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第五章・3
「素敵な部屋……」
「気に入ってくれて、良かった」
リビングのソファに掛け、一志は頭を掻いた。
「実は、インテリアデザイナーやハウスクリーニングのお世話になったけど、ね」
「そうだったんですか」
「希の前では、カッコいい男でいたいんだ。この先、ずっと」
なにせ、人生で一番カッコ悪い所を初対面で見せてしまったのだ。
一志のこだわりは、強かった。
「僕のために、そんな散財を」
「希のために、お金を使いたかったんだよ。このマンションも、差し押さえられてたんだから」
「もう、大丈夫なんですか?」
「事業はすでに軌道に乗った。君に三億返せる日も、近いよ」
「お仕事、うまく行ってるんですね」
「何もかも、希のおかげだ」
本当に、ありがとう。
深く頭を下げる一志だ。
彼にこうして頭を下げることは、カッコ悪いことではない。
当然のことだ、と思っていた。
「宝くじのおかげ、ですよ。もう、気にしないで」
それに、お礼を言うのは僕の方です、と希は言った。
「まだ、夢みたいです。僕、もう辛いことに耐えなくてもいいんですね」
「そうだよ、希。君は自由を手に入れたんだ」
嬉し涙を流す希の背を、一志は優しく撫でた。
「君の部屋も、用意してあるんだ。行こう」
「僕の部屋、ですか?」
一志にいざなわれ、ドアを開けるとそこには採光の良い明るい洋間があった。
「わぁ!」
「家具は新しく買ってもいいし、カフェの二階から業者に運んでもらってもいい」
父親と過ごした日々の、思い入れのある家具なら古くても構わない、と一志は考えていた。
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