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第17話 雫

「こんな細い腰で、力仕事?」 「あ、はい。 その、小さな工場なんで、人手不足は常々なんです」  流石に男二人が一緒に入るには少し狭いバスルームの中、敦之さんの邪魔にならないようにと端へ移動しようとして、腰を引き寄せられた。その腰が細い言われて。俺の仕事のことを少しだけ話すと、驚いた敦之さんが細さを測るように手を泡だらけの俺の腰に添えた。  この前はそれぞれにシャワーを浴びたけれど今日は待たせるのも待つのも面倒だからと、二人で一緒に入ってしまった。 「っ、だから、手伝いに」  泡だらけの手はよく滑る。  手指が少し力を込めて腰を掴むから、まだ行為の余韻が残る肌は敏感にその何気ない手にすら感じてしまって、思わず声が溢れそうになる。  視線をどこに向ければいいのか困るんだ。  別に部屋でセックスをする時に真っ暗にしてるわけでもないのに。 裸を見られること以上に恥ずかしい場所をこの人には見られてるのに。身体を洗っているところを見られるよりもずっと恥ずかしいことをしたのに、バスルームだとその裸でいることも恥ずかしい。  ついさっきまでこの人としてたんだって思うんだ。  ほら、あの胸の中にいた。あの肩にしがみついていた。そう思うと視線のやり場に困る。  それでなくても誰かと一緒に風呂に入るのなんて、友人たちとの旅行以来だ。 その時だって俺はカラスの行水だったし。 「恥ずかしい? 耳まで真っ赤だ」  ドキドキする。  少しだけ反応してしまいそうになる。 「っ出、出ましょうか」  そんなじっとさ、見つめられると、泡を流すのさえぎこちなくなる。シャワーで濡れた敦之さんの瞳に、腰に置かれた手に、さっき、ソファのところでこの人に跨って、教わったことを思い出してしまう。だから、反応しかけた身体を見つからないように慌ててシャワールームを出た。 「っ」  ――自分で動いてみて?  教わったんだ。  ――あっ! あっ。  ――自分で気持ちいい場所を探してみて。  いつもこの人に探り当ててもらっていた場所を、さっき自分で見つけた。  腰をくねらせて、自分から動いて、見つけた。  この人のペニスに突かれて気持ちよくなる場所を。もうそこからは快感にしゃぶりつくみたいに自分から。  ――あああ!  腰を跳ねさせて。  甘ったるい声を上げて。  窓際に置かれた一人掛けのソファのところで、敦之さんに跨って、セックスをした。  ――上手だよ。  ――あ、あ、あ。  肩につかまりながら、自分で動いて、前立腺に自分から擦り付けて。俺を見上げる敦之さんにしがみ付いて。 「耳のところ、まだ泡が残ってたよ」 「っ、ン」  ゆっくりとシャワールームを出た敦之さんが俺のうなじに手を伸ばす。首を掴むように撫でられた、ただそれだけなのに、溢れた声はまるで喘いでるみたいに甘い。 「ちゃんと拭かないと風邪を引く」 「あっ」  ほら、また甘い声。 「あぁ、そうだ、ボディミスト、つけてごらん。良い香りだった」  スプレーになっているそれを腕へ一吹きされると、辺りに少しスパイシーな香りが漂った。  さっき、敦之さんから仄かに香ってたこの香りがそうだったんだ。甘さはあまりなくて、柑橘系も混ざったような、清々しさもある香りがした。しがみつくと、すごく良い香りがしていて、俺はその首筋に口付けたんだ。  ――拓馬。 「ン……っ」  ボディミスト、それを吹き付けて、そのまま肌に馴染むようにと敦之さんの大きな手が俺の腕を撫でた。 「ぁっ」  ただ撫でられただけなのに、どうしても溢れてしまう声が気恥ずかしくてたまらない。 「まだ髪が濡れてるよ。拓馬」 「っ」  髪を撫でられると。 「は、ぁ」  蕩けそう。 「あっ!」  確かにまだ濡れたまま、毛先からぽたりぽたりって湯の雫が落ちて、肌が濡れてしまう。その肌に落ちた雫を舐めるように首筋に唇が触れた。 「はぁっ」  そして首筋にキスをされながら、仰反るように背筋を伸ばした俺の胸に、背後から抱き締めるような格好で敦之さんの手触れる。 「あぅっ……っ」  乳首を抓られて、きゅぅって下腹部が熱を孕んでしまった。抓られて、指先で弾かれる度に、小さく喘いでしまう。見れば、鏡の中でいじられて、ツンと尖った乳首が恥ずかしいくらいに色づいてる。さっきしたのもあるから、赤くてさ、なんか……。  鏡の前には初めて見る自分がいた。  男の人に首筋へキスをされて、乳首をいじられて、喘いでる。 「あっ」  とても綺麗な人の唇が俺の首筋に触れて、濡れた髪を大きな手が撫でて、長い指が梳いてくれる。そして、筋肉がほどよくついた腕が俺の髪から落ちる雫が伝って、濡れて、その雫が床へと落ちて。 「あぁっ」  濡れてしまう。床が。 「拓馬」 「あっ」  こんななんだ。敦之さんとセックスしてる時の俺は。 「あ、あ、あっ」  喘いでた。 「あ、敦之、さんっ」 「また、シャワー浴び直しだね」  とても気持ち良さそうに。 「あ、もうっ」  後ろから抱きしめられて。 「敦之……さんっ」  挿し貫かれて。 「あぁっ……ん、ン」  甘く甘く啼いてる。 「拓馬の中」 「敦之さんっ」 「気持ちいいよ」  さっき自分でも探って見つけた気持ち良い場所を敦之さんのペニスに擦ってもらいたくて腰を揺らして、セックスしてる。見たこともない自分が。 「あ、あ、あ、あ、俺も、俺も気持ち、いっ」  鏡に写っていた。

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