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第二章・5

 ワインは一杯だけにして、酔わないように気を付けて。  ほどよく会話を楽しんで。  初恋は中学生の頃だった、なんて話に笑って。  食事を終えて、一志はようやく今夜の本題に入った。 「あの時は、本当にありがとう。私がここにこうしているのは、月川くんのおかげだよ」 「僕は、そんな。でも、生きていてくださって良かったです」 「君に貰った宝くじなんだけど」 「外れました? 僕、一回も当たったことないんです」  そこで一志は、エスプレッソを一口飲んで喉を潤した。 「実は、一等が当たった。三億円だ」  希は、やはり笑った。  冗談だと思っているのだ。  そこでポケットから、くじと当選番号の書かれた紙を出した。  無言でそれを、希に渡す。  希の笑顔は、それを見ると真顔に変わった。 「これ、ホントに……!?」 「そうなんだよ」  一志は、希に頭を下げた。 「頼む。この三億、私に融資してくれないか? 一年以内に、必ず返す」  希は、言葉を失っていた。

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