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13-2 ※鷲尾×真鍋、監禁、飲食拷問、嘔吐
「て、て、テメェは……っ」
「はい、俺特製のハンバーグセット、それも豪華版の出来上がりです。冷めないうちにどうぞ」
「だ、だからってなんで俺のチン毛も入ってんだよっ!?」
「いやぁ、だって真鍋さんの方が男らしい立派な剛毛ですし、さぞかし食べ応えがあるだろうなぁと思いまして」
「いらねぇ真似ばかりしやがって……誰が食うかよこんなモン! 人間が食うものじゃねぇだろうがッ!」
「…………真鍋さんって、人間だったんだ」
今まで真鍋が聞いたこともない、本気でそう思っている声音と物を見るかのような顔。
それには、さすがの真鍋も化け物を目にしたかのように呼吸を乱した。鷲尾に逆らえば、確実に殺される。それも蟻を踏むように、何の躊躇も良心もなく。
「……く、食う……食えばいいんだろ……」
「ありがたくいただきます、でしょう?」
「ッ……ありが、たく……いただきますッ……う、うぅっ」
こんなものは人の食べるものではない、そんなこと鷲尾自身もわかっている。
だがそれでこそ拷問なのだ。度重なる口撃と暴力に怯え、いずれは屈してしまう人間のどれほど弱く愉快なことか。
鷲尾は機嫌を良くし、特別に食べさせてあげますね、とハンバーグを切った。
「はい真鍋さん。あーん」
鷲尾は笑顔を崩さないまま、フォークに刺さったハンバーグを真鍋の口元に持っていく。
「ああ、動くと危ないですよ。ナイフとフォークも、凶器になりかねませんから……」
真鍋はしばしハンバーグを睨みつけ……だが先の脅しが効いたのか、ザーメンや陰毛がかかっているとはいえ空腹には耐えきれなかったのか、わずかに口を開いた。
鷲尾はその隙間にフォークを押し込む。真鍋の前歯にフォークの背があたり、ガチッと耳障りな金属音がした。
「ううぅ……げふっ……おぇっ……!」
ハンバーグが舌に乗った瞬間、真鍋は生理的な吐き気に顔を歪めた。
「よく味わって食べてくださいね」
そう言われても、無理なものは無理だ。ほとんど噛まずに飲み込むものの──。
「うごぉっ……がっ……げええぇぇぇっ!!」
真鍋は体内に入れたばかりの飯を、全て吐き出してしまった。固形物のため、食道を通過する際がかなり苦痛のようだ。
「ああ……もったいない」
「げほっ、ごは、げふっ! かはっ! おえええぇっ……!!」
全て吐き終えたのを確認すると、鷲尾は真鍋の髪を鷲掴みにした。
「他人がせっかく作ってやったものを吐くなんて……あなた、いったいどういう了見なんですか? 失礼だとは思わないんですか? ま、あなたのことですから、どうせ女の手作り料理もまずければ素直に言葉に出してしまうのでしょうが……」
鷲尾の語気が低くなった。
「俺をなぁ……そこらの女と一緒にするな!! うまいだろう? 特別なトッピングまでしてやったんだから、うまいだろうが!! この程度すら食えないなら、俺はわざわざテメェに何か食わせてやる必要はねぇよなぁ!? せいぜいこの部屋から一歩も出られず、誰にも発見されずに野垂れ死ねクソオヤジ!!」
激昂し、吐瀉物に真鍋の顔面を擦り付ける。
「ぐおぉっ……! わ、かった、わかったから、やめ……」
「なら食え」
「ゲホッ、オエェ……、な、に、を……」
「そのゲロもだよ。全部って言っただろうが。それから、赤の他人に食事だけでなく身の回りの世話までしてやっている俺に謝れ」
自らこの拷問を課しているにも関わらず、鷲尾はあくまで他人事のように言う。
真鍋がちらりと鷲尾の瞳を見上げる。
真鍋を見つめるその双眸は、あまりにも人間としては気薄だった。
良心という光が、全く灯っていない。真鍋でさえも恐怖を覚える、極めて反社会性の高い類いのそれだった。
「う、ぐ……わかっ、た……す、すまなかった……」
「はぁ? 俺は謝罪しろって言いましたよね。たったそれだけなんですか?」
「……ッ……く……世話、もしてもらって……感謝してる……ほ、本当に、俺が悪かった……グウゥ……れろ……」
真鍋は震える舌で自身の吐瀉物を舐め啜り始めた。
「……うん、そうそう、偉いですね真鍋さん。その調子。全部終わったらまた食べさせてあげますからね」
死にたくなるような行為を受けているのに、まだ死にたくはないのか。そう鷲尾は特に感慨もなく思った。
「オ゛ッ……オェ……グホォッ……ハァッ……」
真鍋が自身の粗相を悔し涙を浮かばせながら舐め取ってもなお、一向に減らない食事。
この際、スープを先に無理やり体内に入れるべきか? いやしかし、肉であるハンバーグはゆっくり噛んでからじゃなければ、とてもじゃないが先ほどみたいに精液の味と臭いに反射的に吐いてしまうことは明白だ。
シャキシャキの新鮮サラダも、まるでふりかけのように陰毛が乗っている白米も、やっぱりそれなりに噛み砕かなければ……。
それに何より、生命線の水が鷲尾の小便という最悪のものに置き換わっている。
今となってはどんなに安くまずい定食屋の食事すら口惜しい。
「ハンバーグ……さっき一口食ったから、スープ……くれ」
「ああ。それは良いですね。いったん喉を潤しましょうか」
鷲尾は、今度はスプーンでオニオンスープをすくった。やはりそこにもドロリとした精液と陰毛が入っている。
だが、もはや背に腹は変えられない。
それでも腹が膨れればどうにか生きられると、真鍋はスプーンの中身のスープを喉を鳴らして飲み干した。
「どうです……? また吐いても良いんですよ?」
鷲尾はわざと優しく真鍋の耳元で囁いてやる。
真鍋は首を横に振った。瞼をきつく閉じ、顔を目一杯歪めて吐き気と戦っている。言われなくとも、吐かなくなるまでやめさせてもらえないとわかっているようだ。
やがて真鍋は意を決したように鼻から一息吸って、口に残ったものを全て飲み込んだ。
「そんなに俺の料理が気に入ってくれたんですね。良かった」
かくいう鷲尾は、すっかり機嫌を取り戻したかのようにルンルン気分でいる。
「がはッ、はぁ……ハアァァッ……」
最後の一口を食べ終え、真鍋はきちんと食べたと言わんばかりに大きく口を開け、舌を突き出した。どうにか吐くことなく完食できたのだ。
歯には彼の陰毛が挟まっていたが、それはご愛嬌だろう。わざと教えない方が良いかもしれない。
鷲尾が一口ずつ猛禽類のような鋭い眼で次はないと言うように睨み、しかし喉を通ると一転して優しい笑みを見せたこともかなり影響しているだろうが。
さすがの真鍋も食事すら拷問と化し、涙と鼻水を溢れさせてずいぶんしおらしくなっていた。
「よくできました、真鍋さん。おかわりもありますよ? 真鍋さんはよく食べそうだと思ったので、たくさん作ったんです。このくらいでは足りないんじゃないですか?」
「ヒィッ……!? も、もう、いい……」
「そう遠慮せずに」
「いらねぇって、言ってんだろうが!!」
少しだけ細まった鷲尾の眼を見て、真鍋はなにか恐ろしい予想でもしたのだろう。
「ぁ……もう、腹一杯だから……いいんだ……くっ……う、うまかったよ……ご馳走さん……でした」
「そうですか。じゃあ、残りは俺がいただきますね」
台所へ向かう鷲尾を見て、真鍋はようやく少し安心したようだった。
真鍋とは全く違い、何の異物も混入していない温かい手料理を食べる鷲尾はそうそう、と思い出したように呟く。
「あなたの母親、今何してるか知ってます?」
「え……?」
明らかに所在を知っている風な鷲尾の口ぶりに、真鍋は強がることを忘れて聞いた。
「調べたら、数年前に死んでいましたね。あなたを置いて出て行った男とは一応は結婚したらしいですがすぐに破局、他に子供もなし。まあ一度覚えてしまっては抜け出せなかったのでしょうが、熟女向けの風俗を転々として、また年下の男に貢いでは裏切られ……の繰り返しで身体を壊し、最期は孤独死。死後数ヶ月経ってから異臭騒ぎで発見に至ったので、ご遺体は相当酷いものだったそうです」
「嘘だ……。また……そんな嘘で俺をっ」
「こんなことで嘘を付いてどうするんです。まあ、元はと言えばあなたを育児放棄していた親なんです。自業自得じゃないですか」
「お袋が……死んでた……? お袋、が……」
真鍋は絶望的なため息と共に、こうべを垂れた。
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