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第六章・2
『それでも尊は、このまま放ってはおけないな』
『第三ステージに、計画を移すか』
この一志の言葉を、希は聞いていた。
実は、彼に声を掛けられた時に、希もまた起きていたのだ。
驚かせようと思って寝たふりをしていたが、思いがけない一志の言葉に目がさえた。
(一志さんは、今度は何をしようというんだろう)
久しぶりに、兄・尊の話題が浮上して、気にはなっていた。
(兄さん、どうしてるだろう)
それは兄の心配というより、残してきた父のカフェへの想いが強かった。
(ちゃんとマスターとして、お店を切り盛りできてるかな)
またパチンコばかりして、営業をおろそかにしているのではないか。
そんな考えが、頭をよぎる。
「眠れなくなっちゃったな」
そっと、体を一志に寄せる。
温かな、大きな体。
その胸に顔をうずめ、希は瞼を閉じた。
眠れなくても、こうしていれば心が安らぐ。
「一志さんに任せておけば、きっと大丈夫」
血のつながりより強い信頼を、希は一志にいだいていた。
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