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第一章・3

(この人は、父さんと同じ目をしている)  世を去る一日前の父と同じ空気を、希は一志から受けていた。  椅子を引き、一志の前に座る。  そして、その身の上を話し始めた。 「実は僕の父、自死したんです」 「えっ」  一志は、息を呑んだ。  まさに自分が、それを決行しようと考えていたのだ。 「友達が借金して、その保証人になってて。結局その友達は、夜逃げして」  多額の負債が、保証人である希の父に残された。 「僕、その頃はまだ高校生でした。卒業目前の夜、父が僕の部屋に入って来て」 『希、高校を出たらいろいろと苦しいこともあるだろうが、決して負けるなよ』 『父さんは、大丈夫なの? 借金』 『ああ。明日、かたが付く。安心しなさい』 『よかった。卒業式、来られる?』 『カフェを臨時休業にして、来ようかな』 『ありがとう!』  だが、父は卒業式には来られなかった。 「翌日、自動車事故で父は亡くなりました」 「事故。では、自死とは違うんじゃ……」

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