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第七章・4
僕に見せたいもの、って。やっぱり。
カフェ・ムーンリバーの前に立ち、希は一志を笑顔で見上げた。
「第三ステージ、終了したんですか?」
「まあね。仕上げをとくと見て欲しいよ」
ドアベルを鳴らして店内に入り、希は驚いた。
「これは……!」
カフェの店内はピカピカに磨かれ、観葉植物もみずみずしく繁っている。
軽やかなジャズが流れ、コーヒーの香りが芳しく漂う。
(兄さんがほとんど手を付けないで、荒れ放題だった、って聞いてたけど)
いや、兄が経営していた時とも、また違う。
壁のアートやテーブルクロス、有田焼のコーヒーカップ。
「父さんがいた頃の……、カフェ」
「希のお父さんがマスターをしていた時の常連さんに、店内の様子を聞いて再現したんだ」
気に入ってくれたかい?
一志は、希の肩を抱いた。
カウンター内には、父と同じ年頃の男性がにこやかに立っている。
「本田(ほんだ)と言います。月川さんとは、共にバリスタのライセンスを取るために修行した仲です」
「彼に、しばらくの間はマスターとして働いてもらう。でも、このカフェは君のものだ」
希は、ぽかんとして立っている。
そこに本田が、笑顔でコーヒーを出してくれた。
「さ、希。掛けてコーヒーをいただこう」
「は、はい」
一口飲んだブレンドは、父が淹れたものと同じ味がした。
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