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第二章・6
三億円。
三億あれば、あの家から出られる。
兄さんから、逃げられる。
でも……。
「そのくじは、来栖さんに差し上げたものです。僕のものじゃありません」
「月川くん!?」
「お金の貸し借りで、父は命を失いました。もう、そういうのは嫌なんです」
「月川くん、君は……」
では、と一志は提案した。
「半分こ、ではどうだい? 君に一億五千万円。私に一億五千万円」
「いけません。お金は後に怨恨を残します」
参ったな。
一志は、あまりに真っ直ぐな希に、笑ってしまった。
「何て欲のない、何て一本気な子だろうね、君は」
「欲は、あります」
そこで希は、初めて下を向いた。
「僕、一ヶ月に一万円しか兄に貰ってないんです。薬代で、ほとんど消えます」
だから。
「せめて、二万円にしてくれないかな、なんて思ったりします」
ここは、笑う所ではないだろう。
一志は、希を真面目に見た。
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