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第四章・2
「一志さん、兄さんにお金を貸したって、本当ですか?」
思った通り、希は尊不在のカフェで一志に問いかけてきた。
今、他に客はいない。
一志は頭を下げて、希に謝った。
「君の嫌がるようなことをして、すまない。だけどこれは、希をお兄さんから救い出すための布石なんだ」
「説明してくれますか?」
「今は言えない。君に話して、お兄さんに漏れでもしたら計画は水の泡だ」
僕、誰にも言いません。
そう希は声を張ったが、逆に一志は声をひそめた。
「もしお兄さんが、無理に聞き出そうとしたら?」
「そ、それは」
「君の素振りから何かを感じ取ったお兄さんが、隠しごとがないかと迫ったら?」
「……」
それでも言わない、とは答えられない希だ。
兄の、尊の恐ろしさは、骨の髄までしみ込んでいる。
「もう一度言うよ。お金の貸し借りなんて、君の嫌がることをして本当にすまない」
「一志さん」
解りました、と希はうなずいた。
彼を、信じよう。
それで、この地獄から抜け出せるのなら。
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