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第57話 何度もしたいつも通りのセックス

 彼の初恋は中学生の頃だった。  遅いだろう? って、少し照れ臭そうに笑っていた。  家が厳しかったし、習い事が多くて、そういうことに「うつつ」を抜かす時間がなかったんだと教えてくれた。  すごい家なんだろうなぁって、思った。  敦之さんの所作を見ればわかる。育ちの良さっていうやつ。  中学生の頃、同じクラスにいた運動のできるかっこよくて笑顔が可愛い男子だったそうだ。人気者でたくさんの人にいつも囲まれてるような彼だった。  意外だったけど。  うん。すごく意外だった。  敦之さんが子どもの頃は大人しい子だったなんて。あんなに容姿に恵まれていたら女子がほっとかないだろうって思ったし、話し上手だから友だちも多くて、それこそたくさんの人に囲まれていたんだろうって想像していたから。  けれどその初恋は彼に彼女ができたことで勝手に終わってしまったと、初恋はやっぱり叶わなかったよと敦之さんは笑っていた。  少しだけ、ほんのちょっとだけ、妬いた。  そして、俺の初恋にヤキモチをしてくれた貴方の気持ちと自分の気持ちが重なって、嬉しかった。  貴方を独り占めしたくなる気持ち。  それから、今、貴方に好かれているのは自分だって喜ぶ気持ち。  この恋はとても大事にしたいって、そうすごく思った。 「あっ」  自分の部屋で溢したことのない、甘い甘い自分の声。 「ンっ」 「拓馬」  初恋の話をする彼は少し照れ臭そうで、静かに話す姿はまるで王子様で。その王子様が庶民の家にいるのが不思議な感じがした。 「敦之さん?」  敦之さんが誘ってくれるホテルのベッドよりもずっと小さなベッドに二人で重なるように抱き合ってる。 「あ、あの……」  ゆっくりと深く身体を繋げていたら、ふと彼が動くのをやめた。 「あの……」  ねぇ、動かないの? そう訊いてしまいたくて、身体が彼にキュッとせがむようにしがみつく。 「落ち着く」 「え?」 「拓馬の部屋」 「……」 「心地良い」 「あっ!」  不意を突かれて、奥を少し強く突き上げられると、甲高い甘やかな喘ぎが溢れた。 「拓馬……」 「あぁっ」  奥を抉じ開けられながら、重なった身体で敦之さんの重みを受け止め、深い口付けに自分からも舌先を絡める。首に腕を回して、角度を変えて差し込まれる舌に絡めて、身体の奥で彼を、またキュって締め付ける。 「俺は、ドキドキします」  いつもと同じ。  貴方とするいつもと同じ気持ちいいセックス。 「敦之さんがうちにいるなんて」 「そう?」 「は、ぃ」  いつも自分が寝ているベッドにさ、いるんだ。貴方が。  貴方がいて、俺とセックスをしてる。  貴方からのメッセージをごろ寝しながら眺めていたベッドに。毎週水曜日にお誘いのメールをもらってから、即返そうと思いつつ、返信に添える絵文字を考えあぐねて寝転がっていたベッドに。貴方のことを思って過ごしたベッドに。 「やぁっ……そこ」 「拓馬」 「あ、あ、あ」  貴方がここにいる。 「あ、ン」  すごくドキドキする。 「あぁっ、そこ、もっと」  仰向けで、身体をくねらせながら、感じてしまう、すぐにでもイッてしまう場所ばかりを攻められて、身体の奥がぎゅっと敦之さんのペニスにしがみついてる。キュンキュンさせながら、抜き差しされる快感に蕩けて、気持ちいいところをもっと擦られたいと腰をくねらせてる。  見上げると、汗を滲ませた敦之さんが射抜くように感じてる俺を見つめてた。  目が合えば、ふわりと微笑んで、また覆い被さりながらキスをくれる。  身体を奥深くまで繋げたまま、小刻みに中を擦られながらキスをするのがすごく好きなんだ。 「ん、ン」 「拓馬の中、すごく気持ちいい」 「あっ!」  深いキスに呼吸が乱れた。それから、ゆっくりと、でもだんだん激しくなってくる動きに喘ぎが溢れてしまう。濡れた唇が触れるか触れないかのギリギリのところで、見つめ合いながら、少しずつ強く深くなる腰つきに身悶えてた。 「あっ、敦之さんっ」 「拓馬、いい?」 「あぁっ」  敦之さんのペニスに貫かれて、蕩けてる。  スーツ姿じゃなかったからか少しだけいつもよりもラフだった髪がセックスに乱れて、セクシーだった。その髪を弄るように彼にしがみついて、身体を大胆に開きながら頷いた。 「ン、も、イッちゃう」 「あぁ」 「もっとたくさんして、欲しい、です」 「もちろんだよ」  自分の部屋で零したことのない甘い声。響いたことのない濡れた音。軋んだことのないベッド。狭くて、こじんまりとした平凡な部屋。 「拓馬」  これはお伽話よりもすごいこと。  誰かが見たら、いわゆるシンデレラストーリーってやつだ。でも――。 「あぁっ、あ、あ、あ、激し、イッ、イク」  ねぇ、シンデレラはなかったでしょ? 「っ」 「あぁあっ、あ、あ、あ、あ、やぁっ」  確か、王子がシンデレラの屋敷に行った事はなかったよね? 「あ、あ、イク」  俺の、王子様は来てくれたんだ。平凡なワンルームマンションに。素敵な夜景もなければ、高級フレンチフルコースもない、皺一つないシーツに雰囲気のいい間接照明もない。  彼が、王子がプレゼントしてくれた小さな花束にさえ部屋が戸惑ってしまうような、質素な部屋に。 「あ、イクっ、イッちゃう」  俺の王子様。 「いいよ」 「あ、あ、あ、あ、あっ」  俺がイキそうになると、敦之さんは頬に手を添えてくれる。イク時の顔を見たいと、頬に触れながら。 「あ、あン、あぁ……あ、あ、あっ」  激しくしてくれるんだ。 「っ」 「あ、ああああっ………………っ!」  そして彼が息をつめて、俺はその後の激しさに堪えられず射精する。 「あぁっ」  何度もしたセックス。 「あっ……ン」  なのに、今までで一番貴方を独り占めできた気がして、愛されてる気がして、愛しさが一番込み上げてきて、一番、気持ち良かった。 「敦之さん……」  俺の初恋にヤキモチをしてくれた貴方の気持ちと自分の気持ちが重なった時みたいに、今、胸にある想いも重なるんじゃないかなって、ぎゅっと、貴方の重みに組み敷かれながら思っていた。

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