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第35話
舞台で、勇吾が英語で話し始める声が聞こえると、ヒロさんが他のダンサーの裸を眺めながら訳してくれた…
「本日は来てくれてありがとうございます。グフフ…。前回、年末に行ったストリップ公演が、おかげさまで大盛況のうちに幕を下ろしました。今回はその追加公演という事で…こんな素晴らしい劇場をお借りして、皆様にお披露目する次第となりました。」
「勇吾は馬鹿だけど、こういう挨拶はちゃんと出来るんだね?」
メイクを追加補充してそう言うと、モモがケラケラ笑って言った。
「一応、代表だからね?口が上手いのさ。」
ああ…確かに、口はうまい。
ヒロさんはまるで壊れたスピーカーの様に呆然としたまま、勇吾の英語を訳し続けてくれる。
「さて、皆様ご存じの通り…今回は前回のダンサーに加えて…ふふ、あ~、はは…」
ヒロさんの様子がおかしい…
オレはアイラインをもう一ミリ太くしながらヒロさんに言った。
「きもい!」
「違う!勇吾さんがこう言ってるの!」
ヒロさんは怒った顔でそう言うと、すぐに遠い目をして再び勇吾の英語を受信し始めた。
「いや~、まいったな、ええ。そうです…私の、愛する人が出演しています。彼は東京の歌舞伎町でストリッパーをしている”シロ“です。ふふ…ぐふっ!え?いやいや、のろけじゃないですよ?彼は類稀なる自己演出能力が高い子でして…ぐふふ!え?いやいや…自慢じゃないですよ?」
うげ…
なんか勇吾、最悪だな…
それとも、ヒロさんの話し方が最悪なのかな…だって、すっごい嫌な奴みたいに、眉を上げて得意げに話してるんだもの…
「今回のダンサーへの技術指導は彼が担当しました。見違えるほどダンサーの動きが良くなったと思いません?あの子はねえ、そういう子なんですよ…。ふふっ!一昨年から、オファーし続けて…やっと、やっと、この舞台に立ってくれたんです!!」
衣装を着替えると、熱心に話すヒロさんを引き連れて、舞台の袖に移動した。
「あ~、あっ!ちょうど、ちょうど、今来たから…ちょっと、ちょっと紹介させて下さいね。」
ヒロさんはそう言うと、オレの背中をグイグイ押した。
「なぁんだ!」
オレが怒ってそう言うと、モモがオレの手を引っ張ってステージへと連れて行った。
鼻の下が伸びた、だらしない顔の勇吾の隣に立つと、歓声が起こる客席を目の前に、頭が真っ白になる…
ダンスを踊ってる時は平気なのに…明るい照明に照らされて、明るくなった客席を見上げると、急にドギマギしてくる…
「あわ…あわあわ…」
勇吾の腕を引っ張って首を振ると、彼はデレデレしながらマイクを持って行った。
「なぁんで…恥ずかしいの?可愛い~!」
「や、やぁだ…!」
「この人が…俺の愛する人、シロです…。この子は破天荒で、型に収まらない…。だから、他の人には理解されない生活を送ってます。例えば…東京で2人の恋人と一緒に住んで居たり…」
勇吾がそう言うと、観客がどっと笑った。
オレは顔を真っ赤にして俯くと、彼の後ろに少しだけ隠れた…
勇吾はそんなオレを背中に隠して片手で抱っこすると、続けて言った。
「でも、私はこの子のすべてが大好きで…全てを愛しています。自分の理想を実現してくれる…そんな存在がシロなんです。だから、どうぞ、私も、この子も…暖かく、愛を持って見守って頂けると、嬉しいです。…ふふ。グフフ…。いやあ…私事で、大変恐縮です…!」
ヒロさんはそう言うと、オレの手を引いて袖へと連れて行った。
「ヒロさんみたいに気持ち悪い喋り方してなかったよ?」
袖に戻ると、オレはそう言ってヒロさんに八つ当たりをした。
だって…めちゃくちゃ恥ずかしかったんだもん…
「はぁ?僕はね、忠実に再現してるよ?」
ヒロさんはそう言うと、オレの背中をバシンと叩いた。
「…シロに、何したの?ヒロ?」
モモがギロリとヒロさんを睨みつけてそう言うと、彼はシュッと姿勢を伸ばして言った。
「な、何も!」
彼はやっぱりモモが居ないとダメだな。
「いやぁ、シロ~!恥ずかしかったの~?ん、も~!ご挨拶しないと…俺のパートナーなんだもん…ねえ?ねえ?シロ?ねえ?ねえ?シロ…。」
勇吾はステージから袖に戻ると、オレに抱き付いてベタベタと体を撫でまわして言った。
「あふん…シロたん、食べたいお!」
きっと公演中で…テンションがハイになってるんだ。
だって、いつもは、こんなに馬鹿じゃないもの…
「勇吾、ヤダ…あっち行って。集中したいの…」
オレはそう言って彼を押し退けると、暗くなって行くステージを見つめた。
彼は嬉しそうにぶつぶつ言いながら袖を抜けてステージ裏へと戻って行った。
最後のフィナーレが始まる…
5人で、花のワルツを踊った後、オレがソロでアダージェットを踊るんだ。
5人で手を繋いでステージへ向かうと、各々…ポールの前に立って、オレがセンターに立った…
ブーーーー
再び開演のブザーが鳴ると、ステージの上が照らされる。
客席は再び暗くなって…何も見えなくなった。
オーケストラが花のワルツを演奏し始めると、美しいハープの音色と共に体をポールに持ち上げていく。
これは…バレエの曲。くるみ割り人形で踊る曲だ。
この…ズンチャッチャという…3拍子に阻害されて、意外にもみんなが苦戦したこの曲を、今は楽しく踊る事が出来る。
バレエの情景を頭に浮かべながら…踊れば良いんだ。
「ワア…!ビューティフォー!」
そうでしょ…?
とっても綺麗なんだ…
一緒に踊ってるダンサーの子達が、楽しそうに笑顔を向けて踊る様を見つめて…涙が込み上げてくるよ。
凄い…
凄いよ、こんな風に…美しく踊れるなんて…!
オレも客席から…見たかったよ。
オーケストラの指揮が、まるで、ダンスの高揚に合せるかの様に高まってくると、ダンサーの踊りがもっとタイトに洗練されていく気がする…
相乗効果だ…
お互い、高め合って行ってる…
「あぁ、素敵だ…」
うっとりとそう言うと、音楽に身を委ねて体をしなやかに揺らして踊る。
ステージの下から音が沸き起こると…まるで上昇気流に乗った様に体が軽くなって行くんだ…
これは、本当の無重力だ…!
体を軽々と持ち上げると、足を絡めて体を捩って起こしていく…
それはまるで水の中にいる様に…少しの抵抗を残して…体の重さは無くしていく…
肘を曲げて体を離すと、音の圧で飛んで行ってしまいそうな体を必死にポールを掴んで耐えるんだ。
「ア~メイジング!」
花のワルツのフィニッシュは、重力を伴った花びらになって…緩急の付いた回転を繰り返して、ゆっくりと、美しく、ステージへと舞い降りていくんだ…
その様子は…誰が何と言おうと、美しい…!
「ブラボーーーーー!!」
観客がそう言って拍手と歓声を上げると、オレが教えた通りにバレリーナの様にはけていくダンサーたちに手を振った。
…あぁ、上出来だ。
堪らないよ…!
「シロ…アダージェット…」
感極まって立ち尽くすオレに、指揮者が棒を振ってそう言った。
笑顔になって頷くと、ポールに手を添えて…息を吐きながら心を静めた。
ピアノの音が聞こえると、観客は立ち上がった席に座り直して、オレを見つめた…
オンステージだな…
体をしならせてゆっくりとポールに沿わせて持ち上げて行くと、今までと違う…しなやかで…滑らかな動きを見せてポールを掴んでゆっくりと回って行く。
派手じゃない…でも、軽くない…重力を持ったポールダンスを魅せて行く。
体を反らしてゆっくりとポールを回りながら足を伸ばすと、手の位置を変えてポーズを変化させて行く。
耳に届くバイオリンの音の線を撫でる様に、全身を使って表現するのは、一言では表しきれない感情…
報われない愛情の様な…悲しい気持ちと、それでも恋焦がれてしまう、やるせない…切ない気持ち…
オレは…この曲を…兄ちゃんを偲んで踊る。
ポールを掴む指先まで…繊細に。
伸ばすつま先まで…美しく。
一瞬も気を抜かないで…全身全霊を掛けて、この踊りを…兄ちゃんに捧げるよ。
愛してる…
誰よりも。
あなたの手も、あなたの声も、あなたの…全てが、いつも、恋しいんだ。
もう会えない。兄ちゃんへ…
すべてを犠牲にして…オレを愛してくれた、あなたを…
…死ぬその時まで、ずっと、愛し続けるよ。
「蒼佑…会いたいよ…」
涙が一筋、頬を伝うと、兄ちゃんの笑顔が目の前に見えて…
強がって首を傾げると、無理して、笑い返した。
「シロ…愛してるよ。」
そんな兄ちゃんの声を思い出して口元を緩めて笑うと、流れて行く涙と逆行する様に体を高くまで持ち上げて行く…
太ももにポールを挟むと、片足を伸ばして、体をのけ反らせながら両手をしならせて、回転しながら落ちて行く…。微妙に左右に揺れる様子を、太ももで加減して調節すると、ねえ…見えてくるでしょ…?
ひらひらと…舞い落ちる…桜の花びらが…。
兄ちゃんは…5月の葉桜が好きだって言ったね…
オレは、舞い落ちる桜の花びらが好きだよ。だって、とっても綺麗なんだ。
舐める様に体をうねらせて起こすと、肘を曲げたまま、ゆっくりとステージへ片足づつ足を下ろしていく。
最後の最後まで…気を抜かないで…まるで舞い降りた、天使の様に…
体中から空気の層を吹き出している様な、抵抗を表現して…足の裏をゆっくりとステージに付けた。
シンと静まる劇場の中…オレが首を傾げると、一斉に歓声と拍手とスタンディングオベーションが起こって、劇場内の空気をビリビリと揺らした。
「わあ…」
驚いて、指揮者を見下ろすと、彼も、オーケストラも、立ち上がって…両手で拍手をオレに送ってくれていた…
「わあ…凄いな…」
ポツリとそう呟くと、丁寧にお辞儀をして…動線通りにステージから袖へと向かった。
「シローーー!」
袖で待ち構えていた勇吾が、両手を伸ばしてオレを抱き寄せると、大泣きしながら言った。
「素晴らしい…!心が…心が震えたよっ!!」
あぁ…ふふっ
オレは彼の背中を撫でながら、彼の頭にコツンと頭をぶつけると静かに言った。
「そう…良かった…」
そして、クッタリと勇吾の体にもたれかかると、感情の余韻を彼で打ち消す様に…静かに両手で抱きしめた。
「アンコール!アンコール!アンコール!」
拍手と一緒にアンコールのコールが聞こえると、モモが言った。
「シロ!何、踊る?」
オレは勇吾の肩に顔を乗せたままぼんやりすると…ポツリと言った。
「マリリンマンソン…」
「ぶふっ!」
勇吾が吹き出して笑って、顔を上げて言った。
「そんなの、オケは弾けない!もっと違う曲を、考えて。」
彼の涙を拭いながら、眉間にしわを寄せて考える…この場に相応しい…アンコール。
ダンサー達と軽く打ち合わせをすると、オレはトコトコとステージを歩いてオーケストラの元へ行った。
もちろん、ヒロさんも一緒だ。
「ねえ…これ、弾ける?これを…ジャズのソロみたいに…12回、回してよ…それで、フィニッシュするの…。良い?」
オレがそう言うと、指揮者は眉を上げて言った。
「マリリンマンソンが良いとか…言われると思ったけど、良いセンスだ。」
おほほ…やばかったな。
オレはたじたじになりながら苦笑いすると、ついでに注文を付けた。
「ソロ演奏…楽器も一緒にしてよ。変化が無いとつまらないし、あなた達も演者の1人だからね?」
そう言うと、指揮者が口を尖らせるのを無視して、来た道を戻って行く。
「シローーーー!アンコーーール!」
そんなボー君の声援に観客席を振り返ると、指ハートを擦り合わせて合図した。
「フォーーーー!!」
所々から上がる、どぎつい歓声は…きっとチッパーズの咆哮だ。
袖に戻ると、みんなで手を繋いで再びステージへと戻って行く。
スタッフも…勇吾も、総出だ!
オレの考えたアンコール…それは、この企画に関わった人、みんなでお祝いするもの。
これから流れる“ザ・チキン”という曲に合わせて、センターのポールを12人のダンサーが、まるでジャズのソロ演奏の様に…回して行く。
他のみんなは、とりあえず…ステージの上で、怪我の無い様に踊れば良い。
決してポールに近寄るな!だ。
ポールダンサーの本気は…ぶつかったりでもしたら…骨も折るぞ?
ひと先ずみんなでお辞儀をすると、オレのカウントに合わせて…オーケストラがリクエストの曲を演奏し始める。
「フォーーーー!!」
興奮した観客が叫ぶ中…MCに扮した勇吾が、ポールで踊るストリッパーの名前と、お店の名前を紹介していく。
みんな凄腕だからね、アドリブで踊るのは得意なんだ。
それに、こっちの方が、彼らの素の姿を見せられる!
大盛り上がりの劇場内は…まるで大きなストリップバーの様に、熱い空気をこもらせ始める。そして、オレはそんな空気が大好きだ。
「トーキョー!カブキチョー!シロ~~!」
最後にオレの名前が呼ばれると、ドラムロールを鳴らして指揮者がニヤリと笑う。
はぁん…?
さては…何か、期待しているね?
オレは彼にニヤリと笑い返すと、少し後ろに下がって走ってポールに向かって行った。
「フォーーーー!シローーーー!」
そんな聞き慣れた歓声を聞きながら、指揮者に向かってジャンプすると、腕を絡み付けて両足を指揮者の頭の上に放り投げなげた。
「イエ~~~~~!!」
そんな叫び声を上げると、絶妙なタイミングで曲が始まった。オレはご機嫌で両足を高く上に上げると、太ももでポールを掴んだ。
そのまま体を捩って起こすと、両手でポールを掴んで思いきり体を揺すって回した。
派手で、下品な、オレの…シロの、ポールダンスだよ?
膝の裏でポールを掴むと、体を離しながら手を遠くまで伸ばして回った。勢いをそのままに手を入れ変えると、体を腕の中に通してトリッキーな技を見せてあげる。
お店でやると、チップが飛ぶんだよ?
体を仰け反らせて逆さになって回ると、そろそろフィニッシュだ。
ポールの下の勇吾までクルクルと回って下りると、彼にキャッチしてもらう!
もちろんスピードは緩めたよ?
さすがの彼でも、遠心力が付いた体を受け止めたらよろけちゃうからね?
「フォーーー!マーベラス!」
大喝采を受けてみんなで手を繋ぎ直すと、深々とお辞儀をして、幕を閉じた。
観客の拍手が鳴りやまない中、ステージの袖で、オレをギュッと強く抱きしめると、勇吾がにっこりと笑いながら涙を落として言った。
「シロ…最高だった…!最高だった!!」
ふふっ!
オレも、めちゃくちゃ楽しかった…!
「そう?良かった…」
瞳を細めて見つめてくる彼にドキドキしながらそう言うと、勿体ぶって足をブラブラさせて言った。
「キスしてよ…」
「ん、も~~~!」
勇吾はそう言うと、オレを抱きしめてトロける様な熱いキスをした。そして、両手に大事そうに抱きしめると、オレの頭を優しく撫でて言った。
「愛してるよ…シロ。」
ふふっ…!
「あの選曲は最高だ!ソロ紹介のアイデアも最高だ!全てがパーフェクト!」
突然乱入して来たショーンはそう言うと、オレの体を持ち上げてグルグルと回した。そこへ通りがかったケインがオレを受け止めると、頬にチュッとキスして言った。
「シロ…感動したよ…このまま、家に連れて帰っても良い?」
何を言ってるのかね…君は!
オレは眉を下げると、ケインに言った。
「ダメだよ?オレはね、日本から彼氏を連れて来てるんだ。」
「シロ~~~~!!」
聞き覚えのある声を聞くと、満面の笑顔で両手を上げて言った。
「依冬~~~~!」
ヒロさんに連れられて、楽屋までやって来た依冬に抱き付くと、熱烈なキスをして言った。
「オレの見た~~~~?」
「見たよ~~!も、最高だった!!すんごい格好良かった!惚れ直した~~~!この世の者とは思えない!綺麗だった!俺のシロ~~~!」
なぁんだ、べた褒めじゃないか!
彼の後ろで、目を赤くした桜二がムッとした顔で突っ立っているのを見つめて、口元を緩めて笑うと、両手を伸ばして言った。
「桜二、おいで…?」
オレの言葉に、彼は顔を歪めると思いきりオレを抱きしめながら大泣きした。
「もう…ずっとこうなんだ。こっちが恥ずかしくなってくるよ…」
依冬が目じりの涙を拭いながらそう言ったのを聞くと、オレを抱きしめて、えぐっ!えぐっ!と泣き続ける桜二の頬を両手でつかんだ。
「どうして泣くんだ!オレは素晴らしかっただろう?」
そう言って彼の顔を見つめると、桜二はグシャグシャの顔を向けて言った。
「す、凄い…凄い…!お前は、凄い!!」
ふふっ!
彼の唇に舌を這わせると、いつもの様に熱くて甘いキスをする。
ギュッと抱きしめた両手から、彼がこぼれて行かない様に抱きしめると、泣きじゃくってキスもままならない彼に言った。
「ちゃんと、ご褒美のキスして!」
「む、無理だぁ!!上手に出来ないよ…!」
可愛い…!
「良いの、良いの、桜二が良いの…!」
そう言って涙で顔を伏せる彼の顔を持ち上げると、しつこく何回もキスした。
興奮冷めやらない楽屋裏で衣装を着替えて、メイクを落とすと、桜二と依冬と手を繋いで、コソコソと劇場を出た。
「見て?うちのお店の花輪だよ?」
オレはそう言うと、桜二と依冬と3人で花輪を前に写真を撮った。
すぐに支配人に送ってあげる。
“大盛況!オレは爪痕を残したぞ!お店の宣伝もした!偉い?”
そんなメッセージを添えて写真を送ると、届いたお花とメッセージカードを受け取って、3人で歩いて帰る。
「オレはね?ここ、前に来た時…ガードマンにこうやって摘まみだされたんだよ?でも、今はね、こうやって入って…こうやって出て来たんだ!」
胸を張ってそう言うと、桜二がボロボロと涙を流しながら言った。
「本当に…素晴らしかった…明日も、頑張るんだぞ…?」
ふふっ!
オレは彼を振り返ると、口を尖らせてムカつくひよこの顔をして言った。
「あったり前田のクラッカーだよ?」
「しかし、勇吾さんのトークは要らなかったな~。長いし、ほぼほぼ…シロの、のろけだもんな…」
依冬はそう言うと、オレの手を握って言った。
「…ご飯食べる?」
はぁ…それが、お腹が空いてないんだ…
「あんまり空いてないんだ。どうしてかな…」
首を傾げてそう言うと、桜二が言った。
「緊張してるんだよ…明日、最後まで終わったら…急にお腹が空いて、ごね始めるんだ。」
そうなのかな…
彼と手を繋ぐと、依冬と繋いだ手と一緒に、ブンブンと振りながらホテルまで戻って行く。
ブルルっとポケットの中の携帯が震えるて、支配人からの返信を受け取った。
“やったぞ!よくやった!偉い!偉い!とっても偉い!さすが、俺の愛人だ!”
「あ~はっはっは!」
オレは大笑いすると、ふたりに交互にメールを見せて言った。
「ほんと、面白いジジイだよ…そして、優しいジジイだ…」
ホテルへ帰ると、シャワーを浴びて、昨日と同じ…ベッドに突っ伏して寝た…
もう…疲れた…
「なぁんだ!シロは俺と一緒にお家に帰るのに、勝手に連れて帰るなよ!」
「シロは疲れて早く休みたかったんだ。だから、一緒に帰って来た。」
気が付くと、勇吾がホテルの部屋の入り口で桜二と揉めていた…
体を起こして、目を擦ると、暗くなった室内で依冬がオレの顔を覗き込んで言った。
「シロ、寝てて良いよ。」
「勇吾…」
目を瞑りながらそう言うと、オレのすぐ傍に来た彼に言った。
「…お風呂に入って…隣で寝て…」
そう言ってベッドに突っ伏すと、また眠りについた。
時差ボケと…疲労…そして、極度の緊張に…疲れたんだ。
「なんでシロの服を着るんだよ…」
「だってシロは俺の奥さんだからね。」
再び揉めるふたりの声を聞きながら、ベッドを叩いて言った。
「勇吾…おいで…」
「イエス!」
オレの隣に寝転がると、ほのかに香るいつもの彼の匂いを漂わせながら、勇吾がオレを抱きしめて体に埋めて言った。
「シロ…ひとりで帰っちゃ、だめだ。」
知らねえよ…
そのままっぶりっ子する彼を無視すると、ぐっすりと寝た…
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