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第66話 牽制

 夜景をたくさん見せてくれたから、俺は満天の星空。  大都会の高級な場所にたくさん連れて行ってくれたから、俺は、二人っきりで静かに過ごせる場所へ。  お洒落で。  でも、敦之さんはしたことがなさそうなこと。 「グランピング?」 「はい! 知ってます? キャンプなんだけど、すごいお洒落なんですよ。ほら、この……」 「うん」 「あの……えっと……」 「うん」 「あの……これ、重くないですか?」 「全然」  敦之さんはにこりと笑って、寄りかかっている俺を背中から改めてギュッと俺を抱き抱えると、頭のてっぺんにキスをした。 「あ、あの」  そこで息されると恥ずかしい。頭、臭くないかな。いや、流石にまだ加齢的なそれはないだろうけど、でも、頭のてっぺんでスーハーされると、緊張する。そして緊張すると、出る必要のない汗が出てきちゃいそう。無駄に汗かいちゃって、それで頭臭くなりそう。 「敦之さんって」 「?」 「……いえ、あの」  付き合ってる感じがすごくして、その……。 「うなじまで真っ赤にされると襲いたくなるな」 「ぁっ」 「グランピング、行ったことはないけれど、聞いたことならあるよ。仕事でちょっと関わったことがある」 「え、ぁ、お仕事、で?」 「あぁ」  どんな仕事なんだろう。 「とても楽しそうだ」 「あっ」  服の中に、不埒な指先が潜り込んだ。 「じゃ、じゃあ、ここ、予約しても、いいですか? あの、会社の同僚の友人が旅行代理店に勤めてて、素敵な温泉を紹介してくれたんです。露天風呂付きで、結構部屋も綺麗で、だから、そっちでも」 「立花君」 「あ、はい。あ! けど、本当にただの同僚で親切な」 「いや、グランピングがいい」 「あっ……ン」  じゃあ、断らなくちゃ。立花君に。  不埒な指先に服の内側で肌を撫でられ、蕩けそうになりながら、そう、思った時だった。 「あっ」  呼びました? なんて返事が聞こえそうなタイミングで手の中のスマホに着信が入った。立花君だ。メール打つの面倒って言ってたから、直接電話を。 「す、すみません。旅行の探してくれてたから、あの」 「あぁどうぞ」  敦之さんにお詫びをして、電話に出た。多分、旅行のこと。決めたのかどうかって返事をしないといけないから。 「もしもし?」 『あ、お疲れ様っす』 「お疲れ様です」 『旅行、どうします? なんか、聞いたら、もしかしたらオプションくらいなら無料でつけられるかもーって』 「あ、それなんだけど……っ!」  飛び上がって驚いた。俺を背後から抱える敦之さんが、その抱えたままで、俺の電話を持っていない方の手に。 『はい』 「あっ! ……っ」  服の中に潜り込んで肌を弄ったから。今、話してるのにって。 『小野池さん?』 「あ、うんっ、えっとっ……! っ」  弄って、乳首をその指先で撫でたから。 「今回は、別のっ」  声、出ちゃう。 「宿を、自分で」 『あ、そうなんすか? 何にしたんすか?』 「あの、グラ、ンっ、ピング」  ダメ。声が出ちゃう。乳首を。 『グランピング、っすか??』 「ぅ、んっ」  振り返ると、すごく色っぽい顔をした敦之さんがすぐそこで、俺の肩にキスをした。 「っ」  肩に歯が食い込む。爪の先で乳首を引っ掻かれる。鋭く尖ったような快感に反応して、跳ねるように声が溢れそうになる。 「っ、!」  ダメだってば。 「っ!」  もう片方の手が、ズボンの中に。 (敦之さんっ)  ダメ。 (敦之、さんっ)  そっちは触ったら、ダメ。本当に、声が。 『小野池さん?』 「! あ、ごめっ、あのっ、だから、友達にもお詫びをっ」 『あー全然気にしないでいいっすよ」  ダメ。 「っ……っ、!」  前を撫でられて、奥がぎゅっと熱くなった。熱を思い出して、ぎゅっと中が物欲しげに締め付ける。 (電話、ちょうどいいところで切れる?) 「っ」  耳にキスをされながら、低い声が、そう告げた。敦之さんの優しい声に色気が混じるとすごくて、身体の奥がジンジンするんだ。一気にスイッチが入って、中が彼のことを思い出してしまう。 『小野池さん?』 (申し訳ないって言って電話を切って。ヤキモチ焼きの恋人がいるからって言って)  ゾクゾクってした。彼が耳元で妬いていると告げただけで、感じて、濡れて、その手の中でくちゅりと甘い音がするくらい。  ただの電話で、溢れる彼の独占欲に蕩けてく。 『小野池さん?』 (拓馬……)  あの綺麗で上品な人が剥き出しにした欲情に。 『小野、』 「旅行、ごめんなさい。でも、本当に助かったんだ。ありがとう」 『いえいえー』 「それじゃあ、また」 『はーい、お疲れ様っす』 「明日、」  最後のは聞こえたかな。わからない。前を握られて、乳首をキュッと摘まれて、そして、うなじに彼のものだという印を唇で刻まれたら、もう。 「敦之さんっ」 「ごめん。妬いた」 「びっくりしました」 「俺も驚いた」 「……ぁ」 「まさか、こんな子どもっぽい牽制を自分がするなんて」 「あつ、ゆき……さん」  綺麗な人がこんな顔をして俺を襲うなんてこと、されたら、もう。 「自分でも驚いたよ」  もう……とても気持ちが良くて、すぐにイってしまう。

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