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第11話

彼と一緒に彼の大きなハマーに乗って、オフィス兼スタジオへとやって来た。 もちろん朝ご飯は入手済みだ。 「シロ~、明日帰るの?」 「ん~」 彼のスタッフにそう声を掛けられて、そう答えた。 いつまで経っても助手席から上手に降りれないオレに、勇吾が手を差し伸べて言った。 「車、買い替えようか…?」 「良いの!この装甲車で良いの!」 決心を付けて飛び降りて彼の胸に抱き付くのが好きだから、このままで良いんだ。 ポケットに突っ込んだ彼の左腕に自分の手を掛けると、彼の腕に持たれかかりながら歩いた。 これも…今日でしばらくお終いな感触。 何だか…ピンと来ないよ。 「シロ~~!カモ~ン!」 そう言って両手を広げてケインがオレを呼ぶ。 オレは勇吾を見つめると、彼が頷くのを確認してケインに走って向かった。 「ケイン~~!」 そう言って彼に思いきり飛びつくと、彼がクルクルとオレを回すのを大笑いしながら楽しむ。 「飛ばして~!ぶん投げちゃえ~!」 そんな物騒な事を言って、失速していく彼を見下ろして首を傾げて言った。 「どうしたの?」 オレの腰をギュッと抱きしめると、スリスリと頬ずりしながら彼が言った。 「あの時、寝ている隙に、エッチしとけば良かったなあ…」 本日最終出勤のヒロさんがそう言って、ケインの言葉を訳してくれた。 「あはは!バカタレめ!」 オレはそう言ってケインの頭をペシペシ叩くと、ヒロさんが手に持った袋を眺めて言った。 「ヒロさんはずっとそこのばっかり食べるんだね?」 「…え?気にした事ないよ。どこのも同じだよ?」 全く!全然違うのに! ミーティングをする大きな部屋で、勇吾が紙袋からコーヒーとホットサンドを出してくれるのを待ってると、ショーンが隣の席に座ってオレの顔を覗き込みながら言った。 「ねえ?シロ?歌舞伎町は…新宿って所に有るの?」 「そうだよ?東京の新宿、歌舞伎町だよ?」 オレの返答を聞くと、クスクス笑いながら携帯電話を覗き込んで言った。 「ね、これ…これ、シロじゃない?」 そう言って見せて来た彼の携帯電話には、お店に出勤するオレの姿が映っていた。 ムスッと口を尖らせて、あっちの方向を向いたまま肩に掛けたリュックを片手で持って歩いている自分の姿に、吹き出して笑った。 「あはは!これ、オレだ。はは!」 それはグーグルマップのストリートビューモード。 偶然映り込んだ、オレの出勤途中の姿だ。 「どれどれ…あはは。可愛いな。」 目じりを下げる勇吾の感覚が分からないよ。だって、めちゃくちゃ素のオレだもの。 もっと可愛く映ってりゃ良かったのにね。 「なぁんでこんなの見つけたのさ。むっつり。」 そう言ってジト目でショーンを見つめると、彼はとぼけた顔をして言った。 「3月の公演が終わったら…シロに会いに行ってみようかなと…思って、お店を調べてたんだ。」 ふぅん…本当かなぁ…彼はむっつりスケベだからな… オレはお財布からお店の名刺を取り出すと、ショーンに渡して言った。 「チャージ料金5、500円。オレの指名料金は別途かかります。19:00開店、翌2:00閉店。ステージは20:00、22:00、24:00の3回を、オレと楓って言うスペシャルビューティフォーな子と回してる。オレに会いに来た時は、チップは1万円の物をご用意下さい。それ以下は受け取りません!」 「ふふ…」 オレの話を聞きながらクスクス笑うと、勇吾がオレの目の前にお皿を置いて、その上にホットサンドをポンと置いて言った。 「どうぞ、召し上がれ…」 「うわい!」 ちょっとだけ冷めたけどまだまだ暖かい。そんなホットサンドをパクリと一口かじると、中からトロっとトロけたチーズがパンを伝って落ちてくる! 「あぁ!垂れちゃう~!」 トロけたチーズを指で受け止めると、勇吾は器用にチーズを巻き取ってオレの口の中に垂らして入れた。 そして、コーヒーにお砂糖とミルクを入れてマドラーでかき混ぜると、オレの目の前に置いて言った。 「どうぞ、ダーリン。」 そう言って自分のコーヒーを手に持つと、颯爽とオフィスへと消えて行く彼を見送った。 「…勇吾が誰かのお世話をするなんて…脅威だな。」 ショーンがそう言いながら、ホットサンドを堪能するオレを見つめて言った。 「このふたりのパワーバランスは…?」 「ん~?」 「勇吾がお世話する方なの?それとも、勇吾がお世話される方なの?」 ショーンはそう言うと身を屈めて言った。 「この前…シロにグダグダに甘ったれてるのを目撃した…あれは衝撃的だった!」 ショーンと同じように身を屈めてヒロさんがそう言った。 オレはふたりを見下ろして首を傾げると言った。 「勇吾は赤ちゃんだよ?」 「ぷぷ~~!!」 大笑いするふたりを尻目に美味しくホットサンドと、彼が混ぜてくれたコーヒーを飲んだ。 彼はツンデレ。 みんなの前では格好をつけるんだ。無意識にね? だから甘えたくて仕方が無い時は真顔で近づいて来るんだ。ふふ! 可愛いだろ?オレはそんな彼が大好きなんだ。 飄々と朝ご飯を食べるオレを、ジト目で見続けるショーンに言った。 「…分けないよ?」 「要らないよ…」 そんな穏やかで何気ない朝を、今日も朝ご飯を食べながら迎えた。 「さあさあ、どんな感じなのか…おじさんに見せてごらんなさいな。」 そう言うと、オレはポールの真下に座って通し練習を眺める。 何も問題はない。 気になる箇所はどれも、踊っていく内に馴染んでいく物ばかりだ。 注意する必要すらない。 「なぁんだ。もう大丈夫じゃないか!」 オレはそう言うと、スタジオに寝転がって頭上をクルクルと回るダンサーをぼんやりと眺めた。 「シロ~」 ケインがオレの隣に寝転がって、一緒に上を眺めた。 彼の腕枕を頭の下に敷いて上を見上げると、オレを見下ろすケインと目が合った。 「シロ?ケイン…スキニナッタ?」 「ふふ…ケインの事好きだよ。」 そう言って彼の頬を撫でてあげると、嬉しそうに瞳を細めて、オレに頬ずりをして来た。 「シロ?本当に帰っちゃうの?」 そう言うと、モモがオレの隣に寝転がって抱き付いて来た。 彼の髪をふわふわと撫でながら、天井を見上げていると、いつの間にか他のダンサーの子達も寝転がってオレに寄り添った。 なんだ…この状況は… 「ふふ…なんだここは…!」 スタジオに入って来た勇吾がそう言うと、クスクス笑いながらポールをよじ登り始めた。そして、携帯を手に取ると、スタジオで寝転がるオレ達を写真に収めて言った。 「パンフレットに載せよう!」 ふふっ! 「じゃあ…勇吾がシロの隣に寝てないとダメだろ?」 モモがそう言ってケインをオレの隣から引き剥がした。 女王様の彼にタジタジになると、彼に命令されるまま勇吾がオレの隣に寝転がった。 「ケインはポール登れないから…脚立に乗って写真を撮って?」 女王様の言いなりになったのは、ケインじゃない…ヒロさんだ。 「ケインはシロの傍から離れない!」 お門違いな意地を見せてケインがオレの腰に抱き付いて離れなくなると、ヒロさんが脚立に登ってオレ達を見下ろして言った。 「じゃあ…撮りますよ~?」 「シロ?キスして…」 隣に寝転がった勇吾がオレの頭を抱えてそう言うから、彼の顎を鼻先で撫でてゆっくりと顔を上げていった。 「ふふ…」 待ち切れないみたいに顔を下げて迎えに来ると、勇吾はオレの唇にチュッチュッチュっチュッチュと何度もキスした。 「始めないでよね~~?ぼんくらの坊ちゃん!」 モモがそう言っても、オレの腰でケインが暴れても、勇吾のキスは止まらない。 「はい~!良いのが沢山撮れた~~!」 ヒロさんがそう言うと、勇吾は携帯電話を受け取って、ニヤニヤしながら画像を確認していた。 パンフレットに載せる? それは…楽しみだ。 「みんな?3月の公演、見に来るからね!しっかり今の調子で練習をするんだよ?」 オレがそう言うと、モモが悲しそうに眉を下げた。 「…シロ」 「モモ…みんなをよろしくね…。楽しみにしてるから。頑張るんだよ。」 彼の頬を両手で包み込むと、優しく撫でながら彼の瞳を覗き込んで言った。 「ねえ、モモ?オレが来るまで、勇吾の事、見捨てないでいてくれてありがとう。メグの事だって…真司君の事だって…何ひとつ納得いかなかっただろうに…。あなたがいてくれたから…勇吾は復活出来たようなもんだよ。」 オレの言葉をヒロさんが訳すと、モモはポロポロと涙を落としながらオレを抱きしめて言った。 「ママ…愛してる。」 ふふ…オレは知らないうちに…母性が溢れたみたいだ。 「うん…オレも愛してるよ。」 モモがオレに抱き付くと、他のダンサーの子もオレに抱き付いて…団子の様にワチャワチャになっていく。 その様子を見ると、ケラケラ笑いながらケインが再び写真を撮って言った。 「前だったら、こんな和気あいあいとした雰囲気は皆無だった。殺伐としてばかりで…笑顔なんて無かった。シロ?俺はね、お前が望むなら…いつでも不倫相手になってあげるよ?お前が、好きなんだ。」 ふふっ!馬鹿野郎! オレはにっこりと笑うと、ケインを見て言った。 「考えておくよ…」 勇吾から半年以上…連絡が途絶えていたんだ。 ずっと、気になっていたのに、オレは彼に会いにイギリスへ行く事が出来なかった。 発作や…知らない外国へ行く事に抵抗感があって、ずっと足踏みを踏んでた。 そんな時…半年ぶりに聞けた彼の声に背中を押された。 あんなに躊躇していた飛行機に乗って、あっという間にイギリスにやって来た。 こんな簡単な事を…ずっと躊躇って、結果的に勇吾を傷付けていた。 彼と結婚したのは…彼の為だけじゃない。オレの為でもある。 寂しがりの彼が心配なんだ。 だから“結婚”なんて形で彼を縛り付けた。 オレという存在を、嫌でも二度と忘れたりしない様に…繋いだ。 桜二と依冬も居るって言うのに、わがままだよね… でも、彼はオレのわがままに付き合う事が…楽しいみたいなんだ。 だから…めいっぱいわがままを言う。 勇吾の部屋に戻ってくると、スーツケースに自分の持ち物を詰め込んで、勇吾が貸してくれた新しい本を2冊追加で入れた。 「明日、お土産を買うんだ。」 オレがそう言うと、ソファでワインを飲んでいた勇吾が言った。 「じゃあ…リュックの荷物をいくつかスーツケースに入れちゃいな。」 ふぅん… オレは口を尖らせてため息を吐くと、ジタバタと暴れて言った。 「もう入らないんだもん!」 「ふふ!」 勇吾は吹き出して笑うと、ワインを置いてオレの荷造りを手伝ってくれた。 さすが慣れてるんだ。上手にコンパクトに物を小さくするんだもん。笑っちゃうよ。 「これは~?」 オレがそう言って洋服を渡すと、彼がギュッと固く小さく丸めてくれる。 「ふふっ!すごいぞ!勇吾のおかげで綺麗にしまえた!」 オレがそう言ってケラケラ笑うと、彼はオレの頭をグシャグシャっと撫でて、ソファに再び腰かけた。 スーツケースをバタンと閉じてチャックを閉めると、立てて転がして、玄関の傍に置いた。 ソファに座った勇吾の背中を見つめながら近づくと、彼の背後からよじ登って彼の膝の上にごろんと寝転がって言った。 「勇吾?ワイン嫌いだったけど、お前が飲むから一緒に飲んだら、嫌いじゃなくなった。」 彼のお腹に頬を付けてそう言うと、勇吾はクスクス笑って言った。 「何で嫌いだったの…?」 「クリスマスの日、昔の同僚とワインをがぶ飲みして、吐いたんだ。その時、真っ赤なゲロが出て…血が出たって大騒ぎして以来…ワインが嫌いだったんだ。」 オレがそう言うと、彼はお腹を揺らしながら笑った。 その声が…大好き。 体をよじ登って、彼の膝に跨って座ると、ギュッと強く抱きしめて言った。 「勇吾…大好き、大好きだよ…離れたくないよ…」 兄ちゃん…? どうしてオレはこんなに欲張りで…わがままなんだろう… どれも、これも、欲しくて…どれも、これも、必要なんだ… 「じゃあ…離れなかったら良い。」 そう言った勇吾の声が、オレの耳から体の中に入って行って、胸のあたりで消えた。 「ふふ…そうだね。その通りだ…」 そう言ってクスクス笑うと、彼の胸を撫でながら彼の頬にキスした。 #勇吾 シロの寝顔を眺めながら、あの子の唇をそっと指先で撫でる。 柔らかい… 「シロ…愛してるよ…」 本当はグダグダに甘えて…この子に縋りついてしまいたい。 帰らないでと縋って…この子の自由を奪って、独占して、自分の物だけにしたい。 でも…そんな事をしたら、この子を苦しめるだけだって…知ってる。 あの時、俺の自己中が彼を苦しめて、桜ちゃんへの罪悪感を募らせてしまった。 それが…この子を…苦しめて、狂気の底へと突き落とした。 もう…同じ轍は踏まない。 可愛いこの子を…苦しめたりしない。 俺は泣いたりしないで…笑顔のまま、この子を飛行機に乗せる。 ピピピピ シロの携帯のアラームが鳴ると、いつもの様に、あの子が唸り声をあげながら手をバタバタと動かし始めて携帯を探してる。 ふふ…可愛いな 俺はそっとあの子の手元に携帯を置くと、素知らぬ顔をしてあの子の閉じられた瞳をじっと見つめた。 「ん、うるさい…うるさい…」 そんな言葉をブツブツと呟きながら携帯のアラームを止めると、ぼんやりと開いた瞳を俺に向けるあの子と目が合った。 「シロ…」 おはよう…と言う前に、あの子の瞳が歪んでボロボロと涙を落とし始めた。 「どうしたの…」 そう言ってあの子を抱きしめて胸の中にしまうと、シロは泣きながら言った。 「勇吾…ギュってして…」 あぁ…可愛い… あの子の体をギュッと抱きしめて、サラサラの髪に顔を埋めてキスをする。 「…シロ?15:30の飛行機に乗るよ。向こうに着くのは…朝の10:55だ…。そうだ、東京に着いたら、お昼にお前の好きなラーメンを食べて帰れば良い。」 俺が小さい声でそう言うと、あの子は何も言わないで、俺の部屋着を捲り上げて中に潜り込んで行った。 もう…可愛いな… あの子の背中を部屋着の上から抱きしめて優しく撫でてあげると、俺の胸にぽたりと涙が落ちていく感覚を感じて…堪らなくなる。 喉まで出てくる”行かないで…“の言葉を飲み込んで、必死に自分の本音を堪える。 「どうしたの…」 優しくそう聞くと、部屋着の中からあの子の声が聞こえて来た… 「うぅん…んん…!うう…んん!」 …何か、不満でもあるみたいに唸ってる。 「…15:30の飛行機が嫌だったの?」 あの子を抱きしめてそう聞くと、俺の素肌に顔を擦り付けて、違う。と言った。 「…ラーメンが嫌だったの…?」 「…んん!!」 …どうやら、シロは俺にグダグダに甘えたいみたいだ… 可愛いじゃないか… 「シロ…可愛いね…大好きだよ…」 そう言ってあの子を抱きしめると、部屋着の中からあの子が言った。 「…勇吾、好き…」 ハァ…可愛い。 「俺もシロが大好きだよ…だから結婚したんだ。」 「結婚…」 ポツリとそう言うと、シロは俺の部屋着から体を出して、やっと顔を見せてくれた。 「勇吾…チュウして?」 「ふふ…」 可愛い涙目のあの子にキスすると、堪らなくて、止まらなくて、もっとしたくて…あの子の口の中に舌を入れて、柔らくて、傷のある、あの子の舌を絡めた。 「はぁ…はぁん…」 そんな吐息も…だらしなく開いた瞳も、全部、全部…愛おしくて、堪らない。 あと1日…傍に居られたら、それで良いのに… あの子の部屋着を捲り上げて、白くて肉厚なあの子の胸を舌で舐めて、手のひらでいやらしく撫でていく。 「んん…勇吾、勇吾…!」 俺の髪を鷲掴みするその手も…俺の背中を抱き寄せるその手も…可愛くて、愛おしくて堪らないんだ。 「シロ…勇吾に何して欲しいの…?」 やりたくてやりたくて仕方が無い…そんなギラギラした瞳をあの子に向けて、女王様の許可を待つんだ。 「…勇吾に愛して欲しい…」 あぁ! 潤んだ瞳でそう言うと、シロは俺の頬を撫でながら、いやらしく舌を出してキスをして来た… この子は…本当に官能的で、いやらしくて、俺を脳みそから興奮させるんだ… あの子のキスを離さない様にむさぼり付くと、あの子のスウェットに手を突っ込んで、大きくなり始めたモノを握って扱く。 「ん~~!」 可愛い…! 「気持ちいの…シロ、勇吾の手が気持ちいの?」 あの子の耳元でそう囁くと、俺の背中を抱きしめながら喘ぎ声を漏らして言った。 「はぁはぁ…あっあ…ん、気持ちいの…勇吾の手が…気持ちい…」 ふふ… あの子のスウェットを強引に脱がすと、足の間に体を入れてあの子のモノを手で扱いてあげる。 そうすると…何が起こるかというと…とっても可愛い物が見られるんだ。 「ふっふぅん~…勇吾、勇吾…だめぇ、お口でして…お口でしてよぉ…!」 ふふっ! シロは…フェラが大好き。 だから、手でずっと触ってると、体を捩っておねだりを始めるんだ。 それがとってもエッチで…とっても、可愛い。 だから俺はワザとこうして、あの子を焦らして、意地悪するんだ。 「あっああ…ん、勇吾…ねえ、ねえ!お口でしてよぉ!お口でペロペロしてぇ!」 「…どうしようかな…?もっと、可愛くおねだりしたら…ペロペロしてあげても良いよ?」 意地悪くそう言うと、舌を出してペロペロと動かす様子をあの子に見せる。 「ん~~!してぇ!してよぉ!シロの…舐めて…!舐めてぇ!」 可愛い…!! 居ても経っても居られなくなったのか…あの子は体を起こすと、俺の半笑いの唇にキスしながら惚けた瞳を潤ませて言った。 「勇吾…このベロで…シロのおちんちん…ペロペロして…ねぇ?ねぇ?お願い…気持ち良くしてよぉ…!ん~、気持ちい…あっああ…ん!お口が良いの…!」 意地悪く焦らされて首をブンブン振って、あの子が乱れ始める。 これがとっても…エッチなんだ… 「お口でして欲しいの…?」 汗だくになったあの子の額にキスすると、俺はあの子のモノを先っぽだけペロリと舐めた。 「あっああん!」 そう言って体を仰け反らせると、ベッドに沈んでいくあの子を見ながら、先っぽだけ舌の腹でグリグリと撫でて吸った。 こんなにじっくりセックスして、あの子を存分に味わったとしても…あの子が居なくなってしまった未来を思うと、辛いんだ。 こんなに愛おしく愛したこの子は…今夜、このベッドに居ないんだもの… 「勇吾!勇吾…!来て…早く、して…!」 そんなシロの言葉に、焦らす事も出来なくなって…あの子に一気に溺れていく。 もう…俺を離さないでよ…シロ。 もう、ひとりにしないでよ… 「そのお話は…誰と誰が、どうなるの?」 顔を覗き込んでそう聞いて来るあの子を視線だけ動かして見ると、眉を上げて言った。 「ん…これは、つまらない詩集だよ…」 朝の恒例セックスの後…どうにもこうにも、ベッドから動きたくなくなったんだ。 でも“行かないで…”なんて言葉…一度も言ってない。 ただ、ここから出たら、全てが始まってしまう気がして、出たくなかったんだ。 そんな気持ちを知ってか知らずか…シロは優しく微笑んで聞いて来る。 「仕事へ行かないの?」 「行かない。」 「ベッドでゴロゴロしてるの?」 「…まだね。」 そんな返事をすると、胸の上で俺を見つめる二つの瞳を焦点を合わせずに眺める。 「勇吾…お腹、空いた…」 はぁ… 仕方が無い… しぶしぶベッドから降りると、あの子の為に卵とベーコンを焼いて、トーストと一緒に出してあげる。 「これは…勇吾の目玉焼き!」 ふふっ! まるで“桜二の卵焼き”の様にそう言うあの子に微笑みかけると、カリカリに焼いたベーコンをひとつ摘んでポリポリとかじった。 …甲斐甲斐しく世話を焼く桜ちゃんを見て、驚いたんだ。だって、あんなにクズだった桜ちゃんが、まるでママの様に世話を焼いてるんだからね… でも、今は、俺も同じ様に…この子の世話を焼いてる。 今なら分かるよ…桜ちゃんのあの時の気持ちが、痛い程分かる。 何かしてあげたくて…ウズウズするんだよね。 手取り足取り…ぴったりとくっ付いて…体が離れてしまわない様にずっと傍に居て、1から10まで把握して、この子の情報を共有して管理したくなる。 困った事が無い様に…全身全霊を掛けて尽くしたくなるんだ。 「ねえ…勇吾?」 トーストをかじりながらシロが言った。 「勇吾の仕事仲間がオレの事を知っていたのは…あなたが話していたからなんだね。初めて会った人も、どうしてか、オレの名前を知っていて驚いたんだ。勇吾が泣いて会いたがる…シロ。って…」 ふふっ… 首を傾げてとぼけると、あの子の口端に着いたパンくずを指で撫でて払った。 「さあ…どうだったかな…」 俺がそう言うとシロはケラケラ笑って言った。 「そのお陰か…オレは多分、勇吾の仕事仲間の人に親切にして貰えた気がする。ご飯を買う時、アジア人だからって意地悪されたんだ。でも、みんながみんなそんな人じゃないって…よく分かった。」 違うよ…シロ。 お前は天性の人たらしだ… だから、みんな、お前の魅力にメロメロになるんだ。 特に、ポールダンサーのモモは面白い程にシロに懐いた。まるで姉妹の様にシロを慕う姿は、以前だったら想像もつかなかった。 この子の方が年下なのに…まるで妹の様にじゃれつくんだもの…。 そんなモモの姿を見て、彼を慕うダンサーたちも自然とシロを受け入れて、信用して、頼った。 この短期間で、こんなに信頼を得るなんて…素晴らしいよ。 ポールダンスの技術の高さもさることながら、この子の人格も多大に関係しているように思った。ストリッパーに誇りを持った…この子の姿勢が、彼らのそれと一致したんだ。 シロは彼らのプロ意識を刺激して…上手く転がして、高めた。 目の前でトーストを食べ終えたあの子を見つめて、“ブラボー!”と言いたくなるほど、見事な身のこなしだったよ。シロ。 「忘れ物は…無いかな…」 桜ちゃんのスーツケースを持つと、隣に立ったシロを見つめてそう聞いた。 あの子は首を傾げて俺を見ると、肩をすくめて見せる。 車の後ろにスーツケースを詰め込むと、助手席に乗り込むあの子のお尻をナデナデしながら押し込んだ。 さて…空港へ向かうか… 「ねえ?勇吾?空港に、お土産屋さんあるかな?」 窓の外を眺めながらシロがそう聞いて来た… 「あるよ…」 俺は短くそう答えると、助手席に座ったあの子を見つめる。 嫌だな… 帰りは…ひとりなんだ。 「勇吾?飛行機の中で見た時、どこまでも続く緑が見えたんだ。とっても綺麗だった。今度来た時は、あそこに連れて行ってよ…。楓が言ってた…大きな観覧車にも乗ってないし、ピーターパンの時計も見てない。ね?連れてって?」 シロはそう言うと、運転席に体を向けて俺を見つめた。 確かに、どこにも観光名所に連れて行ってあげられなかったな… シロと一緒にシェイクスピアの生家を見に行って…彼のベッドの小ささを笑いたかったな… 「…分かった。どこでも連れてってあげる。」 一言そう言うと、俺を見つめるあの子を見て、にっこりと微笑んで見せた。 俺は泣いたりしないで…この子を飛行機に乗せる。 たったそれだけの事が、まるで試練の様に立ちはだかって…隙を見せるとグラグラと足元を揺らすんだ。 丹田に…気合を入れろ。勇吾…男だろ? まっすぐの道をひたすら進むと、あっという間に空港が見えて来た。 あぁ…シロ。 行かないで… 空港の駐車場に車を停めて、あの子のスーツケースを下ろすと、手を繋いで空港の中へと入って行く。 「はい。チケット…」 「…えっと、これを…いつ出すんだっけ?どの券を出すんだっけ?」 俺からチケットを受け取ると、シロはそう言いながら頭の上に沢山のハテナを浮かべて、パニックになった。 …そうか、この子は俺の為に…初めて飛行機に乗って、初めて桜ちゃんから離れたんだった… 不安な気持ちを乗り越えて…会いに来てくれたんだった… そう、俺の為に… 俺はあの子からチケットとパスポートを取り上げると、自分の胸ポケットにしまって言った。 「まだチェックインには早いから、お土産屋さんを見たら良いよ?」 行かせたくない訳じゃない… ただ、空港に着いた途端、ふわふわと浮足立ち始めたこの子が、大事なパスポートを失くしてしまいそうで、心配だっただけだ…。 「ふふ~!お土産!」 シロはにっこりと笑顔になると、俺の手を引っ張ってお土産屋さんへと入って行く。 「ねえ?桜二には何が良いと思う?あ…!見て?この…シングルモルトウイスキーで良いや。後は…依冬に何が良いかな?あ、このチーズで良いや…」 あんなにお土産を選ぶのを楽しみにしていた癖に、シロは悩む楽しみもしないで、バンバン男らしくお土産を決めていく… …もう少し、悩んだりしないのかね… 「あぁ~~!見て?勇吾、見て見て!可愛い!」 そう言って俺を引っ張ってきたのは、ダブルデッカーと呼ばれるイギリスの二階建てのバスをモチーフにした雑貨が置いてあるコーナーだ。 ホクホクの笑顔になると、桜ちゃんやビースト君に選んだお土産の倍の時間をかけて、吟味を始めた。 「ねえ、勇吾?このリュック…1歳の子供には大きいかな?どう思う?」 「誰にあげるの…?」 あの子の頬を撫でながらそう聞くと、シロは俺の手のひらに頬ずりして言った。 「ロメオ…あの子に、何か買ってあげたいんだ。」 …子供 桜ちゃんと依冬君は、子供の存在に負けた… 笑いを堪えながら、どんどん重たくなって行くかごを代わりに持ってあげる。 「でもさ、今は無理でも大きくなったら背負えるよね?見て?これ可愛いと思わない?あの子が背負ったら、きっと、とっても可愛いと思うんだよね。ブーブも好きだし。これにしよう!」 そう言ってシロは買い物かごに、次々とダブルデッカーの商品を入れていく。 「…こんなに買うの?」 「だって…他の車が無いんだもの…あっ!見て!勇吾!」 そう言って一目散にあの子が向かったのは、パディントンと呼ばれる熊のコーナー。 「可愛い!これも買ってあげよう!」 ほぼほぼ、子供用のお土産だらけになった買い物かごをレジに持って行くと、自分のお財布を覗き込んであの子が言った。 「勇吾?どのお札が一番高いの?」 え…?今更? そう言えば…この子が財布を開いている所を見た事が無かった… いつもケインか、ショーン…それか、俺がこの子の食べ物を調達していたからね。 シロのお財布を覗き込むと、ピン札同様の換金されたままのお札がぎっしりと詰まられていて、ビースト依冬の気前の良いご厚意を感じた。 「この、お札だよ?」 俺がそう言って教えてあげると、あの子はホクホクの笑顔になってお会計を済ませた。 まるで“はじめてのおつかい”を見てる様だよ… …可愛い。 「あ…可愛いのが売ってるよ。」 それはバーバリーのショーウインドウに飾られた、ワンショルダーのバッグ。 黒い革で作られた、シロに似合いそうなバッグ。 「ん~!こんなブランド物を贈る相手はいないな。」 シロがそう言って俺の腕を引っ張るけど、俺はこれをお前に買いたいんだ。 あの子の手を握ると、店の中に入って行って実物をあの子に持たせた。 「ふふ…!ほら…そのコートにピッタリじゃないか…」 「そう?」 まんざらでもなさそうな様子に、バッグを購入してあの子にプレゼントした。 「もう、そのリュックはくたびれてるから、こっちにしたらいいよ。」 そう言って大きな紙袋を渡すと、あの子はスーツケースをおもむろに開いてお土産をぎゅうぎゅうに詰め込み始めた。 「入らない…入らないよ…!」 ムキになってスーツケースに物を詰め込むシロに胸キュンすると、進んでお手伝いしてあげる。 彼への奉仕は喜びだからね。 「これは…手に持って乗った方が良い。結構乱暴に扱われるから…割れ物はスーツケースに入れない方が良いよ。」 子供のお土産と、くたびれたリュックをスーツケースにしまうと、新しく買ったばっかりのショルダーバックを肩から掛けさせて、シングルモルトウイスキーの紙袋を持たせた。 「わあ…このバッグ可愛いね?気に入っちゃった!勇吾、ありがとう!」 良いんだよ。俺の趣味だもの。 「シロ…勇吾にチュッてして…」 そう言ってあの子に頬を差し出すと、チュッと触れるあの子の唇に、欲情してしまいそうになる。 別れが近くて…きっと、動揺してるんだ。 あの子と一緒に空港の中のカフェでのんびりとコーヒーを飲んで、チェックインまでの時間を一緒に過ごす。 俺の左手をおもむろに握ると、シロは薬指に嵌めた結婚指輪を指で挟んで回しながら言った。 「勇吾?オレが飛行機に乗ったら…桜二と依冬に…伝えてね?」 あぁ…責任重大だな。 俺はシロの左手を手に取ると、あの子の指輪を同じ様に指で挟んで回して言った。 「…分かったよ。」 この子は俺の奥さん。 これから少し遠くへ買い物に行くんだ。 その途中…楽しい事を見つけてしまった奥さんが、なかなか帰って来なくなる… そんな仮想設定を頭の中に思い浮かべながら、この愛しい子との別れを、紛らわせようとしてる。 「貸してごらん…?」 そう言うと、付けっ放しのあの子の左手の薬指からリングを引き抜いて、内側に掛かれたメッセージを読み上げた。 「I would I were thy bird.」 「バード…?あぁ…あなたの小鳥になりたい…」 シロはそう言ってほほ笑むと、体を伸ばして俺にキスをして言った。 「オレは勇吾の…小鳥だよ?」 ふふっ…可愛いね。 手に握ったこの手を離したくないよ… 決して離したくないよ。 「見て?こんなに楽ちんにお財布が、ほら?取り出せる!すごい!」 そう言いながら俺のプレゼントしたショルダーバッグの性能を確かめるシロを見つめて、あの子にバレない様に鼻からため息を吐いた。 あっという間に時間が来て… チェックインを済ませると、あの子にチケットとパスポートを渡しながら言った。 「これを…飛行機に乗る時に添乗員に見せるんだ。」 そんな俺を見つめると、ウルウルと目を潤ませるんだもん。 どうしたら良いの… 込み上げてくる、この思いをどうしたら良いんだよ… 今にも車に乗せて引き返したい気持ちが、暴走しちゃいそうだよ。 「勇吾…勇吾…手を、離さないでよ…もう、二度と手放さないでよ…」 奥さんが…外国へ、買い物に行く…俺はそれを見送りに来た。旦那だ… すぐに帰って来る気持ちで…笑顔で送り出せば良い… そんな付け焼刃の設定が、この子の顔を見つめる度に、ボロボロと崩れ落ちていくんだ。 「離したりしない…もう、離したりしない。だって…シロは俺の奥さんだからね。」 精一杯の言葉を口から紡いで吐き出すと、俺の大好きな切れ長のあの子の瞳から涙がポロポロと音を出しながら落ちていく。 俺を救ってくれた。 どうしようもなく落ち込んで、ダメになりかけていた俺を傷付きながら助けてくれた。 強くて…格好いい、俺の可愛い、愛しのシロ。 「チケットを送るから…必ず来て…」 そう言ってあの子の唇に熱くて甘くて、トロける様なキスをする。 荷物検査の列に並んで、チラチラと俺を振り返るあの子をただ、じっと見つめて… 丹田に気合を込める。 「…行ってきます。」 そう言ったあの子の声を胸の奥に留めて、手をあげると、ほほ笑みながら振って言った。 「行ってらっしゃい。気を付けて。帰りを待ってるよ…」 あっという間に見えなくなってしまったあの子を、目で探すような事はしないよ。 だって、あの子は俺の元に帰って来るもの… 「シロ…シロ、もう…会いたくなったよ。」 そう言いながらボロボロと落とす涙が、あの子に縋る事無く我慢出来た自分を、まるで褒めるみたいに心地よくて…悪くない。 左手に嵌めたあの子との結婚指輪を、クルクルと指先で回しながら車へと戻って行く。 ふと、携帯電話がブルルと震えて、あの子からのメールを受信する。 「ふふっ!なんだ…忘れ物か…?」 口元を緩めてあの子からのメールを読んだ。 “勇吾の奥さんだからって、手荷物検査の人に優しくされた。” ふふっ! 俺のファンが…こんな所にも働いてるみたいだ。 そして、俺の愛しの奥さんを丁寧に扱ってくれた様だ。 “愛してるよ、ダーリン” そう返信すると、クスクス笑いながらあの子と来た道をひとりで戻る。 どうせ…また戻って来る。 だって、ふたりでひとつの”夫婦”になったんだから。 俺にはあの子しかいない様に…あの子にも俺しかいないんだから。 ”飛行機に乗ってみます“ そんな変な言い回しのメールを受信して、俺は自分のオフィスの中で頭を抱えて悩み始める。 なんて言おうか…事実だけ伝えて、電話を切ろうか… いいや!俺は、あの子の旦那だぞ? そんな無責任な態度を取ったらダメだ。もっと堂々としないと。 「勇吾?打ち合わせが18:00に入ったよ。」 ショーンがそう言って俺が落ち込んでいないか監視しに来た。 はは…残念だな。 俺は耐えれる男だ。あの子との別れだって、泣いたりしなかった! “早く帰って来てね…会いたいよ” シロにそう返信すると、桜ちゃんの連絡先を選んで彼に電話を掛けた。 17:00…向こうでは深夜の1:00… 「…もしもし」 そう言って電話に出た不機嫌全開の桜ちゃんに言った。 「シロを飛行機に乗せたよ。そっちには…10:55に着く。迎えに行ってあげて。」 「ああ~~~ん!!シロ~~~!」 電話口で歓喜の大声をあげて泣き叫ぶ桜ちゃんにタジタジになりながら…日を改めた方が良い話を…今、する。だって、奥さんに頼まれた…初めての頼まれ事だからね。 「桜ちゃん…シロと結婚しました。あの子は…俺の奥さんになりました。それは…ごっこ遊びじゃなくて、本当の法的な拘束力のある物です。えっと…ニュースにもなって、ネットにも載ってるので…見てみて下さい。」 デスクに入れたあの子の“しおり”を眺めながらそう言うと、桜ちゃんは歓喜の声をあげることを止めて、低く唸るような声で、言った。 「…あぁ?」 ひい! でも、俺は怯まないよ。 だって、あの子の番(つがい)は俺だからね… 「…ビースト依冬にもよろしくお伝えください。俺の奥さんの家を一等地に買ってくれてありがとう。その物件も、俺とあの子の共有財産として登録されました。これからも…俺の奥さんの面倒をよろしく!」 そう言うと返事が無いのを確認して、電話を切った。 「よし…!シロ、俺は夫の役目を果たしたよ。」 あの子の“しおり”をデスクの中にしまうと、大きく伸びをしながらあの子がよく寝転がって居たソファを眺める。 …まだそこに、居るんじゃないかって思っちゃうよ。シロ。 俺の日常に残像を残して行ったあの子を思いながら、オフィスを出てスタジオへと向かった。

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