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18-2 ※鷲尾×美波、甘々

 それをわからないほど美波も鈍くはないので、こうして直球すぎるくらいに聞いてきた訳だ。 「うん……悩み事があって」 「悩み事……? 仕事のこととか?」 「まあそういうのもありますが、プライベートでちょっと……ね……」 「なるほど……。あ、俺で良かったら話くらいは聞けますけど……」  無難な対応に、鷲尾は珍しく甘えるように美波の背を抱きすくめてみせた。 「なら、慰めてくれますか?」 「え」 「方法は……まあ、あなたに任せますけど」  ギュッ、と美波を抱く腕に力を込める。瞬く間に美波の頬が紅潮した。相変わらずのうぶな反応だ。  けれど、なかなかこちらを向いてくれない。正攻法が駄目なら、こうだ。脇腹を指先でそろりと撫でる。 「ちょっと、鷲尾さん、くすぐったい、はひゃ、ひゃひゃ!」 「…………」 「なっ、なんで、何も言ってくれないの」 「あまり大声を出すと、隣人に聞こえるかもしれない。……ま、あなたっていつもあの時の声……大きいから。とっくにばれてるかもしれませんが」 「~~ッ!!」  少しムッとした美波が肘で小突いてきた。  痛くはないが、自宅という安心感や、鷲尾と過ごす時間に慣れてきているせいもあるのか、やや立場が変わりつつある。  彼は“そういうプレイ”になると、マゾに徹するのだが。  昔から知っている幼なじみ、または年の近い兄のような……そんな気楽さが出てきていた。 「ね。たまには甘えさせて」 「鷲尾さん……。あーもうっ、ほんっと、今日は調子狂うなぁ」  美波は照れながら鼻を掻く。年下の恋人だと思い込んでいる男に頼られて、とても嬉しそうだ。やっとこちらを向いてくれた。  小柄な彼が上目遣いで見つめてくる。 「ん」  まずは頬にキス。そこじゃないだろう、と表情で語る。  要求はわかっているものの、美波はもじもじしてしまう。  彼にも理性の境界線というものは存在していて、そのスイッチが入らなければ、なかなか淫乱具合は引き出せない。 「んっ……んん!」  えいやっと今度は唇にしっかり押し付けてくれた。力は入りすぎだが。  それは鷲尾が美波の舌をそろりと舐めたことで解決した。 「ん……こ、う? こうした方が、鷲尾さん、気持ち良い?」 「うん」 「そっか」  そうともなれば、美波も躍起だ。  鷲尾の冷たい唇を火照らせるように、ついばむ隙間にぬるっと舌を入れてきて、あえて溜めた唾液を送り込んできた。そうでもすれば、鷲尾も全てを吐き出す訳にもいかない。  一生懸命な美波の頭を鷲掴みにして、口中を貪る。歯列の形から、下の裏の舌下静脈。口蓋のざらつき。深く彼を知る為に熱烈なディープキスを交わした。  彼の唾液は……まあ、歯磨きをしたばかりなのでならではの臭いというのはなかったが、普段から警察官として染み付いている、現場主義の泥臭さのようなものはある気がする。  顔は幼さがあっても、そこは三十路に近い立派な成人男性だ。 「っ!!」  キスと入れ替わりにパジャマ越しに勃起を押し付けてやったら、あっという間に全身が固まる。 「……し、し、したい、んですか?」 「生理現象ですから……美波さんがそうした方が俺の為になると思うのであれば、ぜひ」  正直にしたいとは言わない。したくないとも言わない。  あくまで、俺の為に……そうして考えて、脳髄まで鷲尾怜仁という男の存在で満たして、野暮なことは忘れてしまえばいい。  少し悩むそぶりをして、美波はもぞもぞ鷲尾の腰の辺りに手を回すと、躊躇しながらも下着の隆起を手のひらでなぞってきた。 「おお」  真っ先にそこを弄るとはなかなかの勇気だ。  それに、手付きもちゃんと相手に性的な行為をしようという意思を持っている。やわやわと揉み込んで、形を確かめるように上下させて。  美波の甲斐性のおかげでむくむく膨張してくると、遂に彼の手は下着の中にまで侵入した。  肌寒い季節に、熱を持ったペニスは温かすぎるくらいだ。自分でやっても無論反応はするが、やはり他人の手の感触は違う。  ここまで大きくなってしまっては下着の中では動かしづらいんだろう。彼の方から下着をずらして、全体を露わにしてきた。 「うっ……わ、しおさんの、ドクドクいってる……」  今日はまだ抜いてないからな。今日は。  少しはやりやすくなったのか、竿全体に指を絡めて、長いストロークでもって責めてくる。すぐにネチャネチャ粘り気のある淫靡な音も聞こえてきた。  美波の器用な柔らかい手を、大量に漏れ出すカウパーが汚していく。 「はっ……ぁ、あ……ふぅ……ん……」  美波自身はまだ気付いていないだろうが、自然と腰が揺れて、彼も既に勃起している。  鷲尾のものを扱きながら興奮して、鼻から抜ける声を上げている。 「美波さんのも扱いていい?」 「はぁっ……は……ぁ……え? え、あ……。うわっ!?」  言われてからようやく、美波は股を閉じた。 「うそ……俺、なんで……」  よもや手での奉仕だけで勃起するとは思ってもみなかったか。  だが、存外悪い気はしていないようだ。本気で嫌なら、こんな狭いベッドからは飛び出してしまえばいい。 「欲しいでしょ。あなたも」  耳元で囁く。美波が顔を真っ赤に染め上げて震えていることは暗がりでもわかった。  寝そべったままではやりづらいので、いったん身を起こした。至近距離で対面し、お互いのものを握り合う。  先ほど声量のことを言ってやったせいか、いつもより抑え気味だ。 「っく、ぅ……ふ……うぅっ……」  唇を噛み締めて、必死に喘ぎを抑えている。  だが、互いのものを扱きながら口付けをしてやると、美波の身体はいっそう熱くなる。 「んんっ……ちゅ……ぢゅるっ……むふぅ、うぅんっ」  美波は手の動きが止まらないようにするので精一杯だろうが、必死にキスを受け止める。  飲み干しきれない唾液を口端から流しながら、美波は鷲尾の双眸を見つめ、恍惚としたため息を漏らす。 「っはぁ……鷲尾さん……好き……」  その気持ちは心底から思うものだろうか。都合の良い現実逃避ではなかろうか。 「鷲尾さんは?」  ああ、そういう答えを先導するような言葉は大嫌いだ。  まず自分が好きだと言うなら、相手を全面的に信じるべきではないか。  なぜ言葉を欲するのか? やはりどこか疑念があるから? なら聞くな。鬱陶しくてたまらない。  浮気を疑う女じゃあるまいし、利用価値のない人間ならばとっくに殴り倒している。 「どんな風に言われたい?」 「そ、それは……まあ……確かに、抽象的すぎたかな……ごめんなさい」 「いいよ。わかってますから」  恋愛経験の少なさからか、美波は鷲尾を求めすぎるがあまり嫌われることを恐れて自ら一歩引いた。そういうところが脇が甘いというのに。

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