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第三章・2

「希くん。私のことは『一志』と名前で呼んでくれないかな」 「でも、なんだか失礼です」 「私たちは今、付き合ってるんだよ? いいさ、馴れ馴れしくても」 「じゃあ、……一志さん」  我知らず、一志の頬は熱くなった。 「な、何だか照れるな」  仕事仕事で、恋の仕方も忘れるところだった。  最後の恋人と別れたのが、20代後半だったので、実に10年ぶりの恋愛だ。  もっと、話がしたい。  希くんを、もっと見ていたい。  そう考えたところで、他の客が入って来た。 「いらっしゃいませ!」  希は軽く会釈して、一志の傍から離れていった。 「希くん、か」  いや、希。 「希、と呼べるのは、いつになるかな」  とにかく、この恋は大切に育みたい。  私の生きる道を、示してくれた人との恋だから。  希、と心の中で唱えると、元気が出る。  やる気がどんどん湧いてくる。  希は、あっという間に一志にとって、無くてはならない存在になっていた。

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