプリンシパルになったばかりだった… 可愛らしい面持ちとは裏腹に、彼の攻撃的な性格が際立って印象的だった。 俺はそれを…アグレッシブな性格だと思っていた。 それが彼の性格だと思っていたんだ。 でも…もしかしたら、その時点で彼は不安定になっていたのかもしれない… 血統書付きの様な家庭で、当然の様に習わされたバレエ。 辞める事なんて選択肢にも無い。 踊り続ける事しか…未来がない。 移住までして、一家の期待を一身に受けて…叩き込まれて成長した。 そんな環境の彼がプリンシパルになるのは、当然なのかもしれない。 それはすべてを犠牲にした上の…当然の報酬だった筈。 でも、彼はそれに…プレッシャーは感じても、価値を見出せなかった… 俺みたいな…斜めに生きる男に執着して…俺が浮気しても、俺が放ったらかしにしても、俺が邪険にしても…彼はいつも傍に居た。 まるで…自分の居場所を俺に見出したみたいに。 俺の隣にいる時だけ自分の本音を出せるのか…アグレッシブで、わがままで、狂暴だった… だからかな…別れを告げた時、あんなに取り乱してしまった… 彼の繊細な心を傷付けて、唯一の居場所を、取り上げた。 「勇吾?あの建物は何?すごいね…?」 「ん?あれは…バッキンガム宮殿だよ…」 「うわ~…めちゃくちゃ強そうな名前…バキバキ…」 ぷぷっ! 窓に顔を付けて楽しそうに外を眺めるシロを見つめて、いつも隣にいた、真司を思い出す… 俺は…あの人を愛していたのかな… 気が強くて…怒りっぽくて…どこに発火点があるのか分からない人。 ただ、バレエを踊っている時の彼は…何よりも美しくて、何よりも輝いていた。 彼の、アグレッシブさを…俺は、嫌いじゃなかった。 愛していた… 「勇吾…どうしたの…?」 そう言って俺の頬を撫でるシロを見つめて、言った。 「シロ…俺は、真司を…愛してたよ。」 俺のその言葉に、あの子は瞳を細めると俺の頭を撫でて言った。 「じゃなかったら…一緒に居たりしないよ。」 ふふっ…そうだね… その通りだ。 いつの間にか溢れた涙が頬を伝って落ちていく。 あの子はそれを止める事もしないで、ただ静かに見守ってくれる。 彼といた時間も、別れを拒絶する彼に恐怖を抱いた時間も、諦めて彼の言う通りに過ごした時間も… 心のどこかで…真司を愛している気持ちが存在していたのかな… それが…人の弱さで脆さで…儚さなのかな… 「…着いたよ。」 彼の宿泊するホテルに着いて、あの子の後ろを歩いて部屋まで一緒に向かう。 こんな高いホテルを取るなんて…さすがビースト依冬だ… 「依冬君に電話して、もうチェックアウトするって伝えなよ…」 部屋に付くと、すぐにシロを抱きしめてそう言った。 あの子はスーツケースからヨレヨレのTシャツを出すと、ギュッと顔に押し当てて小さい声で言った。 「桜二…桜二…」 あぁ… 俺がいるのに、この子は隠しもしないで桜ちゃんへの恋しさを表現するんだ。 俺の物にならない…シロ。 桜ちゃんと依冬君を愛した上で、俺を愛してくれる…シロ。 それが…辛い。 東京にいる時、俺のこの独占欲がこの子を大変な目に遭わせたと言うのに…燻った気持ちを無視する事が出来ないんだ。 物理的に離れているせいかな…? 桜ちゃんと依冬君と楽しそうに暮らしているのを聞いて、俺だけ、愛されていない気持ちにしかならなかった。 だから…彼のメールも電話も、手紙も…虚しくて、拒絶した。 真司が俺の携帯電話を持つ事で、シロのすべてをシャットアウトした事は、もしかしたら俺の本望だったのかもしれない… 真司の方が…自分を愛してくれていると…未だに思えてしまうよ… でも、彼といると…とっても疲れるんだ。まるで、毎日献血に行ってるみたいに…体から力が失われて行く。 周りで笑っていた友人も、次々と俺に近づいて来なくなって、いつの間にかひとりになった… きっと彼の愛は…俺を破滅にしか導かない…そんな、愛だったんだ。 でも…心から求める愛する人は、他の男と暮らして…俺を孤独にするんだ。 愛の輪から外れた…外野の男。 シロ…俺にそんな風に思わせないでよ… もう、二度と、愛されていない気持ちにさせないでよ… 我慢できないよ。こんな仕打ち… お前が俺を愛していないなんて…もう、思いたくないんだ。 「シロ…?勇ちゃんと結婚しよう。」 俺がそう言うと、あの子は首を傾げて言った。 「男と男は結婚できないよ、馬鹿だな。」 馬鹿…? ふぅん… ベッドメイキングがされたベッドにゴロンと寝転がると、桜ちゃんのTシャツをスーハーするシロの背中を眺めながら言った。 「東京で…3人で暮らしてるんだろ?四六時中一緒だ。楽しそうだね。俺は?…俺の事は考えた?」 俺の言葉に、シロは桜ちゃんのTシャツを鼻から離すと俺をじっと見つめて言った。 「…勇吾も一緒に住む?」 「勇ちゃんは東京には住まない。でも、お前たちは東京で3人、仲良く暮らしてる。まるで勇ちゃんは要らないみたいだ。」 眉間にしわを寄せてそう言うと、シロは悲しそうに眉を下げて俺の隣に来て言った。 「…そうなの?そんな風に思ったの?」 「そうだよ…、そして、嫌になったんだ。」 分かってるよ…こんな風にこの子を詰っても仕方がない事くらい、分かってる。 それでも燻った気持ちを止める事が出来ないんだ。 シロは俺の膨れた頬を撫でると、顔を覗き込む様に身を屈めて言った。 「嫌にならないで…勇吾。あなたを愛してるんだ。」 「うん…」 こんな風に言われると、一瞬でコロッとそう言ってしまう。 でも…燻った物がなくなった訳じゃない。 まるでしつこく根に持つ駄々っ子の様に、いつまでも落としどころが見つからないこの思いを…どうしたら良いのか、自分でも持て余すんだ。 …そして、俺はひとつの結論を導いた。 お腹が空いたシロを連れてホテルの外へ行くと、夕飯を取って、その後、彼が行きたがっていたパブへと向かった。 「イギリスではシビルパートナーシップって言って、同性婚と同じように…パートナーとして公的に認める制度があるよ。それだったら、シロと勇ちゃんは結婚できるよ?」 俺がそう言うと、シロは困った様に眉を下げて言った。 「なぁんで結婚なんてしたがるんだよ。分からないよ。そういうの…」 何で?って… それは、お前の1番でいる為だよ… 俺の手を握ると、シロは真剣な表情で首を傾げながら言った。 「陽介は結婚式で永遠の愛を誓ったけど、あっという間に離婚した。奥さんだった人は可愛いロメオを置いて新しい男の所へ行った。結婚なんて、なんの保証も確証も無い。形だけのものだよ?」 そうかな…俺はそう思わない。 雰囲気のあるパブに入ってカウンターに座ると、店員にビールを注文してシロを見つめる。 あの子はパブの雰囲気を楽しそうに見渡して、ホクホクの笑顔を見せる。 可愛い… 店の奥ではフットボールの中継が流れて、ガラの悪い男たちが大騒ぎする。 彼らはフットボール…所謂サッカーが、大好きなんだ。 後はフィッシュアンドチップスと…ビネガー!それさえあれば朝まで騒ぎ続けるんだ。 店内の荒れた雰囲気にビビり始めたシロが、俺の腕を突いて言った。 「勇吾?ビールを飲んだら、ストリップバーに行こう?それが終わったら…」 「シロ。勇ちゃんと結婚してよ。」 ここには、桜ちゃんも依冬君もいない。 しばかれる心配もなく、シロに何度も求婚出来る。 俺の思い通りになるまで…何度でも言い続けてやる。 シロは俺をジト目で見ると、諦めた様に眉毛を下げた。そして、ため息を吐きながら困った顔をして言った。 「良いよ。」 は…? 俺はあの子の髪を指先で摘んだまま、固まって動けなくなった。 まじで…? 「…じょ、じょ、じょ、冗談だと思ってる?」 やっと動き出した頭をフル回転させて、動揺を察せられない様にそう言うと、手元のビールをぐびぐびと飲み干した。 「えぇ…?ん、もう…どっちなんだよ…」 シロはそう言うと、首を傾げて肩をすくめた。 どっち…? どっち…? 仕事の関係で面倒が多かったので、ずいぶん前に日本国籍を捨ててイギリス国籍を得てる。 ここに住んで、ここで死ぬ覚悟でそうした…だから、俺が望めば同性婚も可能なんだ。 ガクガクと首を不自然に回しながらシロを見下ろすと、あの子は店の奥で大騒ぎをする男たちを怯えながら見ていた。 「シロ…店を変えようか…?」 そう言ってあの子の手を取ると、カウンター席を下りて店の外へ出て深呼吸する。 あれ。おかしいな…胸がドキドキする。 俺が結婚して?と言ったら、この子は良いよ?って言った… その真意は分からない。でも、良いよって言った。 どうせ出来ないと高をくくってそう言ったのか…それとも、本当に…そうしても良いと思ったのか… 桜ちゃんと、依冬君がいるのに、俺と本気で結婚して良いと思ったの…? 悶々とした気持ちを抱えたまま、シロが希望したゲイのストリップバーへ向かう。 ストリップ公演の演者を探すため、何件も通った。俺はきっと、ロンドン中のストリップバーを熟知してる。 「わあ!良いね!見てよ。このポール!」 店内に入ると、シロは店の雰囲気に興奮して、満面の笑顔になってそう言った。 「この席に座ろう?」 そう言って座ったのは、シロの店とは違う、客と同じ目線の高さに備え付けられたポールを囲むように置かれた席のひとつ。 「うわぁ!この高さで見れるんだ!下手したらダンサーに蹴られるね?」 そう言って体を揺らして喜ぶシロに、店のチップを渡して言った。 「…口じゃなく、手で、渡すんだよ?」 「はぁい!」 ふふ… さっきとは違うイキイキとした表情を見せて大はしゃぎする彼に、目じりがどんどん下がっていく。 荒々しいフットボール大好きっこのオヤジがいるようなパブよりも、ストリップバーの方が、きっと、彼には慣れた雰囲気なんだ。 この店にはステージなんて物はない。 常時ストリッパーが気ままにポールの前に来て、気ままに踊ってチップを貰っていくスタイルだ。 だから、照明が変わる事も無いし、専用の音楽が流れる訳でも無い。 そうこうしてると、シロの目の前にストリッパーが表れた。 「あぁ!来た!」 そう言ってチップを固く握って、ニコニコと満面の笑顔をするあの子を見ると、ストリッパーはクスッと笑って踊り始めた。 見る側に回ったシロを見れるのは…俺だけだよ。 そうだろ? 桜ちゃんも依冬君も、誰も、お前とストリップバーになんて行かないだろ? 「あぁ…!上手だね?見て?勇吾。きれいだ…」 そう言って満面の笑顔を見せるシロの頬を撫でて、さっきの問答を思い出した。 もう二度と、この子に愛されてないなんて、思いたくないんだ… その為に出来る事なら…俺は何だってする。 俺を無理やり繋いだ真司の様に…この子の足に枷を付ける事だって…厭わない。 「すみません、あの、勇吾さんですか?演出家の?」 店のオーナーに声を掛けられて、握手をしたり、世間話をしたり、写真を一緒に取ったりしていると、シロが俺を見て言った。 「勇吾?オレとも写真を撮ってよ…有名人なんだろ?桜二に自慢するから撮ってよ。」 ふふっ! シロはそんな事しなくても…俺の心を持ってるのに… 「良いよ?」 そう言って彼と一緒に写真を撮ると、シロは首を傾げて言った。 「ん~…映りが良くない。もっちょっと目が大きい筈なのにな…」 ぷぷ~っ! 俺はお前のその目が好きなんだ。 切れ長で美しい瞳。 二重の瞼が伏し目がちになった時に醸し出す妖艶さは、背筋をゾクゾクさせる程美しいんだ。 大きければ良い物なんて無い。全てはバランスと醸し出す雰囲気だ。 「シロのその瞳が…俺は大好きだよ。」 そう言ってあの子の前髪を撫であげると、シロは惚けた顔をして俺を見つめた。 可愛い… あんなにお客を挑発する様に踊る癖に、まるで…無垢な生き物の様な反応をする。 そんな時、堪らなく愛おしくなるんだよ。 「ねえ!あんたって、ストリップの舞台を公演して荒稼ぎしてる人でしょ?人のふんどしで稼いでおいて、還元しないってのは頂けないね?チップを寄越しなよ!」 そんな攻撃的な声を掛けて来た派手なストリッパーに驚くと、シロの手の中のチップを取ろうとあの子の手に手を伸ばした。 「だ~めだ。まず、踊ってサービスしてから貰うんだよ?」 シロはそう言うと、派手なストリッパーを見つめて首を横に振った。 そんなあの子の声と視線に、派手なストリッパーが食い付いて言った。 「は?ジャップの癖に文句でもあるの?」 「勇吾?この子に伝えて?チップは踊ってから貰うもんだよ?って…。それに、人種は関係ない。エロさは、万国共通だ!」 あはは!面白い事を言うんだ。 俺はクスクス笑いながら派手なストリッパーの子にそれを伝えた。 「はぁ!?」 そう言ってムスッと頬を膨らませると、派手なストリッパーはシロの目の前のポールに立ってあの子を見つめて中指を立てた。 「あ~はっはっは!!」 同じ職業だからかな…?それともシロの肝が据わってるだけかな…? 彼は中指を立てられても全然平気みたいだ。 こういう所が…良いのかな。 シロは曲者のモモとも馬が合いそうだった。 人を絆す能力が高いんだ。だから、ケインも… 「きゃーーー!エロイーーー!」 両手でほっぺを押さえながら、目の前のストリッパーのセクシーダンスに大喜びをするシロを見つめて一緒になってはしゃぐと、あんなに悪態を吐いていた派手なストリッパーもまんざらじゃない様子になって、大喜びするシロにウインクのサービスをした。 「あ…!」 興奮しすぎたんだ。 何を思ったのか、シロは口にチップを咥えると、背の高い小さなテーブルに体を乗せてのけ反りながらストリッパーへチップを差し出した。 「まったく…」 彼のぶれない体幹は…こんな時にも美しくポーズをキープして、受け取りに来たストリッパーの笑顔を奪って行く。 ほらね…もう、この派手なストリッパーの子は、シロに魅了された。 「ねえ、連れの子ダンサーなの?踊ってみせてよ。」 そんな声を他のストリッパーから掛けられて、愛想笑いをしながら、あの子に伝えるべきか悩む。 だって、もし、シロがここで踊ったら…店内の男という男が、気がおかしくなるんじゃないかって…本気で心配なんだよ。 「カモーン!」 派手なストリッパーはポールに掴まりながらシロに手を伸ばすと、握り返したあの子の手をポールまで導いていく… 「勇吾、持ってて~!ふふ~!」 そう言ってコートを俺に渡すと、シロは派手なストリッパーの子と入れ替わる様に目の前のポールに体を持ち上げて絡ませた。 「フォーーー!見事なアプローチだ!」 いつの間にか隣に来た店のオーナーがそう言って、シロのポールダンスをまじまじと見つめて言った。 「勇吾さん、この人は、あなたの公演に出るの?すごい軽やかだ。重さが全くない。」 いいや、あの子は58キロある。 いつも持ち上げてる俺が言うんだ。間違いない。 重力を全く感じさせない様に、上手に体を動かす技術が高いんだ。 「勇吾?見て~?写真、撮って~?」 楽しそうにそう言いながら、シロはイギリスのストリップバーで本格的に踊り始めた。 「ワ~オ!」 そう、ワオな美しさだろ? …この子は、俺の物だからな。 「フォーーー!トーキョー!クレイジーボーイ!」 シロがスピンを華麗に決めると、どこからともなく彼の異名が聞こえた… 男性のストリップダンサー自体少ないからかな… 一度上がってしまったYouTubeの彼の動画は、こんな店に通うニッチな層に知れ渡っている様だ… 「ねえ!また、公演するんでしょ?この人も出るの?ねえ?だったら、見に行こうかな…。すっごいカッコいいじゃん!気に入った!ファンになった!フォーーー!シローー!」 派手なストリッパーはそう言うと、自分が貰ったチップをシロに差し出した。 「あふふっ!ギブアンドテイクだね?」 ぷぷっ! シロはそんな面白くない事を言うと、上手にチップを掠め取って派手なストリッパーををことごとく魅了した。 あぁ…お前は本当に…最高だ! あっという間にあの子のポールの周りに人だかりが出来て、華麗に踊るあの子を見上げて一様に感嘆の声をあげる。その中に、店で働くストリッパーの姿を見て、口元が緩んでいく… 彼らにとったら、なに人の店で勝手に踊ってんだよ!って怒るべきところ…すっかり見入ってしまってるんだもの。おかしいよね…。 あまりに華麗に踊るから、圧倒されるんだろうね。 シロは美しく鋭い大技を決めて、拍手と歓声を受けてご機嫌だ。 こんなにご機嫌なあの子を…見逃す訳にはいかない…! 「よし…」 俺は椅子から立ち上がると、自分の小指に付けたリングを外してポールのすぐ傍まで行った。 俺の登場に…周りのお客も、ポールの上で俺を見下ろすシロも、キョトン顔をする。 そんな事構わないさ。 俺はシロを見上げて跪くと言った。 「とっても可愛い俺のシロ…心の底から愛してるんだ。あなたを束縛して、独占する為に、俺と結婚して下さい…」 指輪を持った手を見える様に掲げると、顔を伏せてシロの返事を待った。 辺りがシンと静まる中…誰かが動画を撮影する、ピコン…という音が聞こえた。 派手に振られて、YouTubeで拡散される未来を予想して、覚悟を決める。 スルスル…と、シロがポールを下りてくる音が耳に聞こえると、次の瞬間、あの子の優しい声がすぐ傍で聞こえて俺に言った。 「…もう、結婚なんて意味が無いのに…勇吾はバカだ。でも…それで、あなたが安心出来るなら…良いよ。」 白くて優しい手が俺の頬を包み込んで顔を上に向かせる。 目の前に眉を下げたあの子の笑顔が見えて…俺は堪らず泣きながら言った。 「ほ、ほ、本気だよ…?」 「ふ~ん…」 そう言ってムカつくひよこの顔を俺に見せると、首を伸ばして俺の唇に、チュッとキスして言った。 「…オレも、本気で言ったよ?」 あぁ…! 神様、この時をどうもありがとう! あの子の気が変わらない内に、鼻をすすりながら、細くて白い手を取って左手の小指にリングを差し込んだ… 「フォーーーー!!」 大盛り上がりを見せる、この店のお客が…俺達の立会人だ。 これは決してお遊びのプロポーズじゃない。 …本気の、それだ! 「おいで…」 そう言って手を差し出すと、シロは両手を伸ばしてポールから俺に乗り移った。 「フォーーー!コングラチュレーションズ!!」 そんな歓声を受けながら、両手に抱きしめたあの子に何度もキスする。 俺はこの子の旦那さんになった。 今日から。いま、この時から。 「シロ…俺達は新婚さんだ。」 「あ~はっはっはっは!」 俺がそう言うとシロは馬鹿笑いしながら、お客から貰ったチップを、惜しげもなく店のストリッパーに渡して行った。 その豪気な様は…金持ちの奥様だ。 ホテルに戻って、ポチポチと携帯電話を弄る彼の手元を覗き込んで言った。 「俺たちは新婚さんだから、今夜が新婚初夜なんだよ?」 「ふふ…待って、桜二が怒ってる。」 シロはそう言うと、俺と一緒に撮った写真を送信した後の桜ちゃんのメールを見せて言った。 “早く帰って来たら良い” たった一言のメールで、桜ちゃんが怒ってるって分かるの? 「怒っちゃった。ふふ…可愛いだろ?」 全然… 別の男にテレビ電話を開始したシロを置いて、一人先にシャワーを浴びる。 ふん… 今、シロの傍に居るのは俺なんだ。そして、俺はあの子の夫になった。 明日、パートナーシップの届けを出してしまおう。 既成事実を作って、ぐうの音の出ない状況にしてやろう。 どうせ、東京に帰れば…シロは、彼らの腕の中に戻るんだから… シロの持参したふわふわのスポンジで体を洗うと、浴室の外からあの子の笑い声が聞こえてくる。 もう…! 適当に体を拭くと、濡れた髪のままシロの体を抱きしめて言った。 「お風呂に入っておいでよ…シロ。チュチュチュチュ~!」 「なんだ、元気になったのか…廃人になって死んだら良かったのに!」 そう言って笑う桜ちゃんは、冗談で言ってる様には見えなかった。 良いんだ、彼は真正のどクズだからね。 「明日からシロは俺のお部屋にお泊りするから、ビースト君に伝えておいてよ。この高価なホテルも、もう必要ないんだ。なぜなら、勇ちゃんのお部屋に行くからね?」 着替えを持ってシャワーへ向かうシロの足をナデナデしてそう言うと、画面の奥の桜ちゃんを見下ろして鼻を鳴らして言った。 「今日は俺がこのホテルにお泊りするんだい!」 彼は同じ様に鼻で笑うと、寝起きの目を擦りながら言った。 「なあ。勇吾…。あの人をうんと褒めてあげてよ…。1人で、お前の所まで行ったんだ。ずっと、心配していた。でも、行く勇気が持てなかったんだ…。なあ、シロと離れて過ごして、お前の辛かった気持ちが少しだけ分かった気がするよ…。あの子はお前を愛してる。だから、会いに行ったんだ。褒めてあげて…。とっても、頑張ったんだ。」 …なんだ。随分と優しいじゃないか。 俺はタオルで頭を乾かしながら、画面に映る桜ちゃんを見て言った。 「分かってる。シロが俺を助けてくれた…。どうしようもない俺に喝を入れて…目を覚まさせてくれた。あの子は俺の仲間ともすぐに打ち解けて…今ではアイドルになってる。ふふ…。美しいポールダンスを見せて、俺の心に湖を作った…。」 遠い目をしてそう言うと、桜ちゃんは首を傾げながら言った。 「湖は分からないけど…。良かったよ。お前がまた元気になって…」 桜ちゃんが俯いて目元を拭った姿を見て、固まった… え… 泣いてるの…? どクズの桜ちゃんが、俺を心配して…泣いた。 それが、何よりも衝撃的で…嬉しかった… 「ずっと…会いたくて、でも、会えなくて…辛かった。別れを告げた恋人が、なかなか納得してくれなくて…舞台で踊るストリップダンサーを故意に怪我させたんだ…。俺が彼の気持ちに応えれば…全て丸く収まると思って…そうした。まだ、彼を、愛してる気持ちが残っていて、それをシロに言ったら…はは、あの子は俺を見て言ったんだ。そうじゃなかったら一緒に居ないって…ふふ。」 ボロボロと涙を落としながら俺が言うと、桜ちゃんはクスクス笑って言った。 「シロらしい…」 そう…シロはそうなんだ。 決して否定しないんだ…どんな感情を抱いても、否定しないで、全てを上から包み込んで、そのままを愛してくれる。 「シロには明日からダンサーの技術指導をしてもらうんだ。あの子の体捌きは見事だからね…力の使い方や、逃がし方…それをレクチャーしてもらうんだ。きっと、ダンサー達はもろ手を上げて喜ぶはずだ。実力社会で生きてく者は、より高い技術を求めてる。自分のスキルが上がるチャンスをいつも狙ってるんだ。」 「シロ~?」 俺が真面目にそう話していると、腑抜けた声を出して画面の向こうにビースト君が顔を覗かせた… タオルで髪を乾かす俺と目が合うと、一気に顔を歪めて言った。 「あ…なんだ、勇吾さんか…嫌なもん見ちゃった…」 「依冬~!」 シャワーから上がったシロが、ビースト君の声を聞いて、俺の膝の上に飛び込んで来て言った。 「依冬?聞いて?オレはね今日やったんだよ?勇吾をぶっ飛ばしたんだ。ふふっ!すごいだろ?その後、ラーメンを食べに行って、久しぶりに美味しいご飯を食べたんだ。で、さっき、こっちのストリップバーに行った。ダンサーの子達はとっても良い子だった。勇吾の公演で踊る子達も、とっても良い子だった。」 シロの太ももをナデナデしながら、画面の向こうの依冬君と睨めっこをする。 俺を、トロンと垂れた瞳で見つめて来るけど、その穏やかそうな瞳が狂犬だって…俺は知ってるよ。 「ぶっ飛ばしたら正気を取り戻したの…?ふっ、単純だな…。じゃあ、もう明日返ってくる?チケットを取るね。だって、もう用は無いでしょ?」 ほらね? こうやって言葉の暴力を振るうんだもん。これは間違いない。桜ちゃんと同じ血だね。 「まだ…まだ、やる事がある。それが終わったら帰るね。明日から勇吾の部屋に泊まる事になったんだ。だからここは今日までで良い。依冬?お土産何が良いか決めておいてね?」 「シロが帰って来てくれるなら何も要らないよ…早く抱きしめさせてよ…。寂しいんだ。もう…泣いちゃうよ…?」 シロと離れて1週間も経っていないのに…彼らは俺よりも弱くて脆いじゃないか… 心の中でこっそりそう馬鹿にすると、俺の膝に体を乗せていたシロが顔を見上げて言った。 「勇吾は…ずっと、独りぼっちだったよ。」 その、あの子の声に…言葉に、ジンと胸が熱くなって…苦しくなって… 涙がトロリと落ちた。 「シロ…」 俺がそう言うと、あの子は俺を抱きしめて言った。 「ごめんね…ごめんね…!勇吾、愛してるんだよ…。でも、オレは酷い扱いをした。あなたの我慢強さに甘えていたんだ…。もっと早くに…勇気を出して会いに来れば良かったって、ずっと後悔してる。こんなに傷付けてしまって、ごめんね。どうか、オレを許して…だって、あなたを心から愛してるんだ。」 あぁ…! それは俺が一番聞きたかった…あの子からの謝罪と、愛の言葉… あぁ、俺はこの子に…謝って欲しかったんだ。 ずっと耐えて来たこの状況を…後悔して欲しかったんだ…。 そして…俺の心がトロける様な、愛を、伝えて欲しかったんだ… テレビ電話の通話を勝手に切ると、シロを抱きかかえてベッドに沈める。 腕の中のあの子は優しく瞳を細めて、涙を落してる。 「…泣かなくて良い…」 俺はそう言うと、あの子の唇にキスをして、舌を伸ばして絡めて吸った。 シロはしゃくりあげる様に体を揺らすと、俺の背中を優しく撫でて抱き寄せて言った。 「勇吾…勇吾…強い男だね、勇吾は強かった…!」 そう。俺は強かった… 桜ちゃんや依冬君が…ピーピー泣く時間の、何倍も…シロと離れて居たんだ。 「シロ…愛してる…」 あの子の首筋にキスして、仰け反る顎から指を撫で下ろして胸を撫でる。 「とっても…綺麗なんだ。」 うっとりとあの子を見下ろして、涙を流し続ける目元にキスすると、優しく頭を撫でて言った。 「…ここまで、ひとりで来たの?シロはとっても、頑張ったね…」 その俺の言葉に、シロはどんどん顔を歪めると大粒の涙をボロボロと落した。 「うっうう…勇吾ぉ…勇吾…!うぅううわぁん…!」 まるで、ずっと我慢していたかの様に…ひたすら俺にしがみ付いて泣くんだ。 それが…とっても…愛しくて、堪らなかった… 「怖かったね…心細かったね…なのに、勇ちゃんがポンコツでやんなっちゃったね…」 「うん…うん…うん…!」 泣きながら俺の唇にキスして、泣きながら俺の首に手を掛けると、泣きながら自分の体に沈めて俺の体を両手で抱きしめた… まるで誰にも渡さない様に…逃げて行かない様にする様に強く抱きしめて言った。 「も…もう、もう!」 そう言ってフンフン言って怒るんだもん…可愛いよね。 「勇ちゃんが大事?」 あの子の顔を覗いてそう聞くと、シロは顔を真っ赤にして泣きながら言った。 「うん…!だめなの…!だめなの!勇吾はオレの物なの!誰にも渡さないの!」 ふふっ… いくら大人を気取っても、これがきっと、この子の本心だ… わがままで、自分勝手。 でも、それが、堪らなく…嬉しい。 シロは頑張って俺を助けてくれた… 避けて、嫌がって、拒絶して、傷付ける言葉を投げかけた俺を…全て、丸っと飲み込んで…自分を傷付けながら守って助けてくれた。 勇吾…丹田に気合を入れろ…ふふ。 …このシロが言った“丹田”という言葉が、仕事仲間の間で流行ってる事は…彼には内緒にしておこう。 「シロ…愛してる。」 何度も愛を囁いて、可愛い腕の中のこの子を安心させてトロけさせよう。 俺の為に、こんなにも頑張ってくれたこの子の為に、堪らなく甘い快感をあげよう。 シロの胸にキスしながらあの子の腰を撫で下ろして、細くてしなやかな腰を何度も撫でると、あの子は俺の髪をワシワシと撫でながら言った。 「勇吾…あっ、あぁ…もっと舐めて…」 ふふ、良いよ。だって甘くて大好きなんだ。 シロの可愛い乳首をねっとりと舌で転がすと、乳首が弱いこの子は、すぐに体を仰け反らせて気持ち良さそうに可愛い声を聞かせてくれるんだ。 堪らないだろ… 頭の中がクラクラするくらい…甘くて、濃厚で官能的なんだ。 「ふふ…こんなに大きくして…ねえ…シロ、勇ちゃんに、どうして欲しいの?」 俺が意地悪くそう聞くと、あの子はウルウルした瞳で俺を見つめて言うんだ。 「勇吾…綺麗だ…」 あぁ…! シロ…お前のためなら何もかも捨てて…たこ焼き屋にだって…なれるよ。 愛してるんだ。 とっても、身を焦がす程に…お前でいっぱいなんだよ。 堪らずあの子の唇にキスすると、吐息と一緒に何度も、何度も、言った… 「愛してる…愛してるよ…」 勇ちゃんは、もう止まらないよ…シロ。 だって…お前の愛が沢山俺に注がれてるって…分かったからね。 シロの足の間に体を沈めると、しなやかで弾力のある太ももを抱え込んで顔を沈めていく。 勃起してビクビク震えるあの子のモノを下から上へと舐めて、トロトロの液を漏らすあの子のモノをてっぺんからゆっくり口の中に入れていく。 「ん~~!勇吾…あっああ…気持ちい…んんっ!」 堪らない。 ねっとりと口の中で扱いて、あの子の仰け反る体に立った乳首を指先で摘んで、いやらしく捏ねる。 「はぁあん!勇吾、だめぇ…イッちやう…イッちやうの!ん~、はぁはぁ…だめぇ…ん…!」 遊び心のあるシロは、エッチの時だけ逆さ言葉を使うんだ。 ダメ…は、もっとって意味なんだよ? 体をねじ込ませてシロをがっちりホールドすると、もっと気持ち良くなるようにあの子のモノを手で一緒に扱きながら、あの子の乳首を意地悪く強く摘んだ。 「あっああ!らめぇ!イッちやうの…!勇吾、勇吾…!ん、あぁああん!!」 腰をびくびくと振るわせて可愛くシロがイクから、俺はあの子の乳首を美味しく舐めながら指をあの子の中に入れていく。 「はぁはぁ…イッたばっかなの…だから、んんっ…はぁはぁ…だめ、だめぇ…」 堪らない。 「なぁんで…もっとしたいでしょ?勇ちゃんはもっとシロを虐めたいの…気持ち良くして虐めたいの…」 俺がそう言うと、惚けた瞳を潤ませてあの子が言った。 「あぁ…勇吾、気持ちい…!だめ…だめぇん!」 シロの首筋に顔を埋めて、あの子の喘ぎ声と、熱い息遣いを聞きながら、あの子の中に入れた指を増やしていく。 「あぁ…!んんっ…はぁはぁ…あっ、あっ、あぁあん…!」 可愛い喘ぎ声を出す唇をキスで塞いで、体を半分圧し掛かって体を抑え込みながら、あの子のうるんだ瞳を見つめる。 トロンとトロけて…うるんだ瞳に欲情して、勃起した自分のモノをあの子の腹に擦り付けながら、一緒に気持ち良くなっていく… キスした口から漏れるシロの吐息も、シロの喘ぎ声も、全て…俺だけの物。 「ん~~!んっ…んぁっ…あっああん!」 腰を振るわせてあの子がイクと、すかさず大きくなった自分のモノをあの子の中に挿れていく。 「はぁはぁ…あぁ…シロ、気持ちい…シロの中…気持ち良いよ…」 堪らないんだ… 「あっああ…勇吾、もっと、もっと、シロをギュってして…」 可愛いくて…堪らない…! あの子を抱きしめながら、腰をねっとりと動かして一緒に気持ち良くなっていく… 「あぁ…シロ、もう…気持ちい…溶けちゃうよ…」 可愛いあの子の髪にキスして、高揚してうるんだ瞳を見つめながら、腰をいやらしく動かして、どんどん快感をあの子に与える。 「ふっふぁ…ああっ…勇吾、イッちやう…らめだぁ…イッちやうよ…!」 「良いよ…勇ちゃんが、何回でも、また気持ち良くしてあげるから…」 堪らないよ。 可愛い…可愛いんだ… 頭が真っ白になるくらいに、あの子の声にも、あの子の体にも、あの子の表情にも、クラクラに酔って、クラクラに溺れて、死んでいく。 「あっああん!」 可愛いシロのイキ顔を見ると…我慢も出来ずにそのまま一緒にイッた… 早い訳じゃない…極まったんだ…! 「勇吾…?真司君を愛してるなら…ダメな事はダメって言ってあげないと…ダメなんだよ…」 シロはそう言うと、俺の胸に頬を乗せて言った。 「甘やかす事と…放ったらかしにする事は違うんだ。…間違った事をしたら、それはダメだよって教えてあげないと…落とし所を見失ってどんどん暴走しちゃう…。それをしないのは、相手の為じゃない。自分が面倒な事を避けているだけだ。」 ふふっ。言うね… 俺の胸を指先で撫でながら惚けた表情で宙を見つめるシロを見つめると、あの子の髪にキスして言った。 「…分かった。今度会ったら、そうするよ…」 シロは俺に二股を勧めてる訳じゃない。 彼の言う、俺の真司への“愛”は“情”に近い物…そして、それは、実に的を得ている。 シロに抱くような愛じゃない… 長く一緒に居たから…浮気を許してくれたから… 俺を愛してるって言ってくれたから…邪険にする事が出来ない。 後ろ髪ひかれる…情だ。 あの時、彼の言いなりになるんじゃなくて、彼を諫めるべきだった。 付き合ってから、ずっと、そうするべきだったんだ… 俺がグダグダに甘えられるのは…この子だけ。 今回の事で、自分でも良く分かった… みっともなく八つ当たりして、何でもかんでもシロのせいにして、酷い事を言ってしまったのは…全て、甘えだ。 この子なら許してくれると踏んで…シロのせいにして甘えたら… ぶっ飛ばされた。 ふふっ…おっかしいね… この子の言葉は、胸に響くんだ。 それはシロが俺を思ってくれているからなのか…俺がこの子に弱いからなのか… 何故か素直に聞いて…落ち着いてしまう。 「じゃあ…シロたんが悪い事したら、メッ!って怒るよ?」 俺の胸でクッタリ甘えるあの子にそう言うと、クスクス笑ってシロが言った。 「オレは優しくて良い子だから…怒られるような事なんてしないよ?」 嘘つきめ! あの子の左手を持ち上げると、小指に戻したリングを撫でて言った。 「シロ…勇ちゃんは、お仕事でね、税金とか、保険とか、雇用とかの関係で、日本国籍のままだと色々面倒があったから、イギリス国籍に変えたんだ。だから、さっき話した…シビルパートナーシップってやつが出来るんだよ。つまり同性婚が出来るんだ。」 シロは俺の胸を指でわしゃわしゃ撫でながら、だらしない声で言った。 「ふぅん…」 眠そうだな。 でも、大事な話だ… 俺はシロの髪を撫でると、あの子の顔を覗き込んで言った。 「本当に結婚出来ちゃうって事だよ?もし、それをしたら、シロは俺のパートナーって事になって、俺と同じ銀行口座を持てて…住宅ローンも一緒に組めるし、もし、勇ちゃんが死んだら、勇ちゃんの遺産はシロのモノになるんだよ?」 俺がそう言うと、あの子は虚ろな瞳で惚けたまま相槌を打って言った。 「ふぅ…ん…」 今にも眠ってしまいそうなあの子を見つめて、一番気がかりな事を言った。 「桜ちゃんと、依冬君が…死ぬほど怒り狂うよ?」 「ははっ!」 シロはそう言って吹き出し笑いすると、俺の顔を覗き込んで言った。 「…勇吾」 「なぁに…?」 細めた瞳が儚く美しいシロを見つめて、ドキドキしながら彼の次の言葉を待った。 クッタリと力なく俺の顔の横に顔を埋めて、スリスリと頬ずりするとあの子は言った。 「…眠い…」 はぁ…全く。 可愛いったらありゃしないよ。 優しく頭を抱いて背中を撫でると、鼻歌で例の歌を歌ってあげる。 あの子がクスッと笑って…すうっと眠りにつくまで、短い時間…歌ってあげた。 ネバ―エンディングストーリーのいつものフレーズだ。 ここ…半年、聞いてなかったこの曲を、今日は俺が歌ってあげる。 愛してるよ。 可愛い俺の恋人…

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