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第13話
#シロ
依冬は普通にしてくれるのに…彼はフイッ!と、顔をそむける。
何で勝手に結婚なんてしたんだ!
…そう言ったっきり、ムスくれてしまった。
「桜二…?ひとりで行って、ひとりで帰って来れたよ?…勇吾も助けた。褒めてよ。」
運転席でムスくれる彼の頬を撫でてそう言うと、桜二はオレを見て言った。
「ああ…」
ああ?
全く…カマチョのクソガキは…健在だ。
彼の頬を手の甲で何度も撫でて、彼の耳元で囁くように言った。
「オレが勇吾と結婚したのが気に入らないんだね…」
「ああ…」
桜二の肩に腕を置くと、彼の顔を覗き込んで言った。
「彼は独りぼっちだった。そうする事で安心するなら構わないって思った。」
「ふん…」
「…もう、すぐにそうやって怒るの、良くないよ…気分が悪い。」
オレはそう言うと桜二の頭を後ろから一発叩いて、助手席に座った。
オレに叩かれて乱れた髪を乱暴に戻すと、桜二は車を出した。
「…シロ?桜二は…ショックだったんだ。シロが帰って来たら既婚者になったから。」
ピリピリする車内、後部座席から依冬が顔を出してそう言った。
「何も変わらない。オレはオレだよ?」
オレはそう言うと、桜二の方を向いて依冬に話しかけた。
「結婚なんてどうでも良いって言っていた割に、拘り過ぎてるんだ。“結婚”すると頭にトサカでも生えるって言うの?言わなきゃ分からないじゃないか…。そんな事にプリプリ怒るなんて…どうかしてるよ。」
運転席の彼はオレの方なんて一度も見ないで、表情も変えないで、ただただ前ばかり見ている。
「なんだよ…せっかく上出来で帰って来たのに…」
そう言って不貞腐れると、体を返して窓の外を眺めた。
「シロ…」
悲しそうにそう言った依冬の声が、静かな車内に残って消えた。
家に到着すると、スーツケースを依冬が運んでくれる。
オレは買って貰ったショルダーバッグと桜二へのお土産を手に持って…凱旋帰宅をする。
でも…全然、楽しくないし、うれしくない。
「ただいま~…」
そう言って玄関を上がると、広いリビングに荷物を置いて、桜二の部屋へと走って向かう。
彼のベッドの下から”宝箱”を取り出すと、涙をボロボロと落として、箱の中の写真を手に取った。
兄ちゃん…!
「兄ちゃぁん…怖かった…怖かったぁ…!」
…本当は、彼に受け止めて貰いたかった気持ちを…兄ちゃんにぶつける。
泣きじゃくって…我慢していた恐怖を吐き出して兄ちゃんに優しく撫でて貰う。
「シロ…お帰り…」
兄ちゃんの手が、オレを優しく包み込んで抱きしめてくれる…
めちゃめちゃ頑張ったんだ…
勇吾の為に、自分の為に、あんなに二の足を踏んでいた大事をやり遂げたんだ…!
なのに…なのに…!
兄ちゃんの写真を”宝箱“にしまうと、それを抱えたまま自分の部屋まで通り抜けて移動して、自分のベッドの下にしまった。
…勇吾との結婚はオレが決めた事。
彼が…
彼を…繋ぎとめる為に、そうした。
それが気に入らないって怒った所で…もう、そんな事、遅いのに…
プリプリ怒る意味が分からないよ。
自分の部屋を出てリビングに戻ると、買って貰ったバッグを眺める依冬に言った。
「買って貰ったの。可愛いでしょ?」
「…こっちには売ってないやつだね。良く似合ってるよ。」
そうなんだ…
バーバリーなんてどこにでもあるのに。
手を伸ばして彼からバッグを受け取ると、ダイニングテーブルに置いたシングルモルトウイスキーの紙袋を、キッチンでお湯を沸かす彼の目の前に持って行って言った。
「お土産だよ…」
「どうも…」
はぁ…
嫌になるよ…また、これだ。
桜二が受け取ったのを確認すると、手を離して、彼からも離れる。
オレは罪悪感なんて持っていないよ。
だから、彼がいくらあんな態度を取ったって…動揺したりしない。
「依冬にも、チーズをあげるね?」
そう言ってクゥ~ンと鳴き声を上げる依冬の手に、チーズの入ったキャニスターをポンと置いた。
スーツケースを開くと、勇吾の香りがする洗ったばかりの洋服を取り出して、自分のタンスにしまった。彼に借りた本を自分のベッドに置いて題名を見つめる。
ハムレットと…マクベス…
きっと、難しい難解な…退屈な本なんだ…
ダンサーの子達に貰ったプレゼントを自分の部屋に飾って、ケインが書いたメールアドレスの紙を隣に置いた。
スーツケースを綺麗にすると、コロコロと転がしてリビングに行って彼に言った。
「スーツケースを貸してくれてありがとう…」
彼がコーヒーを淹れるのを横目に、自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転がって勇吾が貸してくれた本を読みながら音楽を掛けた。
「…コーヒー淹れたよ。」
そう言ってノックも無しに部屋に入って来る彼を無視して、本の中の情景だけを見つめた。
そんなにオレの選択が気に入らないなら…ずっとそうやってムスくれていれば良い。
オレは困らない。
「ハァ…悪かったよ。怒るなよ…」
ベッドに伸ばしたオレの足を撫でながら、桜二がそう言ってご機嫌取りを始めた。
「シロ…」
オレは何も考えないで勇吾と結婚した訳じゃない。
それが、彼に必要だと思ったからそうした。
その選択に…後悔も、思い直す事も、無い。
何も話さなくなったオレを諦めると、桜二はベッドサイドにコーヒーを置いて部屋を出て行った。
「シロ?桜二さんを虐めちゃダメだ…」
いつの間にか隣に座っていた兄ちゃんがそう言って、オレの髪を撫でてキスした。
「虐めたのは桜二の方だ…オレが頑張ったのに、彼は褒めもしない上に…オレにあんな態度を取って…嫌になるよ。ああいう所が、大嫌いだ…」
オレはそう言うと、隣に座る兄ちゃんの胸に顔を埋めて言った。
「兄ちゃん…?こういう時に、どうしてオレは死にたくなるのかな…もう、面倒すぎて、何もかも嫌になるんだ。全て価値のない物に見えて…放り出して逃げ出したくなるんだ…」
オレの体を抱きしめると、兄ちゃんが優しい声で言った。
「自分を責めてる?」
「いいや…一気に価値が無くなる紙幣みたいに、周りの状況も人も、全て…捨てたくなるんだ。」
兄ちゃんの胸を撫でながらそう言うと、勇吾の本を閉じて、兄ちゃんに甘えていく…
「兄ちゃん…兄ちゃん…!」
兄ちゃんの胸も、腕も、首筋も…全部、シロの物…そして、シロも…全部兄ちゃんの物だよ…
馬鹿な男がそれを勘違いして…自分の物のように扱うんだ。
…笑っちゃうでしょ?
クッタリと布団にうつ伏せて、居ない兄ちゃんに甘えて目を閉じた。
#桜二
「どうしてあんな風にするの?弁護士には頼んであるし、向こうで結んだシビルパートナーシップを無効にする手はずを整えてるのに、どうしてシロをあんなに詰るの?…ほんと、分からないよ…そういう所。」
どうして…?
それは、俺が気に入らないからだよ。
いつも、いつも、あの人の頭の中で、勇吾ばかりロマンティックに演出されて…気に入らないからだよ。
嫉妬だよ。
目の前で眉を下げる依冬を見つめて、首を傾げる。
こいつには嫉妬しないのに…勇吾はどうしても嫌だ。
“彼は独りぼっちだった。そうする事で安心するなら構わないって思った。”
シロが言った言葉すら、気に入らない。
俺だって独りぼっちで安心したいのに…あいつは俺の手の届かない所で、あの人を独占して、あんな風にプロポーズして…結婚しやがった。
ときめいたの…?シロ…
俺以外の男に、ときめいて…結婚したの?
そんな物。
すぐに解消させてやる。
俺の傍に置いて、全て把握して、彼のすべてを俺だけ網羅する。
「弁護士は何て言ってた…?」
シロに貰ったお土産を嬉しそうに開け始める依冬にそう聞くと、あいつはキャニスターのふたを開けながら言った。
「まだ、調査中…」
ふん…
それで飯を食べてるのに、随分、仕事が遅いじゃないか…
気に入らないね。
あの人が消えた部屋を眺めて、ため息を吐く。
抱きしめて、労って、愛して、この腕の中に再び収めて…俺を見て穏やかにほほ笑むあの子の笑顔を見たかった。
なのに…なのに…!
気に入らない。
結婚なんてして帰って来た事も、悪びれる様子もない事も、まるで勇吾の物になったようなあの子の様子が、気に入らない。
左手の薬指に嵌めた…あの指輪を外して捨ててしまいたい。
「寝てた…布団をかけてあげた。」
いつまで経っても部屋から出てこないシロの様子を見に行った依冬が、そう言って肩をすくめて見せた。
「移動で疲れてるのに、桜二がへそを曲げるから可哀想だ。33歳なんだから、もうやめてよ…。俺はシロの笑顔が見たい。可愛く笑ったあの人が見たい。」
…ちっ!
俺だってそうだ。
ノートパソコンを出して、ダイニングテーブルで仕事を始める依冬を横目に、何杯目か分からないコーヒーを飲みながら考える…
俺だって…シロの笑顔が見たい。
桜二…大好きって言われたい…
でも、許せないし、あの…左手の薬指に光る指輪が…嫌だ!
あんなの…まるで、俺が不倫相手の様じゃないか…!!
手に持ったコーヒーをキッチンに置くと、あの子の部屋へと向かう。
扉を開いて、ベッドで眠るシロを見下ろすと隣に腰かけてあの子のサラサラの髪を撫でた。
「シロ…どうしようもない俺を許してよ…。どうしても嫌なんだ。この…この、左手の指輪が…どうしても、嫌なんだよ。」
そう言いながらあの子の体に覆い被さって、眠っているあの子の細い首にキスをする。
あぁ…シロだ。
シロがいる…
「愛してるよ…シロ、愛してるから…こんなもの、捨ててよ…」
あの子の手のひらに指を通して、自分の指に触れる…薬指の引っ掛かりを何度も、何度も、指の腹で上に持ち上げて外そうとする。
気に入らない…
ぐっすり眠って起きないのを良い事に、シロの首を肩まで舌を舐めて下ろす。
あぁ…このまま…抱いてしまいたいよ。
久しぶりの彼はとっても魅力的で、堪らないんだ。
この指輪さえなければ…
布団の中に自分を潜り込ませて、あの子の体を自分に押し付けて、硬く抱きしめて、しがみ付いた。
ダメだよ…シロ。
俺を虐めないで…こんなにも弱くて脆いんだ…愛してよ。
「んふふ…」
俺の瞳から涙が伝って落ちていくのに…あの子は寝ながら笑った。
「ふふ…」
一緒になって笑うと、可愛い唇にそっとキスして、我慢出来なくて舌を入れていく。
起きないで。
起きないで…
このまま、ずっと寝てて…
「桜二…どうして怒ってるの…こんな夜這いみたいな事するのに…どうして怒ってるの…?」
俺の髪を後ろに流しながら、寝ぼけた半開きの瞳であの子が俺を見てそう言った。
俺は何も答えないで、あの子にキスし続ける。
愛してるんだ。
それなのに…それなのに…!
シロが俺の背中を撫でて優しく抱きしめるのを拒絶して、あの子のベッドから降りた。
「なぁんで?」
とぼけた顔をしてそういうシロを無視して、あの子の部屋から出た…
人妻なんて抱かない。
俺のシロじゃないなら、抱かない。
どうしても…左手の薬指が…気に入らないんだ!
#シロ
なんだよ…
夜這いプレイがしたかったのかな…
起きなかったら、最後までしたのかな…
「ふふ…変態だな…」
ゴロンと体を横に倒すと、左手薬指の指輪を見つめて自分の親指で表面を撫でた。
「勇吾…会いたい…」
ポタリと涙が落ちて、枕を濡らしていく。
枕元の携帯電話を握ると、すぐに彼にメールをした。
“家に着いた。結婚の事で桜二と喧嘩した。勇吾…会いたいよ。”
助けてよ…
この、面倒でどうしようもない悶々とした空気を、ぶち壊してよ…
ゴロンと体を返してうつ伏せると、ぼんやりと自分の手を眺めながら足を揺らす。
ブルル…と携帯電話が揺れて、勇吾からの返信を読んだ。
“俺から話してみる。愛してるよ、シロ。”
勇吾…
お前が話したら…きっと、あの人はもっと怒る。
ベッドから起き上がると、部屋着に着替えて部屋を出た。
ダイニングテーブルでパソコンを弄ってる依冬の背中に、クッタリと体を預けながら頬を付けて行く。
「依冬…依冬…」
そう言いながら彼の背中を手のひらで撫でると、依冬はクスクス笑って言った。
「シロ…?飛行機の中で、何してたの?」
ふふ…
彼の背中に顔を乗せたまま、足で踏ん張ってゆらゆら揺れながら言った。
「映画を…3本も観ちゃった…」
「ふふ、怖いホラー映画は?どうせ、観れないと思うけど…」
依冬がそう言って笑うから、彼の髪を撫でながら教えてあげる。
「依冬?飛行機って意外と広かった。それに…オレは遊びで行くのに…毎回ビジネスシートに連れて行かれるんだ。だから…言ったんだよ?僕は遊びで行くから、バカンスシートで良いですって…なのに…」
「んぐっ!」
フルフル震える依冬の背中を撫でながら、視線の先で顔を逸らして肩を揺らす彼を見つめる。
夜這い魔め…どうして途中で止めたんだよ…
あなたの手のひらも、腕の強さも、あなたの舌も、もっと、もっと、味わっていたかったのに…
意地悪なんだ。
「ん、うおっほん…ふふ、そっか…バ、バ、バカンスシートね…今度からその席を取る様にするよ。」
依冬の背中がそう言うから、彼のうなじにキスして言った。
「3月に勇吾の公演を観に行く。ねえ?依冬も一緒においで?みんなを紹介してあげる。ショーンとか、ケインとか、モモにも会わせてあげる。ね?ね?」
そう言って彼の髪に顔を埋めてクンクン匂いを嗅いだ。
ん~~~~!依冬の匂いだ。
彼の香水の香りを久しぶりに嗅いでムラムラすると、頬にチュッチュっとキスして言った。
「依冬~!依冬~!エッチしようよ~!」
「え…良いの?わ~い!」
デレデレの彼の手を引いて部屋へ向かうと、クローゼットにしまい込んである段ボール一杯のローションを手に取って言った。
「わ~!これを使おう!」
鼻の下を伸ばしてベッドに腰かけた可愛い依冬に、ローションを片手に襲い掛かっていく。
「ん~、依冬~!寂しかったの…寂しかったの…ひとりで、ロンドンの街を歩いたんだよ…?ガードマンにつまみ出されて、偶然出会ったケインに救われたんだ。」
そう言って依冬の膝に跨って座ると、彼の髪を撫でながら何度もいやらしいキスをして、浮かせた腰を彼のお腹に押し付けた。
「ガードマン…?なんで、なんで、つまみ出されたの…」
オレの胸に顔を埋めながらそう言うと、依冬はトレーナの中に手を入れて、手のひらで優しくオレの背中を撫でた。
彼に触れられた皮膚がゾクゾク…と疼いて鳥肌を立てて行くのを感じると、うっとりと彼にキスしながら言った。
「あぁ…依冬…依冬、抱いてよ…」
久しぶりの彼は…とっても、魅力的で…刺激的だ…
合わせるキスも、体を撫でられる手つきも、全てが…堪らなく気持ち良い。
この…可愛い…トロンとトロけた様な瞳が、堪らなく…エロくて、好きなんだ。
「シロ…可愛い…」
そう言ってほほ笑む彼の唇に、そっと、舌を這わせて舐めると彼の口の中に強引に入って、舌を絡めて吸った。
得も言われぬ背徳感を、なぜ、感じるのか…
さっきから見え隠れするこの不思議な感情は…間違いなく、背徳感。
イケない事をしている時の様な後ろめたさを、なぜ、この子とセックスをして感じるの…?
「依冬…もっと強く抱いて…」
もっとオレを求めて…もっとオレを愛して…もっとオレを貪り食って、真っ白にしてよ。
彼のシャツのボタンを外すと、肩に置いた両手で彼をベッドに沈めていく。
可愛く微笑む依冬の頬を撫でながら、体を屈めて彼に甘くて濃厚なキスをすると、ズボンの上から大きく勃起した彼のモノを撫でてあげる。
「はぁはぁ…あぁ…シロ、挿れたい…挿れたい…!」
依冬は若者だからね。
とっても欲求がシンプルなんだ。
「久しぶりなんだ…もっと、じっくりお前を楽しませてよ…ね?」
うっとりとトロけた瞳で彼にそう言うと、舌を出して言った。
「舐めろよ…」
クゥ~ンなんてもんじゃない…キャン!って、痛がって叫び声をあげる様な…そんな悲痛で快感に満ちた表情をすると、依冬はオレの舌を舐めて絡めて、吸い始める。
あぁ…可愛い…
気持ちいい…!
自分の服を全部脱いで、彼のズボンを脱がせると、ギンギンに立った依冬のモノを手の中に握って、あの子の顔を見つめながら扱いてあげる。
「ああ!シロ…!挿れたい!!」
「あふふ!まぁだ、だぁめぇだ!」
ケラケラ笑ってそう言うと、依冬のお腹を両手で抑え込んで、彼のモノを上から口の中に沈めて行く。
なぁんて…素晴らしい腹筋をしてるんだ…堪らない美しい体…!
勇吾の緩い腹筋じゃない…バッキバキの腹筋にクラクラして、夢中になって手のひらで撫でると、トロけた瞳で彼のモノを口に入るだけ入れて扱いた。
おっきい…おっきい…
「はぁはぁ…イキそう…!シロ…だめ、本当にイッちゃいそう!」
イッたらいんだ!
快感に行き場をなくした依冬の手を握って…彼の指の間に自分の指を絡ませて行くと、薬指の指輪が妙にいやらしく見えて…感じていた背徳感の正体が分かった。
…この指輪のせいだ。
まるで、昼間の情事を楽しむ人妻みたいなんだ!
「んふふ…!」
依冬のモノを口の中に入れたまま吹き出して笑うと、ドクンと大きく跳ねた彼のモノが、オレの喉の奥目がけて精液を吐き出した。
「ゲホゲホ…!」
思いっきりむせて咳き込むと、涙目になりながら大笑いした。
「あ~はっはっは!!ぐふっ!ゲホゲホ…!ゴホゴホ…!はぁはぁ…」
喉を思いきり突かれて、まじで…一瞬死ぬかと思ったんだ!
オレの背中をトントンしながら、心配そうに顔を覗き込んで依冬が言った。
「お水、持ってこようか…?」
「ふふ、要らない…」
心配そうに眉を下げる彼の頬を撫でて頭を抱きしめると、自分の胸に埋めて言った。
「依冬に…殺されかけた…!」
そう言ってクスクス笑いながらキスをすると、気持ちよさそうに首を伸ばす彼の首筋を指先で撫で下ろした。
依冬、可愛い…
依冬が年下だからじゃない。
なぜか…オレは抱かれる男、みんなを可愛いって思うんだ。
その話をしたら、桜二が言ってた。
それはきっと、シロが上から目線だからだって…!
ふふっ、違うよね?
見下してるから…相手を可愛いと思うんじゃない。
愛おしくて…可愛らしくて…両手で包み込んで、守ってあげたくなるんだ。
だから…可愛いって、思うんだ。
「依冬のおちんちんにトロトロの液を掛けてあげる。」
そう言うと、彼のお尻の下に桜二のバスタオルを敷いて、彼のモノの上からローションを垂らして言った。
「あ~!なんてエッチなんだ…!」
ローションまみれになってテカテカと光り始める依冬のモノを扱きながら、自分の左手の薬指に輝く勇吾の結婚指輪を見つめて、変なスイッチが入って行く…
まるで、若い燕の体に興奮する、金持ちの奥さんみたいだ…
指輪を外して右手に付け替えると、依冬のヌルヌルの下半身に自分のモノを擦りながら言った。
「依冬…シロの、シロの舐めて…!」
興奮した依冬がオレに覆い被さって、激しいキスをしながらオレの中に指を入れてくる。
…ううっ!舐めてって言ったのに!
「あっ!依冬…依冬!はぁっ…だめ、もっと…ゆっくりして…!」
久しぶりのセックスと、ヌルヌルのローションに…依冬は言語を失った…野獣へと変わって行く。
「はぁっ!依冬…!だめ、まだ…まだ、オレの舐めてないの!」
オレのお尻を持ち上げる彼にそう言うと、抵抗する様に彼の手を引っぱたいた。
「あぁ…シロ、痛いよう…」
そんな可愛い言葉とは裏腹に、彼の目はギラついて…どす黒いオーラを放っている。
グッとオレの中に依冬のモノが沈み込んで来て、強い圧迫感と快感にうめき声をあげると、力なくベッドに顔を沈めて、彼のくれる一方的な快感に身を捩るしかなくなる。
だめだ…依冬は可愛い…可愛い野獣なんだ。
「はぁはぁ…!ん~~!気持ちい…!依冬、イッちゃう…!」
「早いよ…シロ、まだ挿れたばかりなのに…」
そんな事言って…!
奥まで躊躇わずに入れてくる容赦のない依冬の腰使いに翻弄されながら、真っ白になって行く快感に、溺れて行く。
後ろからオレの腰を抱きかかえると、オレのモノを扱きながらガンガンと中を刺激して、依冬が言った。
「あぁ…もう、シロ…よだれが沢山出てる…そんなに俺とセックスしたかったの…?可愛いね…シロ。沢山あげるよ。」
可愛いって思った。それに間違いはないし…心から可愛いって思ってるよ。
でも…野獣と化した依冬に、彼のセックスに、たまに恐怖を感じても良いでしょ?
だって全然終わらないんだ。オレが何回イッても、彼が何回イッても、一度入ってしまった”野獣スイッチ“が切れるまで…彼の腰は止まらない。
こんな時…桜二がいてくれたら、強制終了してくれるのに…
「バカぁ…バカぁ…!3回までなら許すけど、それ以上はダメだ!オレが良いって言わないと、やったらダメだぁ!」
散々やり散らかして”野獣スイッチ”の切れた依冬の胸を叩いて怒ると、彼はクゥ~ンと鳴いて言うんだ。
「ごめ~ん…」
年に数回訪れる依冬による獣の宴が、今年初めて開催された…
ローションのお陰か…ダメージよりも気怠さが残る、快感度強めの宴だった。
それでも、ダメなもんはダメだ!
こうやって宴終了時に厳しく指導して、次の開催までに躾しないと…野放しなんてしたら、オレが殺されかねないからね。
激しいローションセックスを終えると…オレは依冬と手を繋いで浴室へ向かった。
リビングに…桜二の姿は無い。
きっと出かけたんだ。
オレの喘ぎ声が聞こえるから、消えたんだ。
「シロ…桜二を許してあげてよ…」
オレの体を綺麗に流しながら依冬がそう言った。
許す…?
彼の胸の上を流れていく水を指で堰き止めて伝う水の流れを変えると、依冬に寄り添って、彼の可愛いお尻をモミモミしながら言った。
「怒ってないもん…」
「嘘つき…」
嘘なんて言ってない。
桜二がひとりで怒ってるんだ…
愛しいオレを抱きもしないで、しっぽを巻いて逃げて行ったんだ。
ふん…!
「シロ?そっちは何時なの?隣の人は誰?」
画面に映るモモとヒロさんに首を傾げて言った。
「この子は依冬、オレの可愛い恋人だよ?今は…夜の7:00だよ?」
オレがそう言うと、ヒロさんがモモに通訳して伝えた。オレのとぼけた雰囲気まで真似して伝えるから、隣で見ていた依冬が視線をそらして体を揺らして笑った。
「え~!勇吾!あははは!早速、浮気されてる!」
モモはそう言って音が割れそうなくらい大笑いをすると、背後でムスッとする勇吾の胸をバシバシと叩いた。
依冬のノートパソコンで勇吾たちとビデオ通話をしてるんだ。
何やら仕事の件でお話があるそうで、急遽、依冬がパソコンをセッティングをしてくれて、オレは彼らと顔を合わせて話す事が出来た。
楽しそうな彼らを見たらイライラした気持ちも薄れて、口元がどんどん緩んでいく…
勇吾の背後…チラッチラッと見切れる場所で、ケインが行ったり来たりしてるのが…ジワる。ほんと…この人は、誰かの薄味通りの行動を取るんだから。笑っちゃうよ。
「修正箇所が出たんだ。シロ、一回見てみてよ…」
勇吾はそう言うと、カメラをパンさせてポールを映した。
「じゃあ、踊るよ?」
モモがそう言ってポールに登って体を動かしていく…
「わあ…凄いね…」
オレの隣で依冬が感嘆の声を上げてそう言った。
「まだまだ…ここからラッシュが始まるんだ…」
オレはそう言うと、身を屈めてモモの動きを注視する。
んん…?!
新しく入った修正は、他の動きを止めて流れるダンスをぶった切っていく…
こんなの、ダメに決まってる!
「…どうだった?」
カメラを戻して勇吾が画面を見ながらそう聞いて来た。
でも、彼はカメラに映ったオレの表情を見て、すぐに吹き出して笑って言った。
「気に入らないか…!」
そうだ。
だって、流れが切られてるんだもの。
「修正する理由は?」
口を尖らせて彼に聞くと、勇吾は首を傾げて言った。
「オーケストラの持ってた楽譜が…用意した音源と違ったから…」
「はぁ?だったら楽譜をこっちに合わせてもらいなよ…」
「そういう訳には…ねえ?ベン?」
もにょる勇吾にイラっとすると、顔を覗かせる音楽担当のベンがテヘペロしながらオレに言った。
「ごめ~ん。この曲だけなんだ。他は間違いないんだけど…この曲だけ、違うものを用意しちゃってたみたいで…。どうしたかなぁ…?きっと、娘の受験と重なったから…疲れてたのかもしれない…。それか…妻の妊娠と重なって…」
「もういい!」
ムスッとふくれっ面をしてそう言うと、腕を組んで考え始める。
そんなオレをじっと瞳を細めて見つめる勇吾と、しばらく睨めっこをする。
「…新しい楽譜を、頂戴よ。」
オレがそう言うと、勇吾はすぐに新しい楽譜をデータで渡した。
「依冬?これ…印刷して?」
様子を眺めていた依冬はお利口さんにオレの小間使いをしてくれる。
「あの子…社長さんなんだ。すごいだろ?社長さんにお使いを頼んでる…ふふっ!」
オレが得意げにそう言うと、勇吾の後ろからケインが言った。
「ケインだったら、もっと早くプリントアウト出来るのに!」
「あ~はっはっは!ほんと、ケインは誰かさんにそっくりだな…」
すぐに一番になりたがって…すぐに対抗心を燃やすんだから…
「はい、どうぞ?」
そう言って依冬に手渡された楽譜に目を通しながら、勇吾が流す音楽に耳を澄ませて、頭の中で動きを調整する。
意思疎通がしやすいように楽譜の中の五線譜にナンバーを振って言った。
「13番で調整する…あと…24番…26番…32番。この4か所で帳尻合わせしよう。ここならどの動きにも影響が出ない。だから、ここ以外は今まで通りの動きで良いんだ。オレに任せて?後で、また連絡する。勇吾?その音源オレの携帯に送って。じゃあね!」
早々に通話を切ると、すぐに送られてきた音源を掛け流しながら楽譜を見つめる。
そんなオレを嬉しそうに眺めて依冬が言った。
「シロ…ちゃんと、お仕事していたんだね…?」
どういう事だよ!
オレはいつもちゃんと働いてるよ?
オレの頭をナデナデする依冬の手をそのままにさせて、頭の中で踊りの流れを再構成させていく。
「ここを…こうして、ここで…こうしたら、どうかな?」
ひとりでそう言うと、依冬の手を引いてオレの練習部屋へと連れ込んだ。
窓を付けて貰った一番奥の部屋。
壁は鏡張り。床にリノリウムを敷いた、バレエも踊れる特設スタジオだ。
もちろん部屋の中央には、天井までポールが突き刺さってる。
「見てて?」
そう言うと音楽を流しながら、さっきモモが踊った物を披露する。
「わあ!さっきの子よりも、シロの方が綺麗だよ?」
はは!そりゃどうも!
頭に入れた調整個所を意識しながら一通り踊ってみて、ポールから降りると楽譜に書き込んでいく…
「テンポが合わなかった…」
ぶつぶつそう言いながら何度も何度も違うパターンで試して、踊りの流れが途切れないちょうどいい形を探していく。
「お!来たんじゃないか!」
そう言ってポールから降りると、もう一度楽譜に書き込んで修正箇所を次々と埋めていく。
「シロ…こういう仕事を向こうでしていたの?」
鏡に背をもたれさせて足を投げ出した依冬がそう聞いて来たから、オレは胸を張って答えてあげた。
「そうだよ?勇吾の考えた構成をダンサーに教えたり、こうやって調整したり…おいらが全てやったんだい!」
そう。
勇吾の考えた構成が上手くダンサーに根付く様に、つながりの悪い所を調整して最初から終わりまで…全て形にした。
だから再調整が必要な箇所が発生したら、必然的にオレが修正するんだ。
じゃないと、さっきみたいにぶった切りになっちゃうからね…
あんなの…ダメだ!
「そっか…素敵じゃないか…」
そう言った依冬の言葉が耳にこそばゆくて、聞こえないふりをした。
でもね、オレがお店で踊る曲だって…初めはこうして構成を組むんだよ?
使われる曲がクラシックだと…上等なものに見えるかもしれないけど、この作業自体はいつもやってる事と変わらないんだ。
「で~きた!」
オレはそう言うと、依冬のパソコンを練習室に持って来て勇吾につなげた。
彼はサンドイッチを食べながらオレを見て言った。
「シロ?疲れてないの?今日、帰ったばかりだよ?もう…明日にしなよ。」
はぁ?!
「馬鹿言うな。ダンサーに変な癖がつく前に調整してあげたいんだ。」
そう言って依冬にノートパソコンを持たせると、ポールの全体が映る様に角度を調整した。
「依冬?ここでキープしてて?」
微妙な角度をキープさせて、依冬に二の腕の筋肉の鍛錬をさせる。
こりゃ、一石二鳥だな。
すぐに音楽を流し始めると、ポールに登って踊り始めた。
練習室のポールはそんなに長くないんだ。でも、動きを再現するには十分だ。
「ここ!」
そう言って変更箇所を伝えながら、流れを止める事なく最後まで踊り切ると、ポールから降りて画面を覗き込みながら聞いた。
「ねえ、どうだった?」
勇吾は盛大な拍手をすると、笑顔で言った。
「上出来だよ!ダーリン!」
ふふっ!そうだろ?
オレは今まで歌舞伎町の店の15分のステージを沢山構成してきた。
だから、踊りの合間を繋げるパーツを沢山持ってる。大技と大技を繋ぐパーツも…大技から小技に繋げるパーツも…沢山持ってるんだ。
このくらいの再構成…序の口だよ?
「録画してあるから…早速、モモに見せるよ。また何かあったら連絡する。ありがとう。愛してるよ。ダーリン…」
勇吾はそう言って瞳を細めると、ウインクして通話を切った。
よしよし…これであのへんてこな再構成をモモたちに躍らせなくて済んだぞ!
鏡にもたれてオレを見上げる依冬に手を伸ばすと、満面の笑顔で言った。
「さあ…これで心置きなくつるとんたんが食べられる。依冬、連れてって?」
彼はにっこりと笑うと、オレの手を繋いで立ち上がった。
あぁ…この笑顔…めちゃんこ可愛い!!
野獣モードじゃない依冬はカワイ子ちゃん。オレを骨までトロけさせてくれる可愛さを持ってる。そう、まるで、赤ちゃんみたいな可愛さだ。
フニャっと笑う顔も、可愛いトロけた瞳も、センター分けの癖っ毛の髪も、全部可愛い。
大きな体でオレに連れられる姿も…可愛い。
バタン…
玄関へ向かう途中、ちょうど桜二が外から帰って来た。
彼の手に握られた、持ち帰り用の“つるとんたん”を見下ろして、クスッと笑うと、彼に言った。
「桜二~!やっぱりお前は天才だ!今、まさに、それを食べに行こうって思ってたんだよっ?どうして分かったの?ふふっ!」
そう言って彼に抱き付くと、頬ずりしながら彼をキッチンへと連れて行った。
大きな鍋にお水を入れてお湯を沸かし始めると、桜二の背中に抱き付いて言った。
「オレは、明太クリーム…」
彼はまだ怒ってるの?
うん、多分…まだ怒ってる。
でも、オレは怒ってない…
桜二がオレの好物を買ってきて、作ってくれるから、怒ったりしない。
「俺は、普通ので良い。」
依冬はそう言うと、みんなの器を3つ並べ始めた。
すごいでしょ?これはオレの躾の成果だよ?
働かざる者食うべからずって教えたんだ。だから、依冬はこまめに働く良い子になったんだよ?
オレ?
オレはこうして桜二の背中にくっ付いて、彼が一生懸命料理するのを応援してる。
誰にも評価されない、縁の下の力持ちなんだ。
「ん、違う。オレのお皿は、猫のお皿にして!」
依冬にそう言うと、彼がぶつくさ文句を言うのを無視して、いつもの様に桜二のお腹を撫でて彼の動きに合わせて一緒に動いた。
これは、まるでチークダンス…
そう、チークダンスだ。
勇吾以外、こんな事、出来ないと思っていたけど…桜二とは、ずっと前から一緒に踊ってたみたいだ。
「桜二…桜二…」
彼の名前を呟いて彼の背中の温かさを全部貰うと、何度も手のひらで撫でて…愛した。
怒っていたって良い…
だって、オレは怒ってないもん…
「…出来た。」
そう言って彼がコトンと置いた、猫のお皿を手に持ってダイニングテーブルに置くと、隣に彼の箸を置いて行った。
「はい、桜二のわかめたぬきうどんはここに置いてね?」
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