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第三章・4

「今夜はどう? 少しだけ、私のマンションに寄っていかないか?」 「ごめんなさい。兄に、10時までに帰れ、って言われてるので」  今回も仕方なく、一志は車を走らせ希を送った。  カフェの二階が、希たち兄弟の住まいだ。  彼が家屋へ入って行くことを確認し、一志はエンジンをかけた。 「まずは、お兄さんを知ること、かな」  将を射んとする者はまず馬を射よ。  希の兄にとって、私は有益な人間だ、と刷り込もう。 「そうすれば、自然と希を私の元へ送り込むようになるだろう」  これはビジネスの駆け引きに、似ている。  きりりと、口元を引き締めた一志だ。 「確か、彼の趣味はパチンコ、だったな」  それなら、容易に切り崩すことができそうだ。  頭の中で計画を、いや、戦略を練りながら、マンションへ帰った。 「ただいま~」  誰もいない、暗い部屋の中に、そう呼びかけてみる。  返事があるわけがないが、一志の耳には希の声が聞こえていた。 『お帰りなさい』  彼がそう言って私を出迎えてくれる日は、いつになるだろう。 「なるべく早く、ケリをつけなきゃな」  ネクタイを解きながら、一志はつぶやいた。  兄に虐げられているという、希。  早く救ってあげなければ。  心は、使命感に燃えていた。

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