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浴衣旅行編 12 優しい口づけ、やらしいキス

 朝、起きてすぐ敦之さんがするのはスマホに来ているかもしれないメールのチェック。  そして、何も急な仕事の変更がなければ、起きてキッチンでコーヒーを飲んで頭が冴えてくるまでの間、原稿とかメールの返信とかタブレット一つで済みそうな仕事をする。  起きたところから上条家当主、上条敦之になる彼をキスで起こしてもらった俺は寝ぼけながら眺める。  いつもそんな朝、なのに。 「おはよう、拓馬」  二つ、ちゃんと立派なベッドがあるのに、わざわざ二人でくっついて眠って、目を覚ましてすぐそこにあるお互いの寝ぼけた顔に笑ってる。  その笑顔を独り占めできるだけでもすごく幸せなことなのに。とても多忙なこの人を丸三日も独占できるなんて、世界中に妬まれるくらいに、すごく幸運なのに。  あーあぁ、今日で終わっちゃうなぁ、なんてことを、こっそり思いながら。 「あーぁ」 「敦之さん?」  びっくりした。  いつもスマートで隙のないかっこいい敦之さんのまるで子どもみたいな呟きに。  目を丸くして驚いていたら、俺の前髪を長い指でかき分けて、眺めながら目を細めて眩しそうに笑ってる。 「拓馬を独り占めしていられるのが終わってしまうなぁって」  それは、俺こそ、なのに。  俺こそ、今、そう思ってた。 「やっぱりどこかに閉じ込めておきたいな」  ここには俺と敦之さんしかいなくて、他に誰もいないけれど、いたら絶対に笑ってしまうようなことを言ってる。  俺なのに。  俺が、貴方とこのまま籠ってしまいたいって。俺だけが貴方を見つめていたいって。 「職場の人からも隠して」 「……」 「俺の中では彼はいまだに要注意人物だし」 「……」 「優しい拓馬はいつだって可愛い笑顔をよそにも向けてしまうし」 「……」 「この旅行中だって、すぐにニコニコして可愛い顔をするから、いつ誰にさらわれるかと」 「し、してませんっ」 「自覚がないのがまた……」  そこで溜め息つかれても。 「も、もぉ、敦之さん、何言ってるんですか」 「本心だよ」  今度は男の顔をする。熱が滲んだ眼差しで射抜くように見つめられて、ドキッとしてしまうんだ。普段が朗らかな人が見せる、その眼差しはとても特別なもので、そうたくさんの人が見られるものじゃないから。 「本当に閉じ込めていたいんだ」 「……ぁ」 「夢中なんだ」 「……ぁ」  ど、しよ。今、起きたばっかりなのに。そんなこと言われて、見つめられたら、俺、もう。 「あ!」 「は、はいっ」  びっくりして返事の声も釣られて大きくなってしまった。だって、敦之さんが大きな声を出すなんてとても珍しいから。 「浴衣と、もう一つしたいことがあった。おいで」 「え? あ、あのっ」  どこに? まだ、俺、何も着てない。昨日は一緒にシャワーを浴びて、そこでも……だったから、そのまま裸で寝ちゃったんだ。  敦之さんと素肌で眠るの、好きだし。  だから、先に浴衣を、もう昨日のせいで皺くちゃだけれど、それを――。 「拓馬」  戸惑う俺にかまうことなく軽々と敦之さんに抱え上げられてしまった。一枚、ベッドにかけられていた上掛けだけで覆われて、あとは何も身に着けてなくて、「わっ」なんて色気のない声を上げて、手足をバタつかせる。ここ、寝室で二階なのに、下ろしてくださいって言っても聞いてくれなくて。暴れると余計に重いだろうし、蹴ってしまったら大変だから、観念してじっと、しがみついた。 「本当は夜の予定だったんだけど……おいで。一緒に入ろう」 「……ぁ、あの」  手をそっと握ってくれる。裸だし、露天で外だし、恥ずかしいから、エスコートしてくれるその手につかまって、中へ足を浸けた。  温かくて、気持ち、ぃ。 「朝風呂」  まだ寝ぼけてる身体が「わぁ」って驚いて、それから起き始める。 「で、拓馬とイチャつく」 「! ぁっ」  座らせられたのは敦之さんの膝の上。背中を預けるように、敦之さんの胸に寄り掛かって、お湯を塗り込むように大きな手が肌を撫でてくれた。 「あっ……ン、敦之、さんっ」  朝から、なんて。  外で、お風呂で、なんて。 「ダメ……昨日、たくさんしました」 「そうだな」  言葉と裏腹に、優しい指先がするりと、脚の付け根まで滑り落ちて。 「だから、も、出な、い、あっ……ン」 「そう? 拓馬の身体は欲しそうだ」 「っ、ン、だって、あぁっ」  前を握られて、少しとろみのあるお湯の中で、柔く、強く、扱いてくれる。 「あ、うっ……ぁっ、あ」  そして期待してた胸をもう片方の手が撫でて。それからすぐに反応して、つんと勃ち上がった乳首を抓ってくれた。 「や、ぁ……あっ」  その、触り方すごく好き。とろけてしまう。 「あぁっ、ダメ……」 「拓馬」 「も、やっぱり、欲し、ぃ、です」 「うん。ありがとう」  素直に欲しいと言葉にしたら、とても嬉しそうにしてくれるのが、たまらなくて。奥が、昨日だってたくさんしてもらったのに、恋しくて切なくなる。 「あぁっ」  だから自分から身体をくねらせて、迎え入れた。 「拓馬……」 「あっ、あっ」 「中、柔らかくて、狭くて、気持ちいい」 「やぁっ、ン」  言われると余計に恋しくなった。 「あ、あ、あ」  自分から背後を貫く彼の前で背を向けて、気持ち良い奥を抉じ開けてくれるペニスに夢中になっている。 「あぁっ、あ、あ」  お湯がパシャパシャと音を立てて跳ねるくらいに。 「拓馬っ」 「あ、あ、あ、あっ」  派手な水音を立てて、敦之さんが貫いたまま俺の腰を掴んで立ち上がった。 「あぁっ、あ、激し、っ」  立ったまま、後ろから激しく攻め立てられて、立ってられなくて、檜風呂の淵に手を置いて腰を高く掲げた。犯してもらえるように、たくさん奥まで可愛がってもらえるように。  甘い声で啼きながら。  たくさん、たくさん。 「あ、先に、イっちゃう」 「いいよ。拓馬」 「ああ、あぁぁぁぁぁぁっ」  奥を抉じ開けられながら、前を優しく、でも強く扱かれて、その手の中でいかされた。 「っ」 「あっ」  そして、その締め付けに敦之さんが息を詰めた瞬間、引き抜かれて。 「っ、拓馬っ」 「ン……むっ」  放つ寸前の敦之さんのそれに口づけた。 「……ン」 「っ」 「ン、んっ……ん、く……ン」  口に注がれる熱にまた甘く奥でだけ達して。 「……ん、ぁ」  先端まで丁寧に唇で口づけ終わると、息を乱した敦之さんが足元にいる俺を見て笑いながら髪をかき上げた。 「まいったな」 「……?」 「やっぱり、囲おうかな」 「ン」  優しくて、甘い口づけ。 「拓馬」  俺のことを閉じ込めたいと呟く彼の指に歯を立てて、俺からも、甘くてやらしいキスをした。

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