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15-2 ※鷲尾×晃、フェラ、イラマ

 鷲尾が本当に慰み者にしようとしているという現実が晃に重くのしかかる。奴隷といっても言葉だけで、想像だなんてできなかった。  いくら鷲尾を親友と思っていたからって、恋仲──それも性の道具になるなどすらありえない話だ。 「なんで……こんな……。怜仁くん……どうして、こんなことになっちゃったの……」 「何故? そんなの……至極簡単なことですよ、篠宮さん。お前の父親が悪いんだ」  普段より低く絞り出た声音に、晃は視線を落とした。鷲尾のペニスにも、父が殺人犯だなんてことにも、今の現実全てに目を向けたくない。 「う……うぅ……うぅぅっ」  いつまでも涙を流している晃には怒りを通り越して呆れさえ感じる。ずっと信用してきた父のせいで、親友だと思っていた男に性的関係を迫られて。それでも自分は愛する妻がいる。  末代まで呪ってやる、いや自ら根絶やしにしてやろうという過激な思想を持つ鷲尾からすれば、晃の人生は不幸でたまらない。 「あなたがやらないのなら、奥様にでもやってもらおうかな。あなたと違って賢い方ですから、篠宮家に嫁いだ以上は話はわかると思います」 「や……やめて! お願いだからそれだけは……」  晃が脚に縋ってきた。どう考えても彼の中では家族が大事なのだ。 「なら早くやること。……やれよ」  最後の低い語調がかなり恐怖だったらしく、晃は身を震わせながら膝立ちになった。萎えているそれになんとか顔を寄せ、思い切って片手で握る。 「ヒッ……ぁ……うぅ」  それだけでも晃にとっては、異次元の恥辱だった。  社内の男子トイレで一緒になって、小学生のような下ネタでふざけたことはある。その時の鷲尾は不機嫌そうに、でも付き合ってくれた。友達だからそうしてくれているのだと思っていた。  だがこれは、脅迫を用いて性行為を強要するという、明らかな犯罪だ。しかし、今の晃には目の前のことを処理するのが精一杯で、混乱しきっている。  どうにかゆっくり扱き始めたはいいが、やけに重く感じさせ、あまり効率は良くない。機械の方がマシなくらいだ。 「あー。やる気ないなら手コキはもういいからしゃぶって」 「っ……!」  そうは言われても、と晃は生唾を呑む。他人の性器を触るだけでも抵抗があるのに、それを口内に含むなど。  だが、晃に反抗は許されていない。  痺れを切らした鷲尾がぴとぴと顔面に押し付けてくる嫌悪感もあり、顔を至近距離に寄せていって、勃っていればまだマシだったのが、くったりしたミミズのようなペニスを根元を握りながら舌全体で這わせていく。 「そうそう。その動きをもう少し激しくして、口に入れたら頬を窄めて頭を前後させるんです。わかった?」 「んっ……んふ……わか、っひゃ……ぢゅっ、れるる……」  同じ男とて、悦ぶポイントなんて晃にはわからないし、こんな状況では的確に責めることはできない。  ひとまず、えずきながらもなりふり構わずに舐め回して、唾液が溜まってくると、先端をぱくりと咥えた。そのまま、ゆっくりフェラを試みていく。  鷲尾のものは先ほどよりも反応を示していて、完全に勃起した訳ではないが、芯を持つようにはなっていた。 「んッ……! んんぅ……っ! ゲフッ、んごぶっ、じゅぽっ……っぷは、こ、こんな感じ……?」 「うん。そう。俺が射精するまで、せいぜい頑張って」  かくいう鷲尾は実に楽観的な立場にいる。ポン、と晃の頭を軽く叩いて、とてもリラックスした状態で下半身を解放している。唾液と我慢汁まみれの晃の口元など、眼中にない。 「っは……はあぁ……れろっ、れるる……じゅっ! ぬぷっ! んんぅっ、んはぁっ」  本格的なフェラチオに血が集まり始めたものは、立派に己の存在を主張して晃の口内や喉を、何より精神を犯す。  篠宮輝明が君臨する社内で、その愛息子に奉仕させている……。  そう考えただけで、自分らしくもなく下半身がぞくりと震える。今まであまり味わったことのない背徳感のような興奮があった。 「んっ……怜仁くん、気持ち良い、のかい……?」  鷲尾の震えを愛撫によるものだと思ったのか、晃は少しホッとしたような顔をした。  気持ち良い、か。そうだな。そうかもしれない。  忌むべき相手に口淫させている事実が、たまらない快感を呼び起こす。ただの生理的な現象とはまるで違う……俺は今、雄の本能として感じている。  晃の舌が、最も敏感な部分を掠めた瞬間、鷲尾の意志とは関係なく声が漏れた。 「うっ……!? く……っ」  全身に電流が通ったかのような、凄まじい快感。  ああ、これは何なのだ。こんな感覚は知らない。生まれて初めてだ。  もっとこの快楽を味わいたい。もっともっと深く咥え込んでほしい。喉の奥で受け止めてほしい。 「むぐううぅっ!?」  気付けば鷲尾は、晃の頭を持て余していた両脚でプロレス技のようにがっちりと押さえ込んだ。  その衝撃で晃の喉の奥に浸入した鷲尾のペニスは、先端が口蓋垂に当たり、温かい粘膜が全体を覆い、得も言われぬ気持ち良さだ。  それに何より、晃が自分の下でバタバタと手足を動かして必死にもがいている。苦しいのだ。俺はこんなに気持ち良いのに、こいつは苦しくてたまらないんだ。  ──俺は篠宮晃を犯してるんだ──。 「むごぉぉっ、んぐっ、げほっ……うぅぅーっ!!」  あまりの苦痛にか、晃の目に浮かんでいた涙が、頬を伝ってこぼれ落ちた。  この状態じゃ、歯を立てるどころか、息をすることも難しいんだろう。酸素が足りず目が虚ろになってきている。  いったんペニスを抜いてやり、晃に呼吸する時間をくれてやる。  荒い息を吐きながら、晃が叱られた子供のように恐る恐る鷲尾を見上げた。 「ご、ごめ……僕、下手だった……? 何か機嫌に障るようなことした……? うぅっ、怜仁く……っ、そんな、乱暴にしなくてもっ……ゲホッ、ゴホォッ」 「いいえ。むしろ逆ですよ。今の俺、あなたがどんな言動をしようが許せてしまいそうなほど珍しく機嫌が良くてね。だからこういう時は、乱暴にするのが一番なんです。こうやって、ねぇ!」  晃のペースに合わせることなく、再びペニスを突き入れた。今度はより口内を抉るように、喉を犯すように、両手でも頭を掴んでがんじがらめにした。  掴んだ頭を前後に出し入れさせる強制的なイラマチオはとてつもない支配欲が湧き、下半身が熱く、硬く、大きくなっていくのがわかる。  呼吸が乱れる。抑えられない。まるで自分じゃないみたいだ。 「はぁっ……はぁっ……篠宮……篠宮っ……!!」  鷲尾はうわごとのように呼んでいた。  この世で最も憎い名を。  これから根こそぎ絶やす名を。  やがて背筋にぞくぞくとした感覚が駆け抜け、目の前が真っ白になった刹那、鷲尾はそのまま晃の口の中で果てていた。  射精後の疲労感が襲ってくる中、晃の頭を押さえ付けたまま一向に力を弱めない鷲尾に、晃は次はどうしたら良いのかわからないといった顔で見つめる。 「……飲んで」  短い命令。しかし、晃は躊躇した。 「飲め! 篠宮晃! 飲むんだ!」  鷲尾の叱責に、晃はびくりと肩を震わせた。そして観念したように、ちびちびと回数を分けて嚥下していった。  屈辱のフェラチオを終えた晃は、声を上げて泣き崩れていた。今はきっと様々な感情が入り乱れていることだろう。  本当に幼児みたいだ。母の死からまるで成長していないのではないかという晃の姿に、鷲尾は冷笑する。  しかし晃が、どこか鷲尾を哀れむような表情をしていたのが、鷲尾には少し引っかかった。

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