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第一章・4
希の父が運転する車には、ブレーキをかけた跡がみられなかった。
時速50㎞のまま、カーブの崖下に転落し帰らぬ人となったのだ。
「保険金が下りて、借金は返済できました」
「そうだったのか」
後から解ったことだが、父を悩ませていた金融業者は、たちの悪い事務所だった。
このまま借金を返せなければ、希は風俗で働かされることになっていたのだ。
「父は、身を挺して僕を守ってくれたんです」
「立派なお父さんだね」
「いいえ。それでも、僕は父に生きていて欲しかったです」
そして、お客様は父と同じ目をしています。
「思いつめた目を、してらっしゃいます」
「そ、それは」
薄く涙を浮かべた瞳で、希はポケットから二つ折りの紙を一枚取り出し、一志に差し出した。
「これ、お守りです。お客様に差し上げます」
「……宝くじ?」
「結果は一週間後に出ます。それまで、死ねないでしょう? 当たってるかもしれませんから」
「君って子は」
苦笑いして、一志はありがたく宝くじを受け取った。
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