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8-2 ※鷲尾×美波、フェラ

 鷲尾は早速シャワーを浴びようと荷物を置き、上着を脱いだ美波を、後ろから抱きすくめた。 「え!? 鷲尾さん!?」  意外な行動に美波の声は上擦った。驚いて首を捻り、鷲尾の表情を確かめようとする美波だが、鷲尾は抱き締める手に力を込めて制する。 「美波さん。俺だって男なんですよ。子供じゃあるまいし、休憩の為にホテルを使うだなんておかしいと思いませんか? 下心があって誘ったに決まってるじゃないですか」 「し、下心……って……?」 「俺の言っていることがわからない? 本当に?」 「…………」 「……誰でも良い訳じゃないですよ。俺ね、こんな人に言えない過去を持ったカスみたいな人生を送ってきて、ずっと寂しかったんです。けれど、そんな時、美波さんはずっと、俺の話を真摯に聞いてくれました。俺、不思議と美波さんの前では本当の自分を出せた……あなたは俺にとって、そういう人なんです」  鷲尾は平気でうそぶいた。あえて愛の言葉は言わずに曖昧な言い方をする。  けれども熱の上がった美波は、ドキドキと胸を高鳴らせるばかりで正常な判断ができない。 「ねえ、俺知ってるんですよ。美波さんも俺のこと、好きなんですよね?」 「すっ…………そ、それは……!」 「俺にはそう見えましたが。というか、誰がどう見ても俺に惚れてるよ、美波さん」 「う、うそぉ……」  白々しく煽れば、美波は恥ずかしそうに俯いてしまう。  だが、本当のところは惚れている訳がなかった。美波は、その童顔に似合わず意外としっかりとした男だ。  女性にしか興味もないし、第一、二人は過去の殺人事件の被害者遺族と、それを単独で勝手に捜査している刑事という関係である。  刑事が遺族に惚れるだなんて、ちゃんちゃらおかしい話だ。公私混同も甚だしい。仕事を舐めているとしか思えない。  美波が鷲尾に抱く気持ちは恋愛感情とは明らかに別物だ。ただ勝手に大切な人を亡くした鷲尾と自分の境遇を重ねて、同情しているだけに過ぎない。鷲尾の容姿が優れていることも要因の一つだろう。  しかしそんなことはどうだっていい。美波自身が揺れる感情を整理できていないのだから、鷲尾も自分の好きに利用してやるまでだ。 「俺にも……わ、わからないんです……。でも……その、鷲尾さんのことは……たぶん……特別だと……思って、ます」 「そうですか」  淡々と言いながら、なら、と続ける。 「お互いに特別に想う二人が同じ部屋ですることは、一つですよね」 「え……あ……そ、それって……」 「今ここで、俺とセックスしてみましょうよ」 「セッ……!? ぁ、あぁっ……そんなの……」 「って、いきなり言っても困りますよね。どうです? 一つ、テストをしてみませんか」  鷲尾は言いながら、美波の震える手を取って、股間を撫でさせるように動かした。 「これを直に触ってみて、もし生理的に嫌だったら、この気持ちは偽り。でもね、もしも心地が良いなんてことがあったら、その時は……」  耳元で熱い吐息を吹きかけながら、鷲尾は意地悪く言った。  美波はそれだけでぞくぞくと身震いした。性的興奮を覚えているのは明確だった。 「う、ぅ……あ……でも……こ、こんなこと、いけません……お、俺っ、こういうことは、本当に好きな人としか……」 「それを今から確かめてみるんじゃないですか」  美波の手のひらに股間を押し付けながら、緩く腰を動かしてみる。美波はアッと声を上げるだけで、瞬く間に顔を紅潮させた。  本当に望まないならば抵抗すればいいというのに、美波はすっかり熱に浮かされたように鷲尾の股間を見つめていた。ハァハァと息を荒げ、ゴクリと固唾を呑み込む。 「はぁ……はあぁ……わ、鷲尾さん……」 「ね。してみませんか、美波さん」  その一言に、美波は遂にコクッと頷いて折れた。  鷲尾はその場に美波を跪かせると、ゆっくりと、焦らすようにズボンをくつろげてペニスを取り出した。  自分以外の男の逸物をこんなにも間近で見たことはないのだ。美波が一瞬、困ったように鷲尾を見上げ、覚悟を決めたように、もう一度さらされているペニスに視線を戻す。  半勃ちのそれは少し皮が被っていて、男の大半と変わりない。しかしながら、使い込みの激しそうなくすんだ色づき。百戦錬磨ぶりを想像し、美波は嫉妬しているように口をへの字に曲げた。  二十八にもなって、美波は性経験は一度しかなかった。それも酔いの席で知り合った女で、いわゆる童貞食いのヤリ逃げだった。  だから正確には情事があったことすらおぼろげな記憶で、せっかくの大切な経験は本気で惚れた人としたかった、と口惜しい思いをしていた。  今日はこれから、鷲尾と深い関係性になるかもしれない──そう考えただけで美波のものは窮屈になった。 「え、えっと、それじゃあ……触り、ますね……」  小さな声で言って、美波は震える手でそっと鷲尾のペニスに触れた。  それだけで鷲尾のものはピクッと震え、美波も恐れおののいたように手を引っ込めて肩を揺らしてしまう。  だがその反応を、鷲尾が興奮しているからなのだと思うと、美波はなんだかもっと触りたくなって、今度はしっかりと手のひら全体を肉幹に巻きつけた。  まるで愛おしみさえするかのように包み込み、直に男の脈動を感じる。そうしていると、雨でびっしょり濡れてしまった身が燃え上がるかのような錯覚に陥った。  鷲尾の方も美波と同じく身体を濡らして冷やしている。  雨と蒸れと男性ホルモン臭が混ざり合ったすえた臭いがたち込めるというのに、美波はえずくどころか胸いっぱいに吸い込んでしまった。その臭いを嗅いでいると、理性がドロドロになって非日常に引きずり込まれていく。  美波は気付くと、必死に握り締めた手を上下に動かしていた。誰に教わった訳でもないのにスナップを利かせて目の前の男を気持ち良くさせようと扱いていく。 「こ、こうっ……ですか……?」 「うぉっ……そうそう、上手いじゃないですか美波さん」  一心不乱に手淫に耽る刑事の頑張りに、鷲尾も内心嬉しくなった。  なんて素直な犬なのだろう。主人に傅いて激しく尻尾を振り乱す様が見えるかのようだ。褒めてやりたい気持ちは本当で、ペットにするようにその頭を撫でる。  先走りも漏れ出してきて、美波が激しく扱くたびにネチャッネチャッと卑猥な音を鳴らすようにもなってきた。  美波は手をベトベトにしながら、不安げに鷲尾を見つめる。これでいいのか、といったような表情だ。 「ははは。すっかり集中してますね、美波さん。年下の男の、それも被害者遺族のチンポ扱いて楽しい? ねえ、どうなんですか? 教えてくださいよ、美波巡査」 「そ、そんな恥ずかしいこと……言わないで……」 「理不尽に殺されたあげく十四年も経って事件を掘り起こしたのがこんな変態刑事だなんて、父さんも母さんも浮かばれませんよね……あーあ、なんかつらくなってきたな。ほら、もっと心を込めて慰めてくださいよ」 「うっ、うぅぅ……ごめ、なさ……ごめんなさい……」  鷲尾のまったく心のこもっていない戯言にも、美波は生真面目に反応して謝罪する。 「俺、刑事の癖に……あなたのこと好きになっちゃって……こんな……ことまで……。あぁっ、すいません……」 「俺のを扱きながらあなたもこんなに興奮するだなんて……。あなたって、もしかしてマゾっ気があるんですか?」 「あぁ……っ」  図星を突かれた美波は、自分でも気付かない内に膨れてしまった股間を鷲尾の足先でなぞられ、甘いため息を吐いてしまった。  罵られ、謝罪の言葉を口にするたびに、美波は身体の最奥からジーンと痺れるような甘さが込み上げてきていた。被虐願望というやつだろうか。  昔から女王気質の姉にきつく叱責されてきたものの、こうして同性に奉仕を強いられているという状況を強く認識するにしても、例えようもない高揚があった。 「ねえ美波さん。俺のこと、どうしようもない人間だと思いますか?」 「え……」  美波もそこまで馬鹿じゃない。  心の底では鷲尾がただの哀れな人間ではないことに気付いているはずだ。だが。 「美波さんが悪いんですからね。俺がこんなになるのは、全部あなたのせいだ」 「俺の……せい……」  鷲尾にとって、自分は特別な存在という台詞が美波の脳髄を徐々に溶かしていく。 「う、うん……そうですよね……俺がこんなになっちゃうのも、きっと……鷲尾さんのせいですよ。俺、鷲尾さんが好きだから……だからっ、変な気分になっちゃっても、仕方ないんですよね……」  都合の良い言い訳をしながら、鷲尾の行為と自身の淫乱ぶりを正当化していく美波。 「俺……本当にこんな変態さんみたいなことしてるのに、全然嫌じゃない……むしろ……はあぁっ、もっと……」 「……ふふ、どうしました美波さん。そろそろ我慢できなくなってきましたか?」 「んっ、うん……鷲尾さん……あぁ、どうしよう、俺っ……あなたが好きです……愛してます……」 「なら、どうしてほしいかちゃんと言って?」 「……抱いて……ください……っ」  陥落宣言を聞き、鷲尾は褒美とばかりに美波の震える唇を奪った。

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