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第六章 プロポーズ
一志と希、二人が共に暮らし始めて三ヶ月が経った。
愛し合い、信頼し合う彼らは、互いの身の上を少しずつ語り、共有した。
二人とも、両親とはすでに死別してしまったこと。
一志の第二性は、αだということ。
Ωである希は、一度妊娠したこと。
「それは、兄さんの子?」
「ええ。気づくのが早かったから、中絶しました」
「希……」
一志は、希を強く抱きしめた。
なぜだろう。
涙がこぼれる。
「僕のために、泣いてくれるんですか……」
「そうだよ。涙が止まらないよ」
口づけ合い、互いの頬を舐めて涙をぬぐった。
やがてそのまま眠りに就いたが、一志は夜中に目が覚めた。
「希、眠ってる?」
「……」
「寝てるよね」
はぁ、と溜息をついて、一志は天井を眺めた。
「それでも尊は、このまま放ってはおけないな」
希に、中絶の苦しみまで味合わせた男だ。
野垂れ死にしても構わない、くらい憎んではいるが。
だが、痩せても枯れても希の兄だ。
「第三ステージに、計画を移すか」
全ては、希の幸せのためだ。
明日の計画を胸に、一志は再び瞼を閉じた。
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