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第三章・5

 それからの一志は、ほとんど毎日カフェに通った。  もちろん希に会いたい一心だが、目的はもう一つある。  そのために、今日はカウンターに座って尊に話しかけた。 「マスターのコーヒーは、ホントに美味しいですよね。すっかりファンになっちゃいましたよ」 「ありがとうございます!」 「ここのコーヒーを飲むと、嫌なことも忘れますよ」 「お客さん、何かあったんですか?」  実は、これなんだけど、と一志はパチンコ台のハンドルを回す手真似をした。 「新台だ、って言うから友達と打ったんですけどね。大負けしました」 「パチンコあるある、ですね~」  それからの尊は、呆れるほどお喋りになった。  よくもまあ、パチンコについてこうも語れるものだ。  呆れながらも、一志は尊を揺さぶった。 「マスター、駅前の店に行かなくてもいいんですか? 新台入れ替えの初日でしょう?」 「行きたいんですけどね。軍資金がなくて」  ははは、と二人で笑った後、一志は身を乗り出した。 「私が立て替えても、いいですよ」 「いやいや。さすがにお客さんから借りるわけには」  また二人で笑い、その日はこれで切り上げた。 (まずは、始めの一歩だな)  尊がパチンコの依存症に陥っていることは、希から聞いている。  それを利用して、一志は彼を誘いにかかった。

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