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第33話
丁寧にお辞儀をしてカーテンの奥へ退けると、控室にはブチ切れた楓が待っていた。
「あの、くそ外人!マジでムカつく!」
そう言って段ボールを蹴飛ばすと、ガシガシ踏みつけて言った。
「楓みたいに優しい子じゃなくって、僕はもっと意地悪な子が好きみたいだ~!だってさ!どМのくそ外人!ムカつく!散々エッチした癖に、何を今更、言ってんだっ!」
あぁ…あいつ、言ったんだ…
アバンチュールな恋が美談で終わる様に画策したのに…ヒロさんは勇吾を悪者にするでもなく…正々堂々、自分が悪者になる事を選んだ様だ…
「シロ!あんな通訳、クビにした方が良いよ!?ねえ!僕の事好きだろ?だったら、僕の為に彼をクビにしてよ!きーーー!許せない!飛行機が落ちれば良いのに!」
楓はそう言うと、地団駄を踏んで大暴れする。
オレは私服に着替えると、怒り心頭の楓に言った。
「彼は明日、飛行機で遠くへ行くんだ。きっと帰ったらママにこってり絞られる。それで良しとしようじゃないか…?ね?楓…怒りを沈めたまえ…」
「きーーー!この怒りを晴らすために、ラストの曲にマリリンマンソンを踊ってやるっ!クソッタレのくそ外人め!前戯がやたら長くてうんざりしてたんだ!彼の舌は酸性だよ?舐められた後、ひりひりするからね?酸性の舌なんだ!」
ウケる!
オレは腹を抱えて大笑いすると、楓を抱きしめて言った。
「楓…彼ぴっぴを大切にするんだよ。痛い目を見た、この事は、もう忘れるんだ…」
「シ~ロ~!本当だよ!僕には彼しかいない!!彼の舌は酸性じゃない、弱アルカリ性なんだ!だから、良いんだ!」
オレを抱きしめてそんな謎の理論を展開すると、楓はソファに腰かけてさっそく彼氏に電話を掛けた。
「ん~~!会いたかった!ずっとさみしかったの~~!」
ウケる…!
逞しいね…?
彼の頭をポンポン撫でて、コートを手に取ると、ショルダーバッグを肩に掛けて控室を出た。
店内に戻って黄昏れるヒロさんの背中を撫でると、彼の顔を覗き込んで言った。
「帰るよ…」
「オーケー…」
彼はそう言うとすぐに席を立った。そして、オレの腰に手を当てながら一緒に歩き始めた。
惚れやすく…冷めやすい…罪な男だな。
「シロ…柔らかいね。」
甘い声を出してオレの髪の匂いを嗅ぐと、目の前に現れた桜二にたじろいで、ヒロさんはすぐに体を離した。
「…丁度良い、タイミングだったみたいだね?」
そうだね、いろんな意味で、ちょうどいいタイミングだ。
オレを見つめてそう言う桜二に抱き付くと、彼の胸に顔を埋めて言った。
「さあ、うちに帰ろう…?」
コンビニに寄ると、ヒロさんの好きなおにぎりと、オレの好きな抹茶ラテを買った。
「ヒロさん?たまには違う味のおにぎりを食べてみたら?」
車の中でオレがそう言うと、彼は肩すくめて言った。
「え?僕はね、この味が好きなんだよ?」
…それは、辛子明太子のおにぎり。意外と味覚が日本人寄りだ。
家に帰ると帰り支度を始めるヒロさんを横目に、ソファに座る桜二に抱き付いて言った。
「今日、会って来た。」
「そう…」
「薫ちゃんって名前だった。」
「…そう。」
「…桜二、キスして?」
「良いよ」
彼の唇に舌を這わせて彼の舌を舐めると、自分の口の中に入れて舌を絡める。
優しく何度も頬を撫でながら彼とキスをすると、惚けた瞳を向けて彼に言った。
「愛してるよ…桜二。」
彼はクスッとほほ笑むと、オレにキスして言った。
「俺もシロを愛してるよ…何よりも、大切だ。」
彼の胸にクッタリと頬を付けると、手のひらで胸を撫でながら、何も考えない時間を過ごす。
はぁ…落ち着く…
「シロ?荷物が入らない!」
ヒロさんはそう言うと、スーツケースから溢れたお土産を両手に抱えて言った。
「送ってよ。」
「全く…仕方が無い子だねえ…」
オレはそう言うと、体を起こしてヒロさんの元へ向かう。
要らない段ボールを物置から取り出すと、ヒロさんに言った。
「お土産はすぐに渡したいでしょ?だったら、この段ボールに入れるのはすぐに着なそうな服の方が良いよ。」
「なる程ね。」
彼の荷物を一緒にしまって行くと、可愛いトレーナーを見つけて広げて見た。
「なんだ、これ、可愛いじゃん!」
「え…それ?シロにあげるよ。」
「ほんと?嬉しい!」
良い物を貰った!それは、レトロな古着っぽい配色のトレーナー!
「他には?要らない服無いの?」
彼の荷物を見ながらそう言うと、ヒロさんはオレの顔を覗き込んで言った。
「シロ?…ありがとうして?」
そう言って彼は頬に指をあててチョンチョンとした。
ふふっ…
体を傾けて彼の頬にチュッとキスすると、再び荷物を漁った。
「あ~!このズボンも可愛いね?ちょうだい?」
「ダメだよ…着て帰る物が無くなる…」
結局オレは彼の服を5着もかっぱらった。
お陰で、彼の荷物は段ボール一個分に収まったんだ。
ある意味、ウインウインだよ?
スーツケースにお土産を詰め込むと、ヒロさんが顔を上げて言った。
「やっぱり、ドールハウスを買っておけばよかった…」
ぐふっ!ウケる!
それは神社で見かけた”神棚“のお札を入れる”宮形“の事。
彼はそれに色を付けて、姪っ子にドールハウスとして渡そうとしていたんだ。
「アマゾンで売ってるよ…」
オレがそう言うと、ヒロさんは首を振って言った。
「あそこで買うから良いんだ…」
いじけた様に口を尖らせる彼が、妙に可愛くて、クスクス笑って言った。
「じゃあ…オレが買って送ってあげる。一番大きいのを買うよ?」
オレの言葉に笑顔を見せると、彼はオレの唇にキスして言った。
「シロ、ありがとう。」
はぁ…全く。
桜二がジト目で見つめ続ける中、ヒロさんは飄々と荷物を詰め込んで帰り支度を済ませた。そして、そのままお先にお風呂へと向かうと、オレを見て言った。
「シロ?温泉の時みたいに、一緒に入る?」
「いや、桜二と入るよ。」
オレはそう言うと、グラスに水割りを作って、ソファに座る桜二に手渡した。
「ヒロさんは、いつの間にかシロを狙い始めてるの?」
オレの水割りを一口飲むと、桜二はそう言ってオレを膝の上に座らせた。
「さあね…彼は惚れっぽいんだ。所でさ、どん吉の名前…改名を考えてるらしいんだ。どうも、男がトンずらして…薫ちゃんは頭に血が上ってたみたいなんだ。」
彼の頬をナデナデしながらそう言うと、桜二はケラケラ笑って言った。
「良いじゃないか、どん吉で。漢字を鈍器の“鈍”にして…吉はそのままで…格好良いじゃないか。はは…」
最低だろ?
彼の頬を軽く叩くと怒って言った。
「人の名前で遊ぶな!どん吉は6月26日生まれなんだ。だから、6月の花の名前が良いと思うんだ。例えば…アジサイの青を取って…葵とか…可愛くない?」
オレがそう言うと、桜二は興味なさげに言った。
「何を付けても同じさ…」
「違う!桜二の桜は桜だろ?それはお前が3月生まれだからだよ?素敵じゃないか…。そんな素敵な名前があの子にも似合うと思うんだよ?」
「薄い…」
人がせっかく名前の案を出しているのに、興味なさげにオレの作った水割りに文句を言うから、キッチンへ行ってブランデーを瓶ごと持って来た。
「ねえ?どんな名前が良いと思う?」
彼に尋ねながら膝の上に跨って座ると、彼の差し出すグラスにブランデーを注いで、指でかき混ぜて彼の口に入れた。
「6月は、緑が生い茂るから…緑朗とかも…可愛いと思うんだ。」
オレがそう言うと、桜二はケラケラ笑って茶々を入れる。
「茂雄で良いじゃん…ははっ!」
ほんと…誰かとそっくりだ!
ふざけ倒す彼を見つめると、髪の毛を両手で後ろに流しながら彼のおでこにキスして言った。
「薫ちゃん…おじいちゃんとおばあちゃんに育てて貰ったって…とっても、礼儀の正しい…良い子だった。目元がお前によく似てて…美人さんだ。笑顔が可愛らしい女性だった。ふふっ!どん吉と桜二の写真を見せたら、意外とイケメンでびっくりしたって、言ってたよ?」
そう言って彼の瞼にキスすると、おでこに頬ずりして言った。
「ねえ…桜二。オレ…幼い頃の自分を、自分の中にしまう事が出来たんだ…」
「…そう。」
「…偉い?」
「とっても…偉いよ。」
ふふ…桜二は優しい。オレにだけ、優しいんだ。
彼の頭を抱きしめると、ギュッと抱えて自分の胸に押し付けた。
「あ~…ここで始めないでよね?すぐに始まるから、この家は緊張感が半端ないんだ。」
そんな憎まれ口を聞きながら、ヒロさんがお風呂から上がって来て言った。
「依冬は?」
「依冬はお仕事だよ…今日、色々手続きをしたから…その処理をしてるって…メールが来てた。」
オレがそう言うと、ヒロさんは冷蔵庫のビールを手に取って言った。
「飲んでも良い?」
「良いよ。」
風呂上がりのビールは万国共通なの?体に悪いのにね?
「さて…シロとお風呂に入ろうかなぁ…」
桜二はそう言うとオレを抱っこして浴室へと向かった。
「結城はどうだったの?…今日、結局、付いて行ってやったんだろ?」
オレの服を脱がせながら桜二がそう聞いて来るから、オレは彼のズボンのチャックを下げて言った。
「優しくなった結城さんを見て…泣き崩れてた。可愛そうだね。あの子は、恐れながらも、彼に愛して欲しかったんだ。…子供は親を選べない。でも、どんな親にも…愛を望んでしまうんだ。」
彼のズボンを膝まで脱がせると、彼のモノをパンツの上から撫でて言った。
「桜二は、しばらく彼に会わないでね…?」
「どうして…?」
「だって、せっかくオレに懐いたのに…お前を見たら、思い出しちゃうだろ?嫌な事をさ…」
そう言って彼のシャツのボタンを外すと、シャツから覗く胸をぺろりと舐めながら脱がせた。
「…どうやって、手懐けた?」
興味津々の表情で聞いて来る彼を無視すると、パンツを脱いで浴室に入って、追いかける様に浴室に入る彼に背中で言った。
「内緒!」
「ふふ…!何したら、あの蛇が懐いたんだ…?俺にだけ教えて?」
桜二はそう言うと、シャワーをガンガン頭に受けながら、オレの背中にへばり付いて首にキスした。
全く…危険な好奇心だよ?
「彼は…湊くんを亡くして…心が壊れた。オレは、兄ちゃんを亡くして…心が壊れた。似た者同士なんだ。だから、傷を舐め合った。それだけだよ?」
びしょ濡れの彼を振り返って見てそう言うと、ふわふわのスポンジに石鹸を付けて貰う。
「嘘つき…!」
そんな彼の言葉を背中で受けながら口元を緩めると、クスクス笑いながら体を洗って行く。
嘘なんて吐いてない。具体的に言っていないだけだよ?
仲良くお湯に浸かってまったりすると…仲良くお風呂を出て体を拭き合いっこする。
そして、仲良くパジャマを着せ合う。
こんな日常が…ずっと続けば良い…
爆弾も、ハプニングも、トラブルも要らない。ただただ、平和な日々が続けばいい。
だって、これはお芝居じゃないんだ。
盛り上がる必要も、終いにオチを付ける必要もない。
オレと桜二と、依冬の…日常だからね?
楓にブチ切れられたヒロさんは、全く堪えていない様子だ。ビールを飲みながら楽しそうにモモと電話をしていた。
そんな彼を横目に見ながらキッチンへ行くと、桜二にグラスを出して、自分はミネラルウォーターをがぶ飲みする。
「ひと口、水を飲んでからにして?」
そう言って桜二に水を飲ませると、氷を入れたグラスにブランデーを注いでお水で割った。
桜二の口端からこぼれた水をチュッと舐めると、彼の瞳を見つめて言った。
「水飲むの…下手くそだな?」
そんなオレの言葉にうっとりと瞳を細めると、桜二はオレの腰を抱き寄せて挑発する様に言った。
「なぁんだ、キスしたかったんだろ…?」
「違う。桜二がお水も上手に飲めない赤ちゃんだから、お世話してあげたんだ。」
オレがそう言うと、彼はニヤニヤしながらオレのお尻を撫でて言った。
「可愛い…」
「ただいま~…」
キッチンで桜二とイチャイチャしていると、ヨレヨレになった依冬が上着を手に持って帰って来た。
「おっかえり?」
そう言って声を掛けたオレを見ると、依冬はアッと顔を変えて桜二を見て言った。
「信じられないんだ!あの、あの、あの親父が…!オレたちと同じ色違いのパジャマを着て、シロの手あったか~い!って言ったんだ!」
随分…端折ったな。
ヨレヨレだった筈の依冬は、息を吹き返した様にそう言うと、桜二の顔を見て彼の返答を待ってるみたいに固まってしまった…
「シロの手…あったか~い?」
桜二は復唱する様にポツリと呟くと、すごい勢いでオレを見下ろして言った。
「…嘘だろ?」
「本当だ!俺はこの目で見たんだ!信じられる?権利を譲渡する書類も、何一つ文句も言わずにサインして…俺に…労いに言葉を掛けた。…シロの肩にもたれかかって甘えて、すっかり店の支配人みたいに、骨抜きになってた!」
まだ信じられないとでもいう様に首を横に振ると、依冬はヨロヨロの体を引き摺る様に浴室に向かった…
「シロ…何、した?」
オレを見下ろしてポカンと口を開ける彼の間抜けな顔が、とってもおかしくてケラケラ笑うと、彼の顎を指で撫でながら言った。
「さっき言った通りだよ?」
すっかり呆けた桜二の手にブランデーの入ったグラスを持たせると、ヒロさんが陣取るソファに座ってテレビを見た。
「シロ!モモに何か言って?」
そう言って向けられた携帯電話を手に取ると、ヒロさんがニコニコ笑う顔を見つめながら、モモに向かって日本語で言った。
「モモ~!元気~?オレは元気にしてる!ヒロさんが浮気しても、オレにちょっかいを出して来ても、耐えてるんだ。帰ったら、一発ぶん殴ってやってよ?」
「ワ~~!シロ~~~!」
そんなモモの歓声を耳に受けながら、目の前の彼の顔がどんどん青白くなって行くのが面白くて笑うと、ヒロさんはオレから携帯電話を取り上げてモモに誤訳して話した。
ジト目でオレを睨みつける彼の顔に裸足の足を向けると、ちょいちょい動かして遠くに座らせた。
「桜二~おいで?オレの枕になって?」
そう言って彼を呼びつけると、グラスの中になみなみに注がれたブランデーを持った桜二がやって来た…
飲まないと追及しちゃうなら、飲んで忘れたら良いんだ。
「ヨイショ…」
そんな言葉、聞かなかった事にするよ?
ソファに横になった桜二の胸に顔を乗せると、彼の体を撫でながら一緒にテレビを見る…
他の人と違う、変なポイントで一緒に笑うと、彼の胸に頬を摺り寄せて言った。
「…桜二、眠い。」
ピッチの早い彼は、なみなみに注いだ筈のブランデーをほぼ飲み切っていた。
全く、肝臓に悪いね?
ほぼ、ストレートで飲んでる。
「…桜二?酔っぱらった?」
彼の顔を見上げてそう聞くと、桜二はトロンとした瞳で言った。
「いいやぁ…」
酔ってる…
「シロ、明日は12時の飛行機に乗るから…僕は9時にはここを出る予定だよ?」
モモと電話を切ったヒロさんはそう言うと、オレの下敷きになったまま、酔っぱらった桜二を見て吹き出して笑った。
「桜二さんは、ちょっと良く分からない。変な人だ。ふふっ!初めはとっつきにくくて…いつも怒ってるのかと思ったけど、シロにはいつも甘々の甘で、警戒心…ゼロなんだもん。…拍子抜けするよ。」
ふふっ…それは、間違いない事実だ。
「酔っぱらっちゃったね…?桜二、おいで…?」
オレはそう言って桜二を引っ張ると、ヒロさんに言った。
「9時ね!オーケー!タクシーで空港まで行く?」
「はん?電車で行くんだ。せっかくの東京を…最後まで味わいたいんだ!」
ヒロさんはそう言うと、オレと桜二に丁寧にお辞儀をして言った。
「おやすみなさいませ、ご主人様!」
…まあ、間違っちゃいない。
「お休み…ヒロさん…」
胸を張って依冬の部屋に入って行く彼を見届けると、酔っぱらった桜二を彼の部屋まで運ぶ。
「シロ…エッチしよう…」
酔っ払いとするなんて、ごめんだね?
「や~よ~。」
そう言いながら桜二の部屋の扉を開くと、彼をベッドに放り込んだ。
丁寧に布団の中に体をしまってあげると、酔っぱらってトロンとトロけた瞳の桜二をからかって遊ぶ。
「あぁ…桜二くん、おちんちんがナヨナヨになってるよ。どうしてか知ってる?お酒の飲みすぎだよ?血流が違う方に行ってるんだ。」
彼の胸に顔を乗せてそう言うと、彼の股間をナデナデしてクスクス笑った。
「シロが…お口でやれば、元気になる!」
馬鹿みたいな声を出してそう言う桜二に吹き出して笑うと、彼の足に股間を擦り付けながら、ズボンの中に手を入れて、直に握って扱いてあげる。
「あれぇ…お口でやらなくっても、元気になって来たぁ…」
彼の耳元でそう言ってクスクス笑うと、桜二がオレを見つめて言った。
「シロ…キスして?」
ふふっ!可愛い…!
「や~だよ~!」
そう言って舌を出すと、彼の唇の前まで持って行って笑った。
「いつから意地悪になった!」
そう言って怒り始める桜二をケラケラ笑いながらからかうと、彼の胸に頬を付けて項垂れる。
「桜二…大好き…」
オレがそう言うと、彼は枕元のリモコンで部屋の電気を暗くした。
「お休み…シロ。」
彼がそう言うから、オレは彼の股間を撫でながら言った。
「なぁんだぁ!」
「なぁんだ?!」
桜二がそう言ってオレの体を勢いよくベッドに沈めるから、おかしくてケラケラ笑った。
「ふふっ!あはは!あ~ふふ、おっかしい…桜二は、変な人。」
そう言って彼の頬を撫でてうっとりすると、トロけた瞳の彼にキスする。
桜二の舌は…酸性じゃない…アルカリ性でもない…
オレにピッタリの…舌だ。
どんどん気持ちが盛り上がって行って、キスする口から漏れる息が荒くなって行くと、彼の背中を抱きしめて言った。
「はぁはぁ…桜二、桜二…!したい…!」
「だぁから言ったんだぁ…」
そんな…とぼけた声を出す、彼も好き…!
「ん~~!可愛い!!」
堪らなくなって、襲う様にキスをすると隣のオレの部屋に依冬が入って来て言った。
「まだ、起きてますよ…?」
ふふっ!知ってるよ?
「依冬?依冬もおいでよ…桜二が酔っ払って、可愛いんだ。」
桜二の上に跨ってそう言うと、自分のパジャマのボタンを外していく。
依冬は間仕切りの隙間から桜二の部屋に入って来ると、壁に飾られたオレの絵を見て言った。
「この人、個展、開かないかな…?」
そんな状況とちぐはぐな彼の独り言にクスクスと笑い声をあげながら、目の前の桜二のパジャマのボタンを外していく。
「桜ちゃ~ん、可愛い!」
彼の胸板を両手でねっとりと撫でると、体を屈めて彼にキスする。桜二はオレの肩からパジャマを脱がせると、背中を撫でおろして腰を掴んで言った。
「ん…も、擦って…」
ははっ!
リクエストに応えてあげよう。
パジャマのズボンを脱がせて自分のズボンも放り投げると、彼の体に跨って座って、パンツ越しに自分のモノと桜二のモノを擦り付けて、気持ち良くしてあげる。
「あぁ…シロ、可愛い…」
依冬がベッドに座ってオレとキスすると、桜二がオレの腰を掴んで腰を動かし始める。
「はぁはぁ…桜二、ん…気持ちい…」
依冬のキスが濃厚で優しくって…頭の中がクラクラしてくる…
「シロ…こんなにエッチだと、依冬はみなぎってきちゃうよ…」
耳を舐めながら、依冬が変な事を言ってオレを笑わせる。
「ふふっ…!あふふ…ばぁか、あっはっは…!」
「イチャつくなぁ!」
桜二が体を起こしてオレをベッドに沈めると、依冬はいそいそと自分の部屋へ戻った。
「絶対、ローションを持って来る…」
オレに覆い被さりながらそう言うと、髪を何度も撫でながら桜二がオレにキスをして、足をオレの股間に擦り付けて言った。
「結城に…何したの…」
はぁ…
彼の髪を後ろに流しながら彼の唇にキスすると…ゆるゆると腰を動かして桜二の足に自分のモノを擦って言った。
「…気持ち良くしてよ…してくれないなら、寝て…」
「ふふっ…」
彼は鼻で笑うと、オレの胸に舌を這わせて手のひらで胸を撫でて愛撫を始める。
あぁ…気持ちい…
桜二の髪を撫でながら彼のくれる快感を味わうと、パンツを下げて大きくなったモノを彼の腹に押し付けて腰を振る。
「ヒロさん、オナニーしてたぁ。」
衝撃的な事実を話しながら桜二の部屋に帰ってくると、依冬はベッドに体を乗せてオレにキスして言った。
「お口でしてって…言わないの?」
言わない…
だって、言わなくても…してくれるもん。
桜二がオレのモノを手の中に入れて優しく扱き始めると、腰が動いて息が荒くなって…目の前の依冬の舌を絡めながら快感に満たされていく。
「あ~…気持ち良さそう…」
唇を離してうっとりとした瞳でそう言うと、依冬は、オレの頬を撫でながら何度もキスをくれる。
「はぁはぁ…あぁ…ん、桜二…お口でして…お口でしてよ…」
腰を上げてゆるゆると揺らすと、悩ましい声を出して彼におねだりした…
桜二はリクエストに応えると、エッチな音を出しながらオレのモノを口の中に入れた。
一気に快感が頭の奥を貫いて…腰が仰け反って体が小刻みに震える…
「桜二…あっああん!気持ちい…!良いっ…あっああ…ん~~!」
喘ぐオレの口を塞ぐようにキスすると、依冬はズボンの上から自分のモノを撫でて言った。
「堪んない…シロ、お口でしてよ…」
彼の太ももに頭を乗せると、目の前に出された依冬のモノを下から舌でねっとりと舐めてあげる。
桜二がオレの中に指を入れて動かすと、快感に口から喘ぎ声が漏れる。
「ほらぁ…シロ…もっとペロペロして…」
鬼の依冬はそう言うと、オレの頭を撫でながら自分のモノに押し付ける…
「シロ…気持ち良いの…?乳首が立ってるね…」
桜二のエッチな声を聞きながら、依冬のモノを口に8分目まで入れると唇で優しく扱いてあげる。
指が増える度に腰がビクビク震えて、扱かれるモノからネチョネチョと音が聞こえてくると、桜二が言った。
「…もう、挿れよう。」
知らんがな…
そんな事を思った事は、言わない…
だって、彼は酔っ払いだもの。
彼のモノがグッと奥まで入って来ると、体中が喜んで仰け反った体が熱くなる。
「はぁはぁ…あっあ…ん、はぁ…ん、んんっ…!」
腰を掴まれてズンズン突き上げて来る快感に身悶えすると、依冬のモノに頬ずりしながら喘ぎ声をあげて…頭が真っ白になっていく。
「だ、だめぇ…イッちゃう…!桜二、桜二…!気持ちい!イッちゃう…!」
「はい…シロ、依冬のお口でして…?」
鬼の依冬はそう言うと、歯を食いしばって快感を耐えるオレの口の中に再びギンギンのモノを入れて、腰を緩く動かし始める。
ほっぺの内側にモノの先を押し付ける様に腰を動かすと、依冬の息が荒くなって…俺の髪を撫でる手に力が入って来る。
「あぁ…気持ちい…」
桜二のエッチな声が耳に届くと、それだけで堪らなくて…イッてしまった…
「ん~~~!」
依冬のモノに歯を立てない様にあの子のモノを口の中に入れたままイクと、ビクビクと腹の上に精液を吐き出すオレのモノを扱きながら桜二が腰を動かした。
だめだ…めちゃくちゃ気持ちい…!
「はぁはぁ…シロ、可愛い…乳首がこんなに立って…めちゃめちゃ気持ち良さそう…」
依冬の熱っぽい声を聞きながら、彼の指先で転がされる乳首の快感に背中をのけ反らせると、力強い桜二の腕がオレの腰を抱きかかえて…腰をうねらせながら快感をくれる。
「シロ…!声が少し大きい気がするんだ。普通、あんなに喘ぎ声なんて出ないだろ?シロは、演技してるんじゃないの?」
ヒロさんがそう言ってノックも無しに禁断の部屋に入って来た…
「は…!」
オレたちの3Pを目撃した彼は、衝撃のあまり言葉を無くして立ち尽くした。
「あっああ!イッちゃう!」
彼の目の前でイカされると、クッタリと項垂れるオレから離れて、依冬がヒロさんに言った。
「すみません、なるべく…静かにしますね…」
彼がそう言うと、ヒロさんは依冬のモノをガン見して呟いた。
「デカいだろ…」
「あっああ!桜二!桜二…来て、来て、もっと来て!!」
体に覆い被さって来る桜二にそう言うと、彼の背中に手を回してギュッと抱きしめた。
「あぁ…シロ、イキそう…はぁはぁ…」
エッチに動く彼の腰は、何かの賞を与えたいくらい最高に気持ちいい…!
「あっああん!だめぇ!気持ちい!イッちゃう…イッちゃう!!」
彼の頭を抱きかかえてそう言うと、桜二はオレの首に顔を項垂れて言った。
「イッちゃう…!」
そのまま小さく呻き声をあげると、急いでオレの中から出してお腹の上に精液を吐き出した。
一緒にビクンビクンと震えてオレのモノがまたイッて…桜二の精液と混ざり合うと、彼が笑って言った。
「体外受精した…」
ぷぷっ!秀逸だ!
惚けたまま吹き出して笑うと、依冬がヒロさんを部屋から追い出してオレに言った。
「きっと、また、オナニーする。」
止めろ…ウケる。
依冬が大好きなローションを手に取ると、桜二が慌ててオレのお尻の下にタオルを敷いて言った。
「この範囲の中だけにしろよ…」
「シロが暴れるから…」
依冬は肩をすくめてそう言うと、自分のモノにローションを垂らしながら言った。
「あっ!冷たい…!」
ウケる…なぜか、ジワジワ来る…!
「ん、も…!笑わせないでよっ!」
体を起こして、オレの足の間に佇む依冬の胸を叩くと、ローションを垂らされた彼のモノを一緒に見つめて言った。
「…冷たいの?」
「いや…すぐ温かくなるから良いの…」
依冬はそう言うと、オレのお尻を持ち上げて、自分のモノをグッと押し込んで来た。
ニュルっとすんなり入って来る大きなモノに、背中がゾクゾク鳥肌を立てて仰け反っていく…
依冬はオレがベッドに沈んでいかない様に腰を抱き寄せると、奥まで挿入して言った。
「はぁはぁ…あぁ、気持ちいね…」
「依冬…シロが、キマっちゃってる…」
だって…すっごく大きいモノが奥まで来たんだ…
仰け反った体に快感の逃げ場も無く、挿入された瞬間に体が震えてイッた…
「…いくら何でも早いだろ?」
桜二がそう言ってオレの体を支えてベッドに倒すと、クスクス笑いながらキスをくれる。
惚けたまま彼のキスを一方的に貰うと、オレの中をグングンと動き始める依冬に体中が仰け反って快感でいっぱいになる。
「はぁはぁ…ん~~~!らめ、らめぇ!ん~~!はぁはぁ…あっああ!!」
首を振って真っ白になった頭に、目の前に見える桜二の惚けた顔だけが写って…口元を緩めて笑う彼に、頭の奥がクラクラしてくる。
「あぁ…シロ。誰とエッチしてるの…」
依冬はそうぼやくと、オレの体に覆い被さってオレの頭を自分に向けた。
「依冬…依冬、ダメぇ…イッちゃう…イッちやうの…!」
彼の胸に両手を這わせてそう言うと、力強く動く彼の腰を掴んで言った。
「だめ!だめぇ!イッちゃう!イッちゃう!!」
「あぁ…気持ちい…シロ、可愛いね…愛してるよ。」
うっとりとオレを見下ろす彼を見つめると、快感を耐える苦悶の表情を見つめて、快感が満ちていく…
「ん~~~!!はぁっ!あっああん!!」
あっという間に連続で依冬にイカされると、あの子はオレをうつ伏せにして、再び奥まで挿入する。
ローションの効果は絶大で…依冬は水を得た魚の様にセックスを楽しんでる。
オレの腰を掴んで持ち上げると、オレのモノをねちょねちょのローションで扱きながら、腰を動かして…頭が真っ白になったオレはただ、揺すられるまま…快感だけを感じて喘ぐ。
「あぁ…シロ気持ちいい…」
うっとりと色づいた依冬の声が聞こえるけど…何の返事も出来ないよ…
だって、オレは激しく揺れるジェットコースターに乗ってるみたいに、次から次へと押し寄せる快感に、翻弄されてるからね…
ベッドのシーツを強く掴むと、扱かれたオレのモノがビクビクと震えてドクドクと精液を吐き出していくのを感じて、ベッドに頬を付けて項垂れる。
もう…だめだぁ…
「あ、依冬…シロが落ちそうだ…」
オレの顔を覗き込んで桜二がポツリとそう言った…
「うるっさいな…!桜二は何なの?レフリーか何かなの?ちょっと黙っててくれる?」
依冬はそう言うと、オレの体を持ち上げて後ろから抱きしめた。
「うるっさいんだよ…あいつ。シロ…あいつ、嫌い…」
依冬はオレの耳元でそう言うと、チュッと頬にキスして言った。
「シロ…キスして、依冬にキスして…」
あぁ、可愛い…
体を捩じって依冬にキスすると、彼が後ろからガンガン突いて来る衝撃と快感に溺れながら、トロけて行く。
「はぁはぁっ!シロ…!イキそう!」
オレのモノを扱いて腰を抱きかかえると、依冬がラストスパートに入った。
「ああああ!らめぇ!」
「シロ…!全然静かになってない。逆にうるさくなった気がするよ?!」
ヒロさんがそう言って怒りながら部屋に入って来た。
依冬の大きなモノにガン突きされてるオレを見ると、唖然として言った。
「壊れちゃうよ…?」
ウケる!
「はい…静かにするので…」
桜二がそう言ってヒロさんを強制退去させると、依冬が腰を振るわせながらうめき声を上げた。
くっ…と堪える声がすぐ後ろで聞こえて来て…吹き出して笑う。
「んふっ!ふふふ!あはははは!!」
彼はまた堪えるつもりだ…この前は…何秒だったっけ…?
まるで、結城さんと同じだな。
何かと戦ってる。
「はぁっ!」
まるで息継ぎするみたいにそう言って息を吐き出すと、オレの中からズルリとモノを出してお尻の上に吐き出した。
そのままオレの体の上に項垂れて倒れ込んで来ると、オレを押しつぶしながら言った。
「あぁ…シロ…気持ち良かったぁ…」
可愛い…
でも、重い…
甘えん坊の依冬に抱き付かれたまま、桜二のベッドの上に寝転がると、彼はため息を吐いて言った。
「…俺は、あの、人間の視線が集まる部屋で寝るよ…」
つまり、オレのベッドで寝るって事だね。
壁一面に貼られた…KPOPアイドルのポスターが、桜二は嫌いなんだ。
あれに何も言わなかったのは…勇吾だけ。
彼は全然、気にしない。
まるで、見えていないみたいに…何一つ言わなかった。
スルースキルが高いんだ。
「依冬、お休み…」
オレがそう言って彼の胸を撫でると、依冬はオレの髪にキスして言った。
「お休み…カワイ子ちゃん…」
それはアラフォーしか使えない言葉なのに…おっかしい。
「シロ…朝だよ…」
いつもの様に桜二に起こされると、彼の体に抱き付く前に依冬のお尻をペンペンした。
弾力のある可愛いお尻は、ガチムチのゲイに好かれそうな体だ…
寝ぼけながらそんな事を考えると、桜二の顔を見上げて言った。
「依冬を上野のサウナに放り込んだら…掘られると思う?」
「ふふっ…多分、抵抗して…全員、全力でのすと思う…死人が出るかもしれない。」
ふふっ!確かに…!
桜二に両手を広げて、抱っこしてもらうとリビングまで連れて行って貰う。
「あれえ…ヒロさん、ここで寝たんだ…」
ソファには布団にくるまって眠るヒロさんが居た。
彼の足をバンバン叩くと、顔を覗いて言った。
「ヒロさん!朝だよ!今日は…9時に家を出るんだろ?ほら!起きて!」
オレの声に飛び起きると、ヒロさんはオレたちをジト目で見て言った。
「狂気的なセックスをしないでよ!刺激が強すぎて…動悸がして、寝られなくなった!」
「あ~はっはっはっは!!」
オレは大笑いすると、布団越しにヒロさんに覆い被さって行く。
「な、な、なぁに!?」
たじろいで動揺する彼に言った。
「ヒロさん…あれはうちの通常運転だよ?狂気的じゃ無い…あれが標準なんだ…」
そう言いながら彼をギュッと抱きしめると、頬ずりして言った。
「あれくらいしないと…オレは満足出来ないんだよ…」
「…そ、それは…普通じゃ、物足りない訳だね…」
ヒロさんはそう言うと、もぞもぞと体を捩じって布団から抜け出した。
逃げる様に洗面所に向かう彼の背中を見て、ケラケラ笑うと、オレを見てニヤけた笑顔を見せる桜二と目を合わせて笑う。
本当…オレたちは、性格の悪いカップルだ。
「おはよ~…」
フラフラとよろけながら依冬が起きて来て、ソファの上のオレに抱き付いて言った。
「怖い夢、見たぁ…」
「ぶふっ!」
キッチンで桜二が吹き出す中、やけに神妙な顔をして依冬が言った。
「…シロがベビーカーを押してて…どん吉が乗ってるのかと思ったら…親父が乗ってたんだ…あぁ!怖い!!」
それは…怖いね…
オレは体を震わせて本気で怯える依冬に苦笑いすると、あの子の背中を撫でてあげる。
「しかもっ!シロに微妙なサイズの胸があって…親父が、それを…ああああ!!」
どういう事だよ…
微妙なサイズって…聞き捨てならないよ?
オレはムッと頬を膨らませると、強張る依冬の頬を掴んで言った。
「…Cカップ位?」
依冬はオレを見つめると、ジト目になって言った。
「ちっぱいだよ。Aのそのまた下みたいな…Aよりも小さい…玄人が好きそうなちっぱいだよ。」
「だ~はっはっはっは!!」
桜二がキッチンで大笑いする中、依冬の頭を叩いて言った。
「違う!オレはDカップなんだ!たわわなDカップで、しゃがむ度に男がオレの胸を見るくらい…そう、夏子さんくらいのDカップなんだ!」
「知らないよ…夢の話だもん…」
眉を下げてそう言うと、依冬はオレから視線を外してフルフルと震えた。
オレのちっぱいを、赤ちゃんになった結城さんが咥えて飲んでいた夢を見たそうだ。
…そりゃ、悪夢だ!
「夢って言うのはね、その日にあった出来事を整理するために見る事もあるんだよ。」
支度を済ませたヒロさんは、得意げな様子で現れるとそう言って格好をつけた。
しかし、視線は依冬の股間に向かっている…
相当、昨日目撃したモノが衝撃的だったんだろう。
分かるよ?
オレも未だに目の前に出されると、まず、ギョッとするからね…
「…あぁ、そうなんだ。」
両手を顔にあてて項垂れると、依冬はポツリとそう言った。
「ごはん出来たよ…」
チャリン…
依冬が500円玉貯金をする中、オレは両手を合わせていただきますをした。
そして、桜二の卵焼きを掴むと、ヒロさんにひとつ。差し上げた。
「どうぞ?僕の一番の好物を君にあげるよ?親愛の印だよ?」
オレが澄ましてそう言うと、ヒロさんは澄ました顔をして言った。
「これは、これは、かたじけない…拙者、本日家に帰る所存。誠に感謝奉り候…」
ふふっ!変な日本語だ。
ヒロさんは卵焼きを箸で上手に掴むと、いつもオレがそうする様にかじって食べた。
「ほほっ!誠に見事な歯ごたえ!これは…!一級品じゃ!」
そう言って瞳を輝かせると、桜二に握手を求めた。
ほらね?
だから言ったんだ。
…売り物になりそうだ!
「この4切れで1000円で売ろうと思ってる。」
胸を張ってオレがそう言うと、ヒロさんはケラケラ笑って言った。
「日本じゃ”卵焼き”なんてメジャーだろ?イギリスで売ったら…1600円で売れる。」
…まじか!
依冬と桜二が黙々とご飯を食べ続ける中、ヒロさんの言葉に食い付いたオレは更に言った。
「フードトラックみたいに車で販売すれば…テナント代は掛からないんだ。“ジャパニーズスタイル”みたいな文句を付けてさ…勇吾の職場の前にお昼時来てくれたら良いのに…オージズ、エッグ…焼き。みたいなさ…名前にしてさ。」
オレの言葉にヒロさんは頷いて言った。
「とにかく、ケバブしかないから…卵焼きを売ったら売れそうだね?」
「ヒロ、本気にするから…」
依冬がそう言って茶々を入れるけど…オレは初めから本気で話してるよ?
後は、本人のやる気次第なんだ…
桜二の足をつま先でナデナデしながら言った。
「桜二~、イギリスでサクセスする?」
「卵焼きで…一攫千金を狙うの?」
桜二は伏し目がちにオレを見てそう言うと、鼻で笑って言った。
「やなこった…!」
…もう!
彼に野心がない!
野心の無い男なんて…魅力的じゃ無いね?
ご馳走様すると、忙しく支度を始める依冬やスーツケースをコロコロと玄関に運ぶヒロさんを横目に、お茶碗を洗う桜二に言った。
「桜二?男は野心を持たないと、しょぼくれたおっさんになっちゃうよ?常に上を目指して、常に下克上を企むくらいじゃないと、セクシーじゃないだろ?」
オレの言葉にクスクスと笑うと、桜二が言った。
「俺はセクシーだよ…」
知ってるよ!
お前は最高にセクシーだ!
「じゃあ、また来るね~!バイ~!」
ヒロさんはそう言うと、桜二と依冬にハグした。
オレは彼を大通りまで送って行くんだ。ズッカケを履いてね?
「勇吾にちゃんとお守り渡してよ?」
コロコロとスーツケースを引きながら歩く彼にそう言うと、ヒロさんはオレを見下ろして言った。
「あんな激しいセックスしたら、シロの体が壊れちゃうよ?」
…今の所、大丈夫だ。
「そうかな~?」
彼を見上げてそう言うと、ヒロさんはオレを抱きしめて言った。
「そうだよ。普通で満足出来る様にならないと…!体、壊しちゃうよ?」
…なんという慈しみ、深き、愛じゃ…
彼の背中を撫でながらタクシーを拾うと、トランクにスーツケースを入れて言った。
「気を付けて帰ってね?勇吾にお守り、ちゃんと渡してね?あと、モモによろしく伝えて?」
「へいへい…」
彼はそう言ってオレの唇にキスすると、うっとりと瞳を細めて笑って言った。
「東京のクレイジーボーイ…最高に、セクシーだ…愛してるよ。シロ。」
ふふっ!
当たり前田のクラッカーだよ?
ヒロさんの乗ったタクシーが見えなくなるまで見送ると、少しだけ…寂しい気持ちを抱えながら家に戻る。
途中、車で通り過ぎる依冬に投げキッスをして、桜二にうっふんポーズをとると、何事も無かったようにスタスタと家に戻った。
「さてと…お昼までに、踊れるようにならないとね…」
そう言うと、依冬のパソコンを手に抱えて練習部屋にこもった。
「体が持ってかれる…感覚…。味わってみたい…!」
ぶつぶつ言いながら動画をループ再生に設定すると、ポールに体を持ち上げて、音を流しながら画面の中のメグと踊りを合わせていく…
広げた楽譜と、流れる音源を聞きながら、所々自分で修正して踊りをよりスムーズに…ダイナミックに見えるように調整していくと、あっという間に約束の時間を迎える。
床に置いてあった携帯電話が鳴ると、クルクルとポールを下りて拾い上げた。
「もしもし?」
「シロたん…時間です…」
寝ぼけた声の勇吾がそう言った。
彼の寝ぼけた声にクスクス笑うと、ノートパソコンをビデオ通話に切り替えてポールが写る場所に置いた。
ベッドの上で寝転がりながら通話してる彼を見て、口元が緩む。
「少しだけ、調整した…」
そう言って体をポールに持ち上げると、音楽を再生させて踊り始める。
頭の中でメグの踊った軌跡をたどりながら、自分の調整した個所を確実に踏んで一曲目を踊ると、間髪入れずに次の踊りを踊り始める。
「ここは、少しだけ変えた。」
そう言って調整した個所を口頭で伝えながら踊ると、次の曲を再生して踊り始める。
「他のみんなが踊ってる時に、ひとりだけ止まってるのは猿みたいに見えて恥ずかしいから、少しだけ、変えた…」
「なる程ね…結構、いじったな。」
勇吾はそう言うと、眼鏡を掛けながら楽譜に目を落として言った。
「シロ…26番の所。入るのが早い…だから次が余るんだ。ここを直して…あと、29番、ここはお前が目立つんじゃなくて、周りを引き立てるために大人しめの振りにしてる。ここは戻して踊って…後は…完璧だ。」
ため息を吐いてそう言うと、オレを見つめて半開きの瞳を細めて言った。
「さすがお前だ。最高だよ。」
修正箇所を楽譜に書き込むと、画面越しの勇吾に言った。
「ヒロさんがこっちで浮気した。楓と。しかも、オレに猛烈アピールしてった…。彼は吹替ばかりしてるから…まるで人格もコロコロ変わるみたいに、役を使い分けてる。」
「あっはっはっは!ヒロも隅に置けないな…。まさか…あの子と、そんな風になるなんて…予想外だ。シロにちょっかいを出すのは、大体予想出来たけどね…。まあ、お前は相手にしないだろうと踏んださ。」
彼はそう言って笑うと、オレを見つめて言った。
「公演、前日に現場入りしてすぐにリハーサルだよ。大丈夫だね…?」
彼のおでこを画面越しに撫でると、にっこりと笑って言った。
「大丈夫…」
真剣な勇吾の表情は…大好きだよ。
だって…とってもセクシーだからね?
「それじゃあ、またね。愛してるよ…ダーリン…」
「うん。オレも愛してるよ。勇吾…」
このまま、そのベッドに、一緒に寝転がりたいよ…勇吾。
通話を切ってノートパソコンを閉じると、直しが入った部分を再び踊り始める。
何度も踊って、何度も試して、何度も合わせる…その繰り返しだ。
それは何でも同じ…
ヒロさんの日本語だって…勇吾の英語だって…
野獣兄弟のチェロだって、初めから上手だった訳じゃない…
こうやって、何度も練習するから上手になるんだ。
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