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第19話 今日一日、ずっと
また同じ駅で待ち合わせた。
同じ場所に敦之さんがいて。
同じように挨拶をして、同じ地下通路へ向かい、同じレストランで食事をして、同じホテルの部屋を取った。部屋に入ってすぐ、抱き寄せられて、ドアのところでキスをした。
「今日、あまり、口に合わなかった?」
「あっ……っ」
アヒージョならとても美味しかった。ワインもすごく飲んでしまった。空きっ腹にお酒は少し酔いが早くて、今、ちょっとだけふわふわしてる。
「それとも」
「あっ」
お腹なら、ペコペコだよ。今日一日、夜のことを考えて食事を抜いてる。
「その後、セックスするから控えてた?」
「ン」
今日一日、夜に敦之さんに抱かれることを考えてた。
だから、部屋に入ったらもう、頭の中がそれでいっぱいになる。股間をスラックス越しに撫でられて、蕩けたくなる。ほら、ひと撫でされただけで、もうすでに硬くなりかけてる。
「あぁっ」
部屋に入って五秒くらいしか経ってないのに。まだスーツを着たままなのに。
「拓馬」
「あ、あ、あ、あ」
ちゃんと触れられてるわけでもないのに、手の甲で、そっと撫でられただけなのに腰をくねらせて、もう敦之さんにしがみついてた。
「あ、もうっ敦之さんっ」
「もの欲しそうな顔してる」
「あっ」
たまらない。早く、したい。
「お腹が空いた子どもみたいだ」
「も、ぁ」
壁に押し付けられて、深く深く舌を挿し込まれた。日中、飲みものだけしか口にしていなかった舌を自分からも絡みつかせて、しゃぶりついて。
欲しくて、欲しくて。
「また後で、ルームサービスを頼もう」
「あっ、まだ、シャワーっ」
そう言いながらも、スラックスのベルトを外されて、前をくつろげられると、期待と切望で、お腹の底がジリジリ焦げそうなくらいに熱かった。
そして、跪いた彼の唇にキスをされて。
「はぁっ……」
甘い甘い溜め息が零れ落ちるくらい、切なくなるくらいに気持ちいい。壁に背中を預けるように寄りかかりながら、自分のスーツを掻きむしるように両手でくしゃくしゃに鷲掴みにして、腰を揺らして。
「拓馬、何か香り付けてる?」
「!」
気が付かれた。
「あ、の……」
気がついてもらえた。
「ボディミスト、っていうの、買い物してたら見つけたんで、これ、この前のと似てる匂いで、敦之さん、いい匂いって言ってたから、あぁっ」
さっき、レストランでたくさん話をした唇に、美味しそうにスペイン料理を食べていた舌に、自分から擦り付けてしまう。
「あ、ン……あ、あ、あ、あ」
敦之さんの舌に蕩ける。
「あぁぁぁ」
カウパー、啜り飲まれて、悲鳴じみた声が溢れてしまった。
「あ、やだ……もう、あ、イっちゃうっ」
俯けばとても刺激的な光景に興奮した。あの綺麗な人が跪いて、俺のを口に咥えてくれてる、なんて、見ただけでゾクゾクして、もう。
「あ、あ、あ、離してっ、くださいっ出ちゃうっ、からっ、あ、ダメっ、そんな強く、吸っちゃ、あ、あああああ!」
抗えるわけもなく、あっという間に達してた。
「あっ、ぁ、ダメっ、出て、る、ぅっ……ン」
「拓馬」
「あっ」
達したのに。まだ熱い。
「シャワー浴びよう」
まだあそこが疼いて、仕方ない。
ずっと、今日一日、この夜を想像しては、ジンジンと熱っぽく疼いた、身体の奥のところが。
「あぁっ……あ、あ、あ」
シャワーの音に混じる自分の甘い甘いやらしい声。この前とは少しデザインの違うシャワールームにまた二人で入って、狭いスペースに折り重なるようになりながら、今、俺は敦之さんの指に悶えてた。
「あ、ンっ」
二本の指に前立腺を撫でられて、身震いするほど気持ちいい。立ってなんてられなくて、しがみつけない平坦な壁に手をついて、ぎゅっと手を握って指で中を弄られるセックスの準備に身悶えてる。敦之さんの長い指にされると、たまらなく気持ち良くて、さっき達したばかりのはずなのに、またシャワーの雫に紛れてカウパーが前から溢れた。
「肌、白いからかな」
「?」
「この前付けたキスマークがまだほんのり残ってるね」
「?」
キスマーク?
「付けたんだよ。少し上すぎたかなって、シャツから見えない位置だとは思うんだけど、角度によっては見えるかな。もしかして、気がついてなかった?」
「あ、の……」
はてなマークがたくさん顔に記されてそうな俺をじっと敦之さんが見てた。
「もう、いいかな、ここ」
「あっ」
話の途中で、指を急に引き抜かれて、小さく甘く啼いてしまった。
「キスマーク、ここに付けたんだよ。ほら、まだ少し残ってる」
「ぇ……あ」
指で示された場所を鏡へ身を乗り出すようにして見つめると、確かに首の付け根、かな、後ろのところに赤い点がついていた。
キスマーク。
「……わ」
本当にこういうの付くんだ。
「この前、付けたんだよ。まだうっすら残ってる」
敦之さんのキスの痕が、俺の身体に。
「気がついて、なかったんだ」
「あ、全然……知らなかっ」
「可愛いな」
自分に向けられたことのない単語が耳元で聞こえた、可愛いだなんて。と、思ったら、そのまま、その見つけたばかりの薄い点に敦之さんがキスをした。
「っン」
チリリと抓られるような小さな痛みが走った。
「ほら、ついた」
そして、そこに赤い点が残った。
「キスマーク……」
本当に赤い。
「あっ……ぁ」
「可愛い」
「あぁぁ」
身を乗り出すようにしていたんだ。キスマークっていうの見てみたくて鏡に顔を近づけて。
「やぁぁっ」
そして、一瞬溢れた甘い嬌声に鏡が曇った。すぐ目の前、その鏡には真っ赤なキスマークと、視線を外せないくらい間近に、今、後ろから敦之さんに貫かれて喘ぐ自分に蕩けた顔があった。
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