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17-1 ※鷲尾×晃、フェラ
出社するや否や、鷲尾のデスクにはとても仕事用には思えないデザインの便箋が置いてあった。差出人は無記入。
けれど、こんな真似をする人間は一人しか心当たりがなかった。一応、中身を確かめてみるが……やはりあまりにもお粗末だった。
『怜仁くんが本当は優しい人だってこと、僕は知ってる。
パパや僕を赦さなくていい。僕だけなら何をされても構わない。
でも復讐なんて、君が誰より愛するご両親が報われないじゃないか。
今こうして僕達親子を恨む間にも、君の身体が、心が、未来が傷付いているのだと思うと、僕は悲しい。
だからどうか思い直してくれますように。
大丈夫、まだ間に合うよ。
僕の世界一大切な親友へ、心を込めて。』
そんな正義感たっぷりの文章がしたためられており、呆れる間もなくシュレッダーにかけた。
この程度の綺麗事を並べれば改心するとでも思ったのだろうか。どこまでおめでたい男なのだ。
世界一大切な親友は、脅迫などしない。肉体関係を強要しない。さらにそれを素直に受け入れる側も馬鹿としか言いようがない。
社員もだいぶ揃う頃、彼にしては早く顔を見せた晃。朝早く来て、鉢合わせしないようにしていたのだろう。鷲尾を観察するような晃はどう見てもよそよそしい。
「篠宮さん。大事な手紙のお返事、デスクの引き出しにしまっておきましたから」
彼だけに聞こえるよう耳元で囁く。読んでくれた、と伝わっただけ、晃は顔を明るくさせた。
けれども、晃が引き出しを開けた中には、シュレッダーで切り裂いた残骸が詰め込んであった。それが鷲尾の何よりの“返事”だ。
晃は何が起こったかわからないかのように、半ば呆然としていた。
「ちょっと、何ですかそのゴミ? 仕事に関係のないものはきちんと捨てておいてくださいよ」
「ゴ、ミ……」
今度は課内にも聞こえるよう叱責するかのような声音で言う。晃の仕事ぶりは社員達もよく知っているし、日常茶飯事だ。
明らかにショックを受けて俯いている晃の表情は曇り、今にも泣きそうだ。
いい年をこいてピーピーと泣くのか? それはまた滑稽すぎる。まだパパの脛をかじって生きているお坊ちゃまには似合いの姿だ。
朝礼が終わり、メールチェックと取引先への電話を交わした鷲尾は「課長、外に出て来ます」と外出準備をしながら声を掛けた。
「……あの、怜仁くん」
「篠宮さんはついて来なくて平気ですよ。……というか……この際だからはっきり申し上げますが、取引先もあなたは不必要とのことで、俺をご指名してくださいましてね。今までは親友だから目を瞑っていたけど……またあなたが同行していると、最悪の場合商談自体が飛びかねない。それはあなたや社長、会社の損失にもなり得る」
「そんな……でも……話だけでも!」
「公私混同もいい加減にしてください……! 俺にだって……庇いきれない部分はあるんですよ」
だなんて、一方的に晃を使えない無能社員の印象をさらに増幅させる為になにかトラブルを抱えている友人同士を演じ、立ち去る。
けれど、晃が鷲尾が想像する以上の無能であることは誤算であった。
「待って! 怜仁くん待ってってば!」
あろうことか仕事を放っぽり出して追いかけて来たのだ。
早足で歩きながら鷲尾は舌打ちをした。仕方なく晃をトイレに連れ込む。
「なんで……。どうして、僕の手紙、読んでくれたんだよね……?」
「ああ。あの猿が考えたような文章」
「読んだ結果があれなんて、酷すぎるよ!」
「小学生が書いたテンプレの読書感想文の方がマシってくらいでしたのでね。ゴミとの違いがわからなかったんです」
「君はあれを読んで……本当に何も……思わないのかい……? 僕は君の為を思って……!」
「調子に乗るなよ篠宮晃ァッ……!!」
ドスの利いた声で壁を叩かれ、晃は殴られるのかと思ったのか小さく「ヒッ」と悲鳴を漏らして竦み上がった。
「そもそも俺のターゲットはお前じゃないってことを忘れるな」
「僕……じゃ……ない……」
「お前の父親は俺から両親を奪った殺人鬼……お前と、お前の妻、そして親戚一同、みんなみんな殺人鬼の家族。ああ……もし子供ができたりなんかしたら、そいつは生まれついての殺人鬼の血が流れることになるなぁ。可哀想になぁ~」
白々しく言うと、晃も大事な家族を盾にされていることを改めて感じたのか、それも愛する妻と近い将来できるかもしれない子供については、過敏だった。
彼女達まで「犯罪者の家族」かもしれないという苦悩にさらしてしまうのは、さすがの晃でも一人の人間として良心が許さないだろう。
父親に真意を確かめることは未だに怖く、鷲尾の話だけを全面的に信じていた。
「社長の罪を黙ってやっている代わりに俺も良い思いをしてんだよ。わかるか? ええ? このド低能の脳味噌でも理解できるように説明してやろうか? ……テメェが大人しくしていれば誰にも手を出さない」
「ほ……本当、に……?」
「それとも今日みたいに余計な真似して、美鈴を寝取られたいか?」
「なっ……。なんてこと言うんだ! 彼女は僕の奥さんなのに!」
「俺は可能性の話をしてんだよ。あと、口の利き方には気を付けろ」
「ぁ……う、うぅ……ごめん、なさい……」
「わかったならよろしい。……しかし、ここまでしつこいと、俺もやる気なくすな。今の俺は、社内にとってお前より有意義な存在なのに」
打って変わって丁寧な声音で横柄な言葉を紡ぐ鷲尾を、晃はもう別の人種のように見ることしかできない。
「……僕はどうすればいいの」
「お? 俺の顔色を伺えるようになっただけ偉いな。それじゃあ……そうだ、今ここでフェラしてくださいよ」
晃の言葉を待つ暇を与えず、片腕を取って個室に入ると鍵をかける。晃の肩を押してその場に跪かせ、鷲尾は悠長に便座に座る。
「なっ……ここっ……社内だよ」
「もう一度ヤってますよ? そのくらい、今さら気にしてどうするんです」
何の躊躇いもなく、鷲尾はジッパーを下げてペニスを取り出した。以前と同じく、半勃ちならよっぽど良い方で、くったり萎えている。
「……っ。ぼ、僕がここで、フェラチオ……したら、良いんだね」
「だからそう言ってるじゃないですか。ほら」
晃の髪を鷲掴みにして、ペニスに近付ける。晃は観念した様子で、鼻で深く息を吸うと、あむっと男の塊を最初から咥えてきた。
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