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第五章 自由
尊が一志から借りた金は、瞬く間に100万を越えた。
なにせ、利子も返済期限もない魔法の財布を手に入れてしまったのだ。
カフェを臨時休業してまでも、ギャンブルにのめり込んでいった。
「今日は、マスターにお願いがあるんだけど」
「何ですか、来栖さん」
相変わらずの営業スマイルで、しかし腹には覚悟を決めて、一志は尊に切り出した。
「実は私、希くんと付き合ってるんだよね」
「え!?」
最近、友達と遊びに出かけることの多かった、希。
まさか、この人と一緒だったなんて!
それで、と一志はカウンターから身を乗り出した。
「同棲したいな、って思っちゃって。了承してくれる?」
「そ、それは……」
瞬時に、尊は損得勘定をした。
家事やカフェの手伝い、何より性欲処理をしてくれる希がいないと、厄介だ。
しかし……。
「もちろん、それなりのお礼はするよ」
「お礼、って」
そこで、一志は膨れた茶封筒を差し出した。
「100万円。マスターにあげるよ」
貸すんじゃない。
あげるんだ。
すでに一志に100万の借りがある尊の頭は、その金を返済に充てる、とは働かなかった。
(100万あれば、パチンコで増やして借金が返せる!)
甘い一志の誘惑に、尊はまんまと乗ってしまったのだ。
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