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第51話 溺愛快楽

「笑えるだろう? 君が誰かと話していただけで妬いたんだ」  今日、連れてきてもらえたホテルには大きなバスタブがあった。今まで連れてきてもらったホテルの中で一番大きなバスタブ、しかも夜景が見えるガラス張り。これって普通の部屋じゃない、よな。スイートルームとかなのかな。  敦之さんが、これは風呂に入らないと損だ、なんて言って笑って、俺はまだべッドの中にいたし、じゃあ、後で入りますから、敦之さんが先に入ってくださいと遠慮しようとして、抱っこされた。重いのにって慌てると。  ――重くなんてないよ。  そう貴方は笑って。  抱き上げられた俺は頬が熱くて。  きっと茄ダコみたいに真っ赤だったと思う。  貴方がはしゃいでいるように見えたから。  俺を抱っこして嬉しそうになんてするから。 「手を振って若い男性を見送っていただろ? その時の拓馬の横顔を見たら、もう、止められなかった」  さっき、確かに言われたんだ。  好きだ、と。  確かにそう言われた。  そして嬉しそうな笑顔に、はしゃいだ様子。 「ひどい顔をしてただろう? いい年をした大人が独占欲に駆られて滑稽だ」  バスルームから眺めることのできる夜景にじゃなくて、大人二人がまったり足を伸ばして寛げる広さのバスタブにでもなくて、俺みたいな平凡な男と、その……恋人になれたことにはしゃいでる。 「ひどい顔、なんかじゃなかったです。その、すごく」 「……」 「えっと……ゾクゾクしました」  大きなバスタブの中、背中を丸めて小さく足を折りたたみ自分の腕できゅっと囲い、これでもかってくらいに小さくなりながら、今の状況に戸惑ってしまう。  俺なんかを抱きかかえて楽しそうに話す貴方に。  誰よりも高級な貴方に、その、好かれている自分に。 「……呆れなかった?」  尋ねられて急いで首を横に振った。 「冷めなかった?」 「まさかっ」 「君より年上なのに、余裕もない男で格好悪かっただろう?」 「ぜ、全然です」 「……本当に?」  問いながら、敦之さんの腕が丸々俺を抱きかかえた。そのままうなじを鼻先でくすぐるようにされて、吐息が首筋に触れる。  彼の唇が俺にキスをする。  冷めるわけがない。呆れるわけがない。むしろ俺はあの時の強く俺を抱く貴方の手にすごく興奮したんだ。呼吸をさせてくれないほどずっと重なる唇に蕩けるくらいに感じた。  独占欲を見せてくれた貴方にめちゃくちゃにして欲しいとさえ思った。優しくて丁寧に俺を抱いてくれる貴方に、あの時は乱暴にさえ、されたいって思った。 「俺にしてみたらっ、その、俺みたいな庶民っていうか、平凡な奴のことをどうして貴方みたいな人がって、むしろそっちの方が不思議だし、本当に? って感じです」 「どうして?」 「どうしてって、だって、俺なんて、貴方に好かれそうなところが」 「……」  不思議そうな顔をしていた。でも不思議がるのはこっちの方だよ。 「あ、遊びで抱いてくれてるんだと……思ってました」 「始まり方がそうだったからね」  貴方に相手をして欲しいって頼んだのは俺だった。貴方はあまりにお粗末な思い出しかない俺を可哀想に思って一晩相手をしてくれた。 「でも、だから君にしてみたら、俺は年上のセックスフレンドなんだと」 「さ、最初は」 「……」 「最初は俺なんかを大事にしてくれるのが嬉しかったんです。優しくしてもらえるのが嬉しくて、でも、好きになっちゃって。俺は、貴方にとってたくさんいる相手のうちの一人なのにって」 「……」 「優しい人だから好きになったのに、皆に優しいのが嫌だなんて思うくらい」  平凡なサラリーマンだ。歯車の一つでしかなくて、消耗品とさえ自分で思ってしまうくらいにすり減るばかりの。取るに足らない部品の一つ。ないと、確かに動かないかもしれないけれど、そんな小さな歯車なんてさ、いくらでも同じ形をした部品が大量にある。いくらでも交換可能なんだ。 「理由はたくさんあるよ。君の好きなところ、好きだと思うところ」  そんな交換可能な取るに足らない平凡なサラリーマンの俺を貴方は大事に扱ってくれる。いつも優しくしてくれる、その手で。初心者の俺を優しくてほぐして柔くして、丁寧に抱いてくれる手。 「でも、どうしても何もないんだ」  やっぱり俺は我儘になってしまった。  いつからこんな我儘を思うようになったんだろう。 「ぁ、敦之さんっ」  最初は、その手に優しくしてもらえるのが嬉しかった。  でも、今はその手に、めちゃくちゃにされたいって思う。乱暴にされたいとさえ。 「可愛くて仕方がない。ただ」 「ぁ」  乱暴に、貴方の思うままに俺を。 「好きだ」 「あっ」  犯して欲しいって、思った。 「拓馬」 「ン」  湯がちゃぷんと音を立てた。 「好きだ」  振り返らされて、深く舌を絡ませ合うキスをされて、湯の中で貴方の長い指がそこを撫でた。 「どうしようか」 「敦之さん?」 「やっぱり呆れられそうだ」 「ン」  奪うようなキスに自分から舌を絡めて、脚を開いた。 「さっきあんなに君を抱いたのに」 「あっ、ン」  脚を開いて、貴方の硬くなったペニスに両手で触れると、それがまだ熱の残る孔の口に触れた。 「まだ君を抱きたい」 「あっ」  ゾクゾクする。 「呆れない、です。だから、敦之さんっ、早く、また」  貴方に犯されたくて、ゾクゾクする。 「……欲しい」  湯が慌ただしく飛沫を跳ねさせる。 「あああっ、あ、あ、あっ」  夜景の綺麗なガラス窓に手をついて、その手に彼の手が重なるだけで気持ち良くて、太くて硬いペニスをキュッと締め付けてしまう。脚を広げて、後ろから犯されながら、甘い甘い声をあげてガラス窓にキスをするように、唇で触れると、乳首をいじってくれていた方の手が頬に触れた。 「拓馬」 「あっふ……んんんっ」  背中を捩って、キスをしながら、ずっと強く打ち付けられるペニスで奥まで彼でいっぱいになる。 「拓馬」 「もっと、してください」 「っ」  好きを繋げた身体は怖いくらいに敏感で、やらしくて、何度でも抱いて欲しくなる。 「拓馬」 「あ、あ、あああああっあ、だめ、また、イクっ、あ、敦之さんっ」  ギリギリまで引き抜かれて。 「あ、ああっ!」  根本まで一気に挿入されて。 「あ、あ、あ、あっ」  自分からも腰を振っていた。貴方に教わった前立腺を貴方のペニスで擦ってもらいたくて、自分でも身体を捩らせていた。振り返ると、険しい顔をした貴方がいて。 「あっン」  犯されてるって感じるとまた中が貴方にしゃぶりついてしまう。 「拓馬」 「あ、あ、あ、あっ」  激しさを増す腰つきに喘ぎながら、立っていられないくらい快感に溺れそうで、ガラス窓に必死にしがみつきながら。 「あ、あ、あ、あ、イク、奥、ぁ、イッちゃぅっ」 「っ」 「あっ、あああああっ」  達する瞬間、キツく抱きしめられながら、ゴム越しでもわかるくらいに敦之さんの射精を中で感じながら、達した。 「拓、馬」 「っん、ン」  後ろに寄りかかると抱きしめてもらえて、キスももらえた。 「好きだ」  知らなかった。好きを繋げたセックスがどんななのか。 「拓馬」  こんなに快楽に溺れてしまったみたいに何度も欲しくなるほど気持ちが良いだなんて、知らなかったけれど。 「好きだよ」  今、貴方に教わった。

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