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第12話 二度目、三回

「へぇ、二十五か、若いな」 「若くないです。もうギリギリの二十五なんで」 「ギリギリ?」 「はい。七月、一日が誕生日なんです」 「へぇ、キリがいいね」 「確かに。敦之さんは、あの、何歳なんですか?」 「俺? いくつに見える?」  まるでお見合いや大学で女子を交えた飲み会でしていそうな会話だ。彼は質問に質問で返すと、ルームサービスで頼んだサンドイッチを美味しそうに頬張った。  この間と同じように、ベッドの上で、バスローブ姿で遅めのルームサービスの夕飯を食べていた。この人とホテルの部屋に入ったのが午後六時過ぎ。そこから数時間。 「うーん……年上、ですよね?」  セックスをしていた。 「さぁ」 「う、うーん」  年上ではあるんだろう。むしろ、この物腰で二十五歳未満だったら、なんかすごく嫌なんですけど。自分の経験値の低さに落ち込む。 「そうだなぁ……」  見た目、とにかくかっこいいんだ。だから本当に年齢不詳なんだよ。物腰の柔らかさとか、そのホテルの部屋をスマートに取っちゃうとことかさ、経験値がめちゃくちゃ高そうだから、そういう意味で言ったら三十を超えてそう。  でも、見た目が、ね。  こんなおじさん臭くない三十っているか? って感じ。俺の周りにいる三十はもうちょっと腹が丸みを帯びてたりとかさ。あ、俺のデスクの斜め右に座ってる田中さんは確か三十二だった。 「うーん……」  いや、田中さんが三十二で、それと同じには……見えないよな。 「じゃ、じゃあ、二十代? です?」 「……」  肩を竦めて、黙秘。 「年齢をずばり当てられたらご褒美をあげよう」 「えぇ? そんな無理ですよ」  ほら、そういうことを言っちゃうのは三十代の余裕って感じなんだよ。でもさ、ほら見た目がさ。  ワックスで整えているともう少し大人びて見える。経験値の低い俺に大人びてとか言われたくないかもしれないけれど。でも、髪をこうしてルーズにしていると、どこか少年みたいな。いや、少年は言い過ぎかな。でも、すごく洗練された、青年って感じ。そこに男の俺でもどきりとする色香が混じるっていうか。 「いくつだと思う?」 「じゃ、じゃあ……」  それから田中さんよりは確実に若いと思う。 「さ、三十」 「惜しい」 「ええええええ!」 「残念。御褒美ならず、だったね。正解は二十九だよ」 「わ、本当に惜しい」  二十九だって。俺の四つ上。 「君は四つ年下だ」  敦之さんはにこりと、まるでモデルのスナップショットみたいに笑って、ペットボトルの炭酸水を一口飲んだ。 「残念だったな。ご褒美、あげられなかった」 「ご褒美、って……なんだったんですか?」  パン、食べてるから、かな。喉が渇く。  俺もベッドの上に横たわっていたペットボトルを手に取って、蓋を開けた。プシュッと勢いよく中の空気が弾けて飛び出して、そして、炭酸水を口のすると、喉奥でパチパチと弾けてる。慣れ親しんだ甘い水で味わったことのある刺激が、これはただの炭酸水だから、少し不思議だった。普段は炭酸ジュースなのに、これは甘くないから。なのに、刺激はジュースの時と同じだからかな。  ほんのりとだけれど甘さを感じた気がした。 「ご褒美、やらしいことを期待した?」 「! そ、そんなこと、んあっ」 「期待した顔、してたよ」  首筋にキスを落とされて、自分でも驚いてしまうほど甘い甘い喘ぎ声が溢れた。  仕方ない。  だって、ついさっき、までしてたんだ。 「あっ……ン」  セックスをし終えてから、まだ一時間も経ってないんだ。 「やらしい声だ」 「あぁ……ん」  この人のペニスが俺の後ろ、挿ってたんだ。つい、さっきまで。だから――。 「あ、あ」 「ほら……」 「っ」  だから、首筋にキスされただけでも思い出してしまう。 「勃ってる」 「ンっ」  だってまだ、この人のペニスが入ってる感覚が残ってる。身体の中にはセックスの残りがまだ、たくさん、染み込んだままだから。 「あっ……」 「脚、広げて」 「あ、ぁ……」  そして、快感がまだ染み込んだままの身体はまた。 「あ、ン、気持ち、ぃ」  またこの人のペニスで抉じ開けられた。 「うわ……」  クリーニングを依頼したスーツは朝方戻ってきていた。そろそろチェックアウトの時間だからとそれに着替えると見違えるほど綺麗になったスーツに感動すらした。これが本当に昨日まで皺くちゃでヨレヨレだったスーツなの? って。 「拓馬? どうかした?」 「あ、いえ……」  皺くちゃだった安物スーツがクリーニングで高級スーツみたいになって返って来ました、なんて恥ずかしくて言えない。だって、スーツ姿になったこの人は俺よりずっと洗練されて、少し、朝日の降り注ぐ部屋で見かけると見惚れてしまうほどだから。  朝まで一緒に過ごしてしまった。  そう空になったルームサービスの皿を見て、それから人が寝転んでいたとわかる皺くちゃのシーツを見て思った。  初めての時も朝まで過ごしたけれど、あれは意識をほぼなくして寝たから。起きてすぐ逃げ出したし。  今回は二人で眠った。  起きたのは敦之さんの方が早かったらしい。目を覚ますと敦之さんが俺を見ていた。目があって、今起きたばかりだよと言っていた。俺は、起きてすぐ目の前にいた美形に飛び上がった。飛び上がって、それから、あらためて、こんな人に二度も抱いてもらったのかと思った。二度、じゃないかな。遅い時間の夕食のあとに、もう一度、セックスしたから。回数でいったら三回。 「拓馬は髪、柔らかいんだな」 「え?」 「朝ついていた寝癖がもうない」 「あ、いえ……元気がないんですよ、きっと」  俺の言い方が面白かったのか、敦之さんは目を見開いたかと思ったら、笑っていた。 「そろそろチェックアウトだ」 「あ、はい」  三回、この人とセックス をした。 「そうだ、拓馬」  二度目の夜。 「夜に話してた、ご褒美」 「え?」  三回、したセックス。 「夜遅くまでやってる美味い店があるんだ」  二回目よりも三回目の方がもっともっと気持ち良くて、俺は、その三回目のセックスで何度達したかわからないくらい。 「そこに連れて行ってあげようと思った」 「……」 「今度、連れてくよ。もし、君がよかったらだけど」  何度も何度もイって、甘い声でずっと喘いでた。 「連絡先」  すごく、気持ちよかったんだ。

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