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第24話 赤い痕

 カフェにいたって、言ってた。 ちょうど駅の改札が見えるところにコーヒーショップがあるから、そこでコーヒーを飲んでたって。  コーヒーを飲みながら待っててくれたって、夜遅くだけれど頼めたルームサービスのサンドイッチとフルーツの盛り合わせを食べながら教えてくれた。もう少し早ければホテルの中のレストランにあるメニューも頼めたと思うけれど、もう、時間外だったから、頼めたのは軽食だったと、教えてくれた。  遅くなってしまったから。部屋に入ってすぐだったら、頼めたと思う。インルームディナーは21時までだったらしいから。もう少し早ければ大丈夫だった。部屋に入ったのも遅かったから、そもそも間に合ってはいなかったけれど、でも入ってすぐ、セックスを……してたから。  ――拓馬の携帯に電話してみたんだ。遅れるとメッセージもなかったから、何かあったのかと思って。電源が入ってないみたいで。  でも、帰らずにいてくれた。 「あ……」 「おはよう」  優しい人だから。待っていてくれたんだと思う。 「あ、おはようござ、い、ます」 「随分とぐっすり眠ってた」  朝、だ。びっくりした。目を覚ましたら敦之さんがこっちをじっと見つめてたから。美形は何をしてても、寝起きでも美形なんだな。 「昨日、あの時間まで仕事だったんだ、疲れてただろう」 「いえ……」 「それと」  なんてタイミングだ。敦之さんが起き上がって振り返ったのと同時に、腹の虫が騒がしくし始めてしまって、俺は、慌てて、布団を抱え込むように空腹の虫たちをぎゅっと抑え込んだ。 「いや、大丈夫だよ。それ、琢磨が寝てる時から鳴ってたから」 「え、エエエエ?」 「それで起きたんだ」 「! す、すみませんっ」  敦之さんは笑ってた。笑って、そして、セットされてない髪をかき上げた。  優しい人なんだ。色気のない朝にも怪訝な顔一つしない。 「朝の七時からインルームダイニングがやってる、朝食を一緒にしよう。それまで待てる?」  優しい人。いつも、さして色気もない、そういうのに手慣れてるわけでも、上手でもない俺を丁寧に優しく抱いてくれる。 「あんな遅くまで仕事した後にサンドイッチじゃ、保たないだろ?」  でも、そんな優しい人が、昨日は少し……乱暴だった。  ――拓馬っ。  切羽詰まっている感じだった。少し性急だった。答えてくれたんだと思う。あんな部屋の入り口で、シャワーも浴びてない仕事帰りのサラリーマンとなんて、普段のこの人ならしないと思うんだ。でも、してくれたのは、きっと俺がすごく慌てて現れたから。すごく――。 「拓馬は和食、洋食どっちが……」  すごく俺が抱いて欲しいと思ってたから。それを察してくれたんだと思う。食事を控えるくらいのことを難なくしてしまうほど、一日中敦之さんに抱いてもらいたいって思ってたから。  答えてくれたんだ。俺の欲情に。 「拓馬?」 「! あ、いえ、あの、背中、すごい痕つけちゃってごめんなさいっ」  必死でしがみついてた。少しでもこの人に抱かれていたいって、しがみついて、離さないでいたせいで、上等なスーツで普段は隠している背中が傷だらけになってしまっていた。赤い爪痕なんて付けてしまった。 「あぁ、それなら、こっちこそ」  謝罪して頭を下げると敦之さんが手の甲で頬を撫でてくれた。 「君こそ見るも無惨な姿にさせてしまった」 「……ぁ」  頬を撫でてくれた手が首に触れて、鎖骨、肩、それから、胸、あと。 「ンっ……ぁ」  お腹に触れた。布団を捲られて、腰、足の付け根を指先で突くように触られて、朝なのに、朝出してはいけない声が溢れる。  昨日はとても激しかったから、シャワーを終えて、夜食を食べ終わると、そのまま寝てしまったんだ。空調の整った部屋の中だから、もう裸で。だから布団を捲られてしまうと、貧相な裸が丸見えになってしまう。 「我ながら……随分、付けた。申し訳ない」  前よりもずっと恥ずかしかった。夜の、ほんのりと照らすホテルの部屋の明かりでなら誤魔化せそうな貧相な裸も、この眩しく、みずみずしい朝日の中では隠せそうにないから。  敦之さんの指が触れた場所全てに残っているのはキスマークの痕だ。見るも無惨、そう言って苦笑いをこぼしてしまうくらい、身体中に痕が残ってる。赤い、セックスの痕が、俺の身体に。 「すごいことになってる」  この人の背中にはセックスの間、俺がしがみ付いた痕があって。 「ここなんて、特に」 「あっ……だめ、ですっ、ぁ、入っちゃ、ぅ」  俺の身体には敦之さんが苦笑いを溢すほど興奮してくれた痕があって。 「まだ、柔らかい」 「あぁっ」  ほら、これも、痕と一緒だ。 「あ、あ、あ、指っ」 「拓馬」  貴方に抱かれた身体はまだ柔らかく貴方ことを欲しがってる、でしょう? 足をこんな朝日の中で大胆に開いてしまうくらい、すごく。 「敦之、さん」  欲しがってる。だから、膝を割り開かれて、更にもっと足を開かされると、期待で胸が膨らんだ。また、くれるのかもしれないって、期待してヒクついて。 「あ……あぁ、敦之さんのっ」  嬉しそうにしゃぶりつくんだ。 「拓馬……」 「あ、あ、気持ち、い……」  繋がった場所を見ると、敦之さんのペニスに身体がちゃんと抉じ開けられていて、そして、その足の付け根の辺りには確かにたくさんの赤い印が残ってた。 「あ……ン、気持ち、ぃ……ぁぁ、いい」  敦之さんが興奮してくれた痕がたくさん残ってる身体を何度も何度も、スローテンポで奥まで抉じ開けられながら、優しく、けれど、しっかりと。 「拓馬」  首筋にキスマークを付けられる痛み混じりに身体を貫かれて、頭の芯が痺れてしまうくらい、ずっと甘イキを繰り返してた。

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