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新居編 5 シーツ
大好きなんだ。彼のこと。
「さて、お待ちかねのケーキだ」
「はい」
夢のよう。
半年前までだったらこんなの想像もしなかったんだ。俺がデートでこんな高いホテルのレストランに来ることも。テレビで見かけた素敵なケーキが目的でそのレストランを訪れることも。そんなの、なかったんだ。俺の人生に。
「わ……テレビで見たのと同じ」
「あぁ」
「綺麗ですね」
「あぁ」
「美味しそー」
「……あぁ」
雪隆さんには言わなかったけれど、ずっと思ってる。すごくすごく、俺には勿体無い人だって。いつも思ってる。
「あ、あの、食べないんですか?」
「食べるよ」
「……」
「でも、拓馬が可愛いから見るのに忙しかったんだ」
笑ってしまうよ。俺、そんなこと言ってもらえるほど可愛くもないし、むしろ、くたびれたサラリーマンだし。けれど、いつもいつも感じてる。どこにいても、何をしていても、俺はこの宝石みたいに綺麗な人に、世界の誰よりも大事にされていて、可愛がられてて、甘やかされてるって。
「は、早く食べましょう!」
「あぁ、そうだな」
「い、いただきます」
「召し上がれ」
いつも何をしていても、そう感じる。
「あ、ン……ぁ」
高級マンションの一室、でもまだ玄関。そこで甘い甘い自分の声が響いてた。大理石、多分本物だよね。その玄関で靴を脱ぐと同時にスーツのジャケットを脱がされて、シャツの襟口にキスをされた。
すごく雰囲気のいいレストランで、静かで、ご飯も美味しくて。食べ終わると、敦之さんが手を繋いでくれた。そっと俺を引き寄せて耳元で今日はホテルに泊まろうかって誘ってくれたんだ。でも俺は我儘をした。
――敦之さんの部屋がいい。
そう我儘をして、連れてきてもらった。
優しい人だから、お預けを食らってしまったって笑ってくれた。
「拓馬」
「あっ、ンっ」
魔法のように、あっという間に服が乱されていく。
「やぁ……ダメ、すぐにイッちゃう」
スラックスをベルトごと足元にストンと落っことして、後を指で撫でられただけでクラクラして、貴方の胸にしがみついた。
「あン」
一つ鳴くと、一つ肌に赤い印がくっ付いた。敦之さんがくれた愛撫の印。
「あっ」
指が入ってくる。
「柔らかい……」
「あ……」
「準備、してたの? 中」
濡れてる、でしょう?
「部屋、がいいです」
キュッとしがみ付いて、首に腕を回して、その耳元に唇で触れながらそっと誘った。
「早く抱いてもらいたくて、少しだけ中を濡らしておいたんです。でも、まだ、ちゃんと準備してない、です」
前に叱られたから。優しく甘く、叱られた。
準備を先にしちゃダメだって。それすら、丸ごと行為だからって。
だから、してないよ?
「敦之さん」
貴方の指に柔らかくしてもらいたいから。
「ベッドで、してください」
貴方で奥まで満たされたいから、ここを――。
「ここ、して……」
ねだったら、敦之さんは深く深くキスをしながらだらしないほど服を乱した俺を抱き抱えて、そのまま歩いていってしまう。重いのに。
「あっ」
そして、大きなベッドの上にそっと寝転がされて、その上に敦之さんがネクタイを緩めながら覆い被さってくれる。
すごく、それがカッコよくてさ。何度見ても見惚れてしまうんだ。
「あぁっ」
愛しい人に柔らかくしてもらおうと、自分からうつ伏せになって足を開いた。はしたないほど足を開いて、自分で孔を見せるように手で広げて。
「はぁっ」
ローションを足された指を挿れられて、甘い甘い溜め息をシーツに口づけしながら溢した。
敦之さんの部屋が好き。貴方の匂いがするから。上品で優しいけれど、甘くなくて、どこかゾクゾクする色っぽさのある匂い。だから、このベッドで抱いてもらえるのがたまらなく、好き。
貴方が今朝まで眠っていたベッドに顔を埋めてると興奮する。
「あぁっ、ダメ、も、イッちゃう」
二本の指が俺の好きなところばかりを撫でてくれる。くちゅくちゅ濡れた音を部屋に響かせて。さっきまでホテルで凛々しく仕事をしていただろうこの人が、俺だけを見つめて。
「あ、待っ……」
「待たない。ずっと」
「あ、あ、あ、ダメっ、そこっ」
花を美しく生き生きと飾るその繊細で優しい指先で俺の中を撫でて、俺の胸にくっついた小さな粒を抓って。
「あ、敦之さんの、早く欲しい」
手を後ろに伸ばして、そそり勃っている敦之さんのペニスに触れた。すごく太くて、硬くて、熱いそれに手で触れると俺の拙い愛撫を邪魔をしないようと身体をずらしてくれる。そのまましゃぶりついた。口をたくさん開いて、舌で舐めて、愛しい人のペニスに頬擦りをしてから口付けた。
「ン……ン、ん」
すごく熱くて、先端に吸い付くと口の中でいっそう太さが増した気がした。
「意地悪だな。拓馬は」
「?」
「レストランからずっと触れたくて仕方がなかった俺に」
一番太いとこにキスをして、ちゅうって吸いつきながら、根本の方を手で扱くと、気持ちいいのか敦之さんが顔をひそめて、少し長い俺の前髪をかき上げた。
「こんな上手にしゃぶりついて」
「上手、なりました?」
「あぁ」
「敦之さんの、気持ち良くできてる?」
「あぁ、とても……たまらない」
嬉しくてもっともっと唾液を絡めてしゃぶりついた。たくさん、口で。そして――。
「敦之さん」
愛撫を止めて、俺を見つめていた彼を見上げた。目が合うと、嬉しそうに目を細めて俺の髪をすいてくれる。それがくすぐったくて肩を縮めながら、彼の、その首筋に俺も印を一つつけた。
俺がしてあげた愛撫の印。
「ありがとう、拓馬」
「欲しいです」
我儘ばかり言ってる。貴方の部屋がいいって言って、貴方のベッドがいいって囁いて。
「ここに……挿れて」
貴方が欲しいって、ひどく、はしたなく、ねだるの。四つん這いになって。
「敦之さん……ぁ! あぁっ」
自分で広げた。顔を貴方のシーツに埋めながら、両手を後ろに回して、広げた。
「あぁぁっ」
ズプププと抉じ開けられながら、ビュクリと弾けた。
「やらしいな」
「あ、あ、あ、今、ダメ、動いたらっ」
「挿れられただけでイクなんて」
「やぁ……ぁ、ン」
「ついさっきまで可愛くケーキを食べてた口で俺のを咥えて」
「ああああっン」
「こんなに大胆に男を誘って」
「あ、だめっ、乳首」
「ここもこんなにして」
「あっ、イク」
激しく突き上げられて、たまらなかった。
「あっ」
あの繊細な手に強靭な力で腰を鷲掴みにされながら、何度も奥を突かれて、貫かれて。
「たまらない……拓馬」
「あっ、ン、ああああああああっ!」
貴方の眠っていたシーツにしがみつきながら、貴方のベッドで淫らに悦がってた。
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