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第六章・7

 希の淹れてくれたコーヒーを飲みながら、一志はできるだけ彼が罪悪感を覚えなくて済む話し方をした。 「私はまだ、希から三億円借りているわけなんだけど。そこからお兄さんの借金分をもらう、ということではどうかな?」 「それでいいんですか?」 「もちろんだよ。そして、その三億の返済方法なんだけど」 「はい」 「今のままの関係では、贈与税がかかる。それを回避するには。するには……」 「何でしょう。どうしたらいいんですか?」 「……」  聞こえない。  コーヒーカップに口を付けたまま、一志はもごもご言っている。 (変な一志さん)  いつもパリッとした、滑舌の良さがすっかり鳴りを潜めている。 「どうしたんですか?」  覗き込む希を、正面から直視できない一志だ。 (言うなら、今だ。こういうことは、早いに越したことはない)  でも、何て勇気がいるんだ! 「希さん」 「どうしたんですか。いきなり『希さん』だなんて」 「私と」 「私と?」 「結婚してください!」  

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