17 / 53
第三章・2
「希くん。私のことは『一志』と名前で呼んでくれないかな」
「でも、なんだか失礼です」
「私たちは今、付き合ってるんだよ? いいさ、馴れ馴れしくても」
「じゃあ、……一志さん」
我知らず、一志の頬は熱くなった。
「な、何だか照れるな」
仕事仕事で、恋の仕方も忘れるところだった。
最後の恋人と別れたのが、20代後半だったので、実に10年ぶりの恋愛だ。
もっと、話がしたい。
希くんを、もっと見ていたい。
そう考えたところで、他の客が入って来た。
「いらっしゃいませ!」
希は軽く会釈して、一志の傍から離れていった。
「希くん、か」
いや、希。
「希、と呼べるのは、いつになるかな」
とにかく、この恋は大切に育みたい。
私の生きる道を、示してくれた人との恋だから。
希、と心の中で唱えると、元気が出る。
やる気がどんどん湧いてくる。
希は、あっという間に一志にとって、無くてはならない存在になっていた。
ともだちにシェアしよう!