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第六章・5

「じゃあ、今すぐ借金を返しちゃいましょう。きれいさっぱり、ね」 「来栖さん、なんでそこまでしてくれるんですか?」 「うん。正直、私はあなたが憎い。希を酷い目に遭わせてきた罪は、許しがたい」  だがしかし。 「あなたは、希の兄だ。いずれは私の親戚になる人だ」 「希。希は、元気にしてますか」 「元気ですよ。あなたと暮らしていないから」  その言葉に、尊は呻いた。 「希……。俺は、希が好きだったんです……」 「歪んだ愛情、ですね。好きな人には、思いやりを持って接しなくては」  さあ、立つんだ。  一志は尊の腕をつかみ、ベッドから引きずり下ろした。 「顔を洗って、歯を磨いて。髭を当たって、服を着替えて。そのままじゃ、表にもでられやしない」  すっかり一志に言い負かされた尊は、のろのろと洗面台へ向かった。  残された一志は、ぱん、と両手で自分の頬を叩いた。 「公言したからには、実現させないとな」 『あなたは、希の兄だ。いずれは私の親戚になる人だ』  希と結婚すれば、尊は義理の弟になる。  それなりの暮らしをしてもらわないと、希の肩身が狭くなるのだ。 「まだ、プロポーズはしてないんだけどね……」  尊を凹ませるには良く回る舌も、希に一言求婚はできずにいる一志だ。  でもまずは、その兄を更生させなくては。  第三ステージは、始まったのだ。

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