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第16話 辿々しい舌

 夜遅くまでやっている食事の美味しい店はスペイン料理の店だった。 敦之さんがお気に入りなのはパエリアとシーフードサラダ。 アヒージョも美味しいらしいのだけれどそれのテイクアウトはやっていなくて、頼んだのはパエリアとサラダ。  アヒージョはまた今度にしようと話していると、店員さんが席に案内できるとお店の人に言ってくれた。でも、断った。  そして、ホテルへ向かった。 「あ、敦之さん、お、お待たせし、ました」  先にシャワーを浴びたのは敦之さんだった。  バスローブ姿で窓際にある一人掛けのソファに座っている彼と目が合うと、ふわりと微笑んでくれて、俺がシャワーを終えるのを待ってくれていたんだと、ふと、実感できて。  なんて言うのがいいかわからなくて。  待たせました、なんて変な言い方になった。 「ここのボディミスト、いい香りだったね」 「ミスト?」 「あっただろ?」 「あ、置いてあったやつですか? すみません。 俺、そういうの使ったことなくて、わからないから」  そんな肌ケアみたいなことしたことがなかった。 誰かに見せる機会もないし、男の俺がそんなことをしたくらいで片想いの相手がほだされてくれるわけでもないから。 「そうか、じゃあ、あとで、もう一度シャワーを浴びる時に一緒に入ろう。 いい香りだったから、使うといいよ」  頬が熱くなった。  後でシャワーを浴びるってことは、これから、もう一度シャワーを浴びることになるようなコトをする、って意味だから。 「あ、の 」  今から、する。 バスローブ姿で待っていてくれてた、し。 「拓馬?」 「あの」  そのバスローブ姿の敦之さんの目の前に立った。  どうしたんだろうって顔で目の前に立った俺を見上げてる。俺は、緊張に一度だけ喉を鳴らした。 「しても、いいですか? その、口で」  とても大胆なことを言った。 「この前、俺、してもらったから。は、初めてだから、下手です、けど」 「……」 「その、きっと、他の人よりもずっと下手です、けど」  今日の仕事はそんなにたくさんじゃなかったのに、辛かった。むしろ、たくさんあった方が助かったかもしれない。 昨日の夜、貴方に電話をもらってからずっと、スイッチが入ったままなんだ。  ずっと一一。 「いい、ですか?」 「いいよ」  ずっと頭の中がいっぱいになったままだった。 「じゃ、じゃあ、失礼します」  色気のないお辞儀をして、その場に膝をついた。貴方はそんな俺を笑うことなく待っていてくれて。  一つ、息を呑み込んでから、手を。 「わ」  手を伸ばして、バスローブの前を寛げたら、もう、すでにちょっとだけ硬くなってて。 「あ 」  触れて。 「ン」  先のところにキスをしたら、ぴくんと跳ねて、鼻先に当たった。 「舐められる?」 「ん、舐められ、ます」  手を添えて、ペろりと舐めた。 「咥えられる? 無理はしなくていいから」 「ン 、む」  咥えて、口の中で恐る恐る先端に舌を絡めてみると、敦之さんのが咥えた口の中でぴくんと跳ねた。 「ん 」  跳ねて、もっと硬くなっていく。 きっと今までされた中で一番拙い舌だろうけど、それでもちゃんと反応してくれてる。 「ん、ふっ」  先端は気持ちいい? ここの、先の割れ目のところは?  このくびれたところ、とか。 舌先でくすぐるみたいに小刻みにするのがいい? 舐めて、しゃぶりつくほうが、好み? 咥えて、頬を窄めるほうが、好き? 吸うのは、好み?  貴方が俺にしてくれた時、俺が一番気持ち良かったのは、こうして……。 「拓馬」 「んっ」  俺を呼ぶ声が掠れてて、ゾクッてした。 この人の手はとても気持ちがいいんだ。 触り方がすごく心地いい。 長い指で髪を硫いてもらうのが好きで、それをしてもらいたくて、丁寧に敦之さんのペニスに舌を絡めた。  舐めて、咥えて、口を上下に動かすくらいしかできないけれど。  俺がしてもらった時、彼の口の中が熱くて濡れてて気持ちよかったのを覚えてる。三週間も前のことだし、それに俺はあっという間にイったから。初めての快感に狼狽えるばかりだったけれど。  でも、とても、すごく気持ちよかった。 「ん、ン」  彼にも気持ち良くなって欲しい。 「拓馬」  俺の舌なんてたどたどしいばっかりで、下手だと思う。でも、ちゃんと硬くて、熱くしてくれてる。 「ん、んくっ、ん」  この硬いのが俺の中に入るんだって思った。 「拓馬」  そう思ったら、たまらなかった。 「ありがとう。 拓馬」 「んはっ、っ」 「もういいよ」 「え、でも」  まだ貴方はイってない。 一生懸命、この人のペニスに尽くしてると、顎に敦之さんの手が触れて、くすぐるように喉元を撫でられた。俺は、慌てて。 「違うよ。 とても気持ち良かった。上手だよ」 「わっ」  手を引かれて、一人掛けのソファに座るこの人を跨いで腰を下ろすよう促される。重いからどこうとしたけ  れど、腰をしっかり持たれていて、かなわなかった。 「お、重い、ですよ」 「全然、それより、君は落ちないように掴まって」 「え? あっ!」  とろけそうだ。 「あっ……指っ」  この人の上に跨って、しがみつくような格好のまま、後ろに指が入ってきた。 長い指はいつの間にかローションで濡れていて、そこをなんなく侵入すると、ゆっくり中を探ってくれる。 「ああっ、あ、ンっ」  この長い指に、自分の声が一瞬で甘く変わる。 甘ったる鼻にかかった声に。 「あ、あ」 「少し、してた? 自分で」  しがみつきながら、ふるふると首を横に振った。 「し、てない、です。 さっき、シャワーの時に少し、指を入れてみた、だけ」  でも、すぐにやめてしまった。 「どうやればいいのか分からなくてっ、あ、あ、時間かかるばかりで待たせたら、悪いなって、あぁあっ」  指がくちゅりと甘い音を立てて深いところに入ってくる。 「だから、ちゃんと、は」  中を指が広げてくれると、その奥が熱を持った。 「敦之さんの大きいのはっ、あ、あ」  口に唾えたらとても大きかった。 それが俺の中に。 「中を、きゅんって、させてどうかした?」 「あ」 「拓馬」  昨日の夜、オナニーをしたのに、ずっと熱かったんだ。 今日も一日、そこが何か焦れてるみたいに落ち着かなかった。 「あっ」  口で咥えてみたら、あんなに太い。  あんなに熱い。  それをここに。 「敦之さん、もう、して、欲しい」  ここに欲しくて、ぎゅっと、落ちないように掴まってと言われたとおりにしがみついて、辿々しいけれど言葉にした。 「して欲しい、あっ、あ!」  熱かったんだ。昨日からずっとそこが。 「拓馬」 「あ、あ、あっ、ンっ」 「挿れるよ」 「あ、ああああああ!」  刺し貫かれて、仰け反った背中を敦之さんの大きな手が抱えてくれた。 「あ、ンっ」  ずっと、そこがうずうずして仕方なかった。 「あっ……敦之、さんっ」  セックスをしたくて、そこが、ペニスで貫かれたそこが、ずっと、ずっと、熱くてたまらなかった。その場所をいっぱいに抉じ開けられて、甘い溜め息が自分の口から溢れて、零れ落ちた。

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