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第二章・7
「薬代、って。持病でもあるの?」
「発情抑制剤です。僕、Ωですから」
「そうか……。しかし、一ヶ月に一万円は少なすぎるだろう。私がお兄さんに掛け合ってやってもいいよ?」
それには、首を振る希だ。
「そんなことをしたら、ひどい目に遭わされます。僕は、兄さんから逃げられないんです」
「家庭内暴力か。よかったら、弁護士を紹介……」
一志が言葉を飲んだのは、希の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちてきたからだ。
「あ、あの。私は何か悪いことを言ったかな?」
「いえ、ごめんなさい。こんなに親身になってくれる人に、久しぶりに会ったから」
希は、一志に深く心を打たれていた。
お金だって、黙って持ち逃げできるのに。
正直に、僕に話してくれて。
一年以内に返す、なんて言ってくれて。
(この人なら、僕を救ってくれるかもしれない)
かすかな希望が、希に沸いた。
でも。
二回しか会ってない人に、助けを求めるなんて迷惑かも。
「僕、そろそろ帰ります」
涙をぬぐい、希は席を立とうとした。
だがその手を引き、一志は留めた。
「待って。あの、その。私と」
「何ですか?」
二回しか会ってない人に、付き合ってくれなんて迷惑かも。
しかし、この胸の昂りは抑えられなかった。
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