9 / 53

第二章・2

 ドアベルが鳴り、希は店の出入り口を確かめた。 「いらっしゃいませ! ……あっ」 「やあ。一週間ぶりだね」  以前とは違い、明るい窓際に一志は座った。 「ブレンド、一つ」 「かしこまりました」  ふう、と一志はネクタイを整え直した。  窓の外を眺めるより、希を目で追った。  希がオーダーを伝え、マスターと思われる男がコーヒーを淹れている。  香ばしい匂いが、部屋いっぱいに広がった。 (彼が、月川くんのお兄さん、か)  兄が店長の、このカフェ。  その手伝いをしている、と言ってたが……。 (給料とか、ちゃんともらってるのかな)  身内で家業を切り盛りする際、ついつい緩んでしまいがちなのが、その賃金だ。  今月は売り上げが伸びなかったから、と月給より低く渡されることもある。 (弟くんと少し、話ができればいいんだけど)  マスターの人格を疑うわけではないが、三億もの金が絡むと、当たりくじを返せと言われる恐れがあった。

ともだちにシェアしよう!