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第五章・4
「そして、ここが寝室」
「大きなベッド!」
まだ二十歳そこそこの希は、まるで少年のようにはしゃいで、ベッドのスプリングを手で何度も押した。
しかし、ベッドは一つしかない。
「あの、ね。君が嫌だったら、もう一つベッドを用意するけど……」
それには、にっこり微笑んでくれた希だ。
「一つで充分です」
大きなベッドに腰かけ、二人は自然にキスをした。
「好きだよ、希」
「大好きです、一志さん」
本当に、僕を救いあげてくれる人が現れた。
そしてそれは、以前脳裏をよぎったお客様。
(一志さんは、生きることで精いっぱいだったのに、僕に手を差し伸べてくれたんだ)
「ありがとう。ありがと……、一志さん……」
頬を伝う涙が唇に流れ込み、少し塩辛さを感じた二人だ。
だが情熱的なキスは、その味をかき消していった。
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