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第21話 セックスの痕
「小野池、昼飯に行かないのか?」
「あ、はいっ、まだ仕事が」
慌てて仕事があるふりをすると、部長は、ふ一ん、と気にすることもなくオフィスの電気を消した。昼休みはオフタイムだから人がいてもいなくても消灯することになっている。照明が消えた途端に薄暗くなった部屋の中、自分のデスクで食を済ませて少しでも眠りたいと突っ伏す人もいれば、チャイムとほぼ同時に外へ飛び出すようにランチをしに行く人もいる。
俺は、今日は、昼飯、抜くから。
だから仕事があるふりをした。
仕事量はいつも常にすごいから昼食を抜くなんていうのも、実際のところしょっちゅうだし。
でもここ最近は仕事が少し落ち着いていて、昼休みを潰して仕事をする必要はあまりない。
ただ、今日は敦之さんと、この後、会う、から。
だから昼飯は抜いた。
八時、だっけ。八時に、駅のところ。
週末の予定をメッセージで訊かれたのが週半ばだった。その週の金曜日は空いてる? て。
空いてますって答えたんだ。だから、早く帰るためにも昼飯の時間に仕事を済ませてしまうほうがいい。八時に間に合うように。 八時までに駅に着けるように。
着いたら、俺は、あの人と――。
「仕事、しないと ……」
あの人とセックスをするから。
溶けそう。
「あ、あ、あっ」
「この態勢、好き?」
向かい合わせで、敦之さんがべッドに座った態勢で、俺はこの人を跨ぐように腰を下ろしてる。とても大胆に足を広げて、全部が見えてしまうような態勢で、薄けた声を上げてる。
「あ、あああっ!」
頭も、自分の腹にくっつきそうなほど反り返ったそれも、敦之さんのぺニスを咥え込んだ孔も全部溶けちゃいそうに熱い。
熱くて、おかしくなりそう。
「すごいやらしい顔して」
「ああ、あ、そこ、そこ」
「自分から腰を振って」
「あああっ」
「前もびしょ濡れだ」
ぺニスをぎゅっと握られて、孔が敦也さんにしゃぶりつく。
「あ、やあっ、それ、イクっ」
「感じてる拓馬は」
自分からも振りたくっていた腰をしっかりと両手で掴まれて、そのまま、深く貫かれて背中を反らせて喘ぐと乳首に歯を立てられた。 そのまま胸をきつく吸われたら、もう。
「可愛い」
「あ、あ、あああああっ!」
ほら、びゅくりと弾けて。
「あ、はあっ」
今、つけられたキスマークにまで精液が飛んだ。
「拓馬、すごいね、」
「あっ ン、乳首、舐めっちゃ」
毎週、してる。
「あ、今、動いたらっ」
毎週、敦之さんとセックスしてる。セックスをして、それからルームサービスを取って、二人で夕食をベッドの中でとるんだ。他愛のない話をしながら。
「拓馬がイきながら、しゃぶりつくのがいけない」
すごくいやらしいセックスをした後、すごく普通の会話をする。俺はあまり面白い話はないから、仕事のことを少し話したり、あとは帰りの電車で起きた小さな出来事だったり、ネットニュースなんかも話題にしたり。敦之さんは話が上手で楽しい話をたくさんしてくれる。
ここのところずっとそうしてる。
「あ、あ、あ、ん、あ、気持ち、い」
だから、キスマークが消えない。 薄くなって、その上に、濃いのが新たについて、薄くなって、また重ねるように色濃いのがついて、また。
「ああああっ」
ほら、またついた。 真っ赤なのが、乳首の横に、薄くなってきた先週のキスマークの上にくっついた。
「お腹空いた?」
「? 敦之さん」
「ここ」
「あ、ン」
撫でられたのは俺の下腹部。
「もう少し、夕食は後でも大丈夫?」
敦之さんのペニスを引き抜かれて鼻にかかった甘い声が出た。
そして、達したばかりの俺をそっとベッドに寝かせて、敦之さんが覆いかぶさるように重なった。
見上げたら、その額を汗が伝ってる。
「 続き、して、大丈夫……です」
そっと囁いて、敦之さんを引き寄せた。
そして彼の下で、大胆に脚を広げて見上げると、目を大きく見開いて敦之さんがこっちを見つめた。
大胆すぎた?
夢中で、頭の中もとにかくどこもかしこも溶けてしまいそうに熱いからって、はしたなくなりすぎた?
敦之さんが驚いてしまうくらいに俺は。
「可愛いな」
「あっ」
「脚、そのまま抱えてて」
「あっ ああ、大き、イ」
「やらしくて、すごく、興奮する」
そしてまた、薄くなってきているはずの、俺の見えない場所ついてる先週のセックスの痕に、また、赤いのが重なった。
「ああっ」
「挿れるよ」
「あ、あ、おっきい、い」
ずぷぷぷ、と沈むように抉じ開けてくる、すごく硬い敦之さんのペニスをきゅううんって締め付けた。 イったばかりの身体はとても敏感で、すごく浅いところも深いところも、どこもかしこも気持ちいい。 気持ち良すぎて。
「あ、もっと」
「拓馬」
「もっと、して」
たまらないから、脚を大きくはしたなく広げて、零れ落ちるままに声も、手も、そのまま放った。
「よく言われない?」
「え?」
朝、身支度を整えてると、ふと、急に訊かれた。 なんのことだか分らなかった。 何を言われないのか。
「可愛いって」
敦之さんが上手なのかな。
会話が途切れないんだ。セックスの後も、食事の最中とかもそう、こういう身支度を整えてる間もそう。自然な会話でなおかつ切れることがない。 俺はこういうの、営業マンなのに苦手なんだ。 上手にできないから立ち回るのも上手くない。 おかげでみんなが嫌がる仕事がよくこっちに回ってくる。
「な、ないですよっ。それに実際本当に可愛くなんて……ありがとうございます。お世辞でも」
「可愛いよ」
セックスの時は少し声が掠れる。 低くなって、とくにイク瞬間は吐息交じりですごく色っぽい。
こういう時、他愛のない会話の時はやや高めの間き取りやすい声。 親しみがあって、楽しそうな感じ。 話し方も軽やかっていうか。でも上品でさ。
「可愛い」
それは、ベッドの中でする雰囲気で出た言葉でしょ。 場を盛り上げるための、そういう言葉。
「そ、んなこと……」
けれど、今、そう話す彼の声はしっとりと落ち着いて、普段のこういう他愛のない話をする時よりも幾分か低かった。
低くて。
「今みたいに赤くなるところも可愛いと思うよ」
耳にとても残る甘い声だった。
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