45 / 53
第六章・8
言ってしまった。
もう、後には引けないこのセリフ。
(半年前までは、一生言うことのない言葉だと思ってたけど)
言ってしまった!
希は、円い目をして口を半開きにしている。
そして、その瞳からみるみる涙が浮かんできた。
(え? 泣くほど嫌なのか!?)
「嬉しい……」
「え?」
「嬉しいです、僕」
「じゃ、じゃあ。希、私と」
「僕なんか、一生結婚できないと思ってたのに」
希、と一志は彼の手を取った。
「大切なことなので、もう一度言うよ。結婚して欲しい」
「ありがとう。喜んで」
二人で、そっと口づけをした。
互いをいたわり、これからの未来を築く口づけだ。
「もう少し、ロマンチックなシチュエーションで言えば良かったかな。婚約指輪も用意してないし」
「状況なんて、どうでもいいです。今は、ただ嬉しいだけです」
ありがとう、と一志は希を優しく抱いた。
希も、一志をしっかりと抱き返した。
互いの体温を、伝えあった。
互いの愛情を、伝えあった。
ともだちにシェアしよう!