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8-3 ※鷲尾×美波、初めて
二人はそのままベッドに倒れ込んだ。雨に打たれた身では服は脱がしづらかったが、それすら楽しむように一枚一枚衣服を剥いでいく。
先に鷲尾が服を全て脱ぎ捨て、美波もあとは下着を残すのみとなった時、美波はなんだか複雑な顔でいた。
「鷲尾さん……すごく手慣れてる気がする……」
「軽蔑しますか?」
「いえっ、まさか! そんなことは、ないですけど……」
ここまで手慣れているということは、多かれ少なかれ、鷲尾にそういった経験があることを意味しており、美波はその相手に嫉妬しないと言えば嘘になる。
美波が言葉を渋ったことで、鷲尾は美波の下着を脱がす手を止めた。
「……俺はどうせ汚れていますから。あなたが気になるなら、やっぱりやめましょうか」
「あ……」
鷲尾は普段通りの穏やかな口調で言う。だが、顔はそうは言っていなかった。
既に人生の全てを諦めているかのような表情を演じ、美波の胸をキュウッと締め付ける。
美波は思わず、離れようとする鷲尾の手を両手で強く握った。
「ち、違うんです! ごめんなさい! ただ、俺が……その、初めてだから、緊張してるだけで……鷲尾さんは汚くなんかないです! お願いします、やめないでください! 最後までしてください……!」
美波の剣幕に圧倒された風に、鷲尾は目をぱちくりとさせた。そして、くすりと笑う。
「最後まで……ですか。ずるいですよ、美波さん。そう強く求められたのにやめたら、俺、すごく格好悪いじゃないですか」
さらりとものすごいことを口走った美波は、自分で自分が恥ずかしくなった。
決して性にオープンだった訳ではない。むしろ、過去の経験があるからこそ堅すぎるといってもいい貞操観念を持っていたはずだ。まさかここまで淫らな本質が眠っていたのだろうか。
だがそれも、鷲尾が相手だから、そうなってしまうのかもしれない……そんな風に解釈したのだった。
全裸をさらした美波の肌はもう全身が桜色に染まっている。想い人に生まれたままの身体を見られるというだけで恥ずかしくてたまらないのだ。
そんな生娘のような美波をもっと辱めてやろうと、鷲尾はぐいっと脚を開かせてその狭間に顔を寄せる。
「ひ、ひぃッ……! ちょ、ま、いいい、いきなりそんなところっ……!?」
「舐めて差し上げますよ」
「舐め……!?」
「初めてでも痛くないように、ね。安心してください、丁寧にやりますから」
「うぁ、あぁ……でも俺、やっぱり恥ずかしすぎて、どうしたらいいのかわかんないです……」
「それなら、目を瞑っていてもいいですよ」
言いながら内股にちゅっと軽く口付けてみせると、美波は慌てて両手で顔を覆った。あろうことか不浄の穴を愛撫されると知って耳まで真っ赤になっている。
鷲尾は鼻で笑って、長く突き出した舌でもって美波の慎ましやかに息をするアナルを舐めあげた。
「ひはぁっ……!」
他人に触れさせたこともない場所をいきなり舐められて、鋭い悲鳴を上げる美波。
鷲尾は構わずにむしゃぶりついていく。丹念に唾液を塗り込め、硬くした舌先で突きほじるように転がすと、キュッと皺の寄った窄まりがだんだんと綻びを見せていく。
「うっ、うぅッ……」
鷲尾を見ないようにしているせいで美波は余計に男にクンニされている現実を意識してしまう。
ぴちゃぴちゃと犬が水を飲んでいるかのような卑猥な音が響き渡り、あまりの羞恥に顔から火が出そうだ。
思わず身をよじってしまうが、太ももをがっちりと鷲尾に掴まれていて逃げることはできない。
それよりも美波を困惑させたのは、舐めあげられるたびに腰の辺りから溶けそうになるような感覚だった。
「気持ち良さそうですね、美波さん。初めてのアナル舐めでもう感じているんですね」
「だってっ……だってこんなのぉっ……ずるいっ……!」
「いいんですよ。俺の前ではたっぷり乱れてください」
もう十分だ。美波の興奮が最大限まで高まっていることを悟ると、鷲尾は美波のアナルに勃起を押し付ける。
鷲尾ももう挿入したくてたまらなかった。
「入れますからね」
そのまま体重を掛けていく。
「ぁ、ぁああ……ぐぅ……」
挿入は、美波が想像していたような甘いものではなかった。
男女とは勝手が違うのだ、狭い肉穴に規格外のペニスが潜り込む痛みと息苦しさに、身体は悲鳴を上げている。それでも何故か、美波の心は満たされていく。
どこか遠く、寂しげだった彼を、初めてこんなにも近くに感じられたことが、美波にとっては何よりも嬉しかった。
ゆっくりと、美波の様子を伺いながら腰を進める鷲尾の動きはとても慎重だった。彼もつらいだろうに、こんな時でも気遣いを忘れない鷲尾に、美波は目頭が熱くなる。
やがて臀部にふわりとした陰毛の感触を感じ、美波は鷲尾と一つになったことを理解した。
「っは……わ、しお、さん……キスして……」
思わず手を伸ばして求めた愛撫にも、鷲尾は快く応じた。
最初は触れるだけ、軽くついばむようなキス。だんだんと力が抜けて半開きになった唇の間に、鷲尾は舌を滑り込ませていく。
「んっ、んん……んはぁッ……」
鷲尾の舌を受け入れ、自身もぎこちない動きで絡ませてくる美波。
ニッと笑った際に特徴的な犬歯を舌でなぞり、口腔内をねっとり舐め回していく。濃厚なディープキスを交わし終えると、互いの口元を濃い銀色の糸が伝った。
「もう少し……このままでいましょうね……」
鷲尾は子供に言って聞かせるような柔らかな口調で、美波の頬を撫でる。
こんなにも優しい彼に、熱い肉棒でみっしりと体内を貫き犯されていると考えただけで、美波は興奮に震えた。涙が溢れ出しては手で拭い、浅い呼吸を繰り返す。
アナル処女を失ったばかりの健気な美波を抱き締めながら、鷲尾はこれは上等な淫乱犬になるな──と内心ごちた。
もどかしさを我慢し、まだ腰を動かすことなく溺れるようなキスの嵐を美波の肌に落としていく。美波はそのたびに甘い声を漏らしながらピク、ピクッと震えた。
美波がその気になればなるほど、鷲尾を受け入れている肉穴も準備が整うというものだ。美波の震えに合わせて絡みついてくるような動きを見せ始めた。
今必要なのは、美波の心をより深く陶酔させることだ。苦痛を与える行為はなるべく避けるつもりだった。
「ん、く、ふはぁっ……も、もう、動いて……」
「痛くないですか?」
「はい……それ以上に、身体熱くて……焦ったくて……はぁうっ」
美波が大丈夫だと言うならそれに越したことはない。鷲尾はそのままゆっくり腰を引き、突き込むことを繰り返し始める。
「んっ、ぐぅっ、くぅっ……! はっ、かはぁっ」
まだ苦しそうに喘ぎはするが、すぐに馴染んでくるだろう。
事実、ピストン運動を受ける美波は、眉間に皺を寄せているが、本当に痛そうな訳ではない。むしろ、襲いくる何かを我慢しているような顔だ。
「はっ……あ、あぁっ……ど、しよ、声、勝手に、ぃっ……あうぐうぅっ!」
「ああ……すごく気持ち良さそう」
そう客観的に言ってやると、美波は今感じているものが快感なのだと自覚したらしい。幼子みたいにくしゃっと困った表情を作った。
美波が手を持て余していたものだから、鷲尾は自然とその手を握っていた。
それも、返ってきたのはがっちりと絡み合う恋人繋ぎ。このまま鷲尾の傍にいたい、肌の温もりを感じたい、そんな仕草だった。
手を繋いだまま腰を振る。そのたびに美波は襲い来る快感の波に口を引き結び、しかしすぐに耐えられず嬌声を上げることを繰り返した。
「ひッ、あぁぁっ……! くるっ、なんか、お腹の奥からくるっ……!」
「それをイクって言うんですよ」
「イク……俺、鷲尾さんとエッチしてイク……ぁ……」
オウム返しに呟きながら、恍惚としている。
童貞の時は、射精にすら漕ぎ付かなかっただろう。それが今、形は違えど満足しそうになっている。
それならばここはしっかりと責めてやるべきだ。喘ぎが小刻みになってきた美波の内側粘膜を、反った亀頭でゴリゴリと擦った。
最初から中イキするとは思っていない。ペニスも同じように扱いてやりながら、美波の快楽の火を絶えさせないようにする。
「い、く……鷲尾さっ、それだめ、イクぅっ……!」
最後はいやいやをするように首を振り、ピンと全身が突っ張ると、美波はぎゅっと目を閉じて吐精していた。
肉穴がギリギリと鷲尾のペニスを引き絞る動きを見せ、鷲尾もそれが終わると美波の中から引き抜いて射精を済ませる。
全力疾走した直後のように息を乱す美波は、もう瞳がとろんと溶けていた。
「鷲尾さん」
「うん?」
事が終わってからの美波は、すっかり上機嫌だった。甘えるように鷲尾の背に抱き付いてくる。
「お、俺達って、あの……も、もう、恋人、ですよねっ? うはぁっ、改めて言うとやっぱり恥ずかしい」
そう楽しそうに、屈託のない笑顔で言った。美波としては、肉体関係を結んでしまった以上は、例えそれが一度であっても伴侶のような関係になりたいと思っている。
過去の女とだって、逃げられるような真似をしなければ責任を感じて結婚を意識しただろう。
──完全な勘違いだ。
そうは言えるわけもなく、鷲尾はにっこりと笑って美波を抱き締め返した。
好きな時に呼び出せる肉便器を手に入れたような気でいたが、これは思ったよりも面倒なことになるかもしれない。
しばらくはじっくりと彼の身体を楽しむのも良いと思っていたが──優しく笑いかけながらも、鷲尾の目には既に、獲物を切り捨てる鋭い眼光を映していた。
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