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21-1 ※鷲尾×晃

 今夜は給料日にかこつけた飲み会とは言え、同じ営業の社員達は羽目を外しすぎにもほどがある。酔っ払いに囲まれて、まったく良いご身分だ、と人知れず鷲尾は思った。  同じく晃も出席しているが、最近の話題はもっぱら鷲尾だ。やや遠い席で、一人小洒落たカクテルと肴を嗜んでいる。  どうしたらそんなにも営業成績を伸ばせるのかとか、前職は何をしていたのかとか、晃とはこのところどんな関係であるのかだとか。皆が聞きたいことは尽きなかった。 「ああ、申し訳ありません。そろそろ帰らなくては」 「ええー? せっかくだしハシゴしようぜ? 鷲尾、お前結構酒もいけるみたいじゃないか!」 「いえ……篠宮さんを奥様の元に無事送ってあげなくては。奥様からもきつく仰せつかっているんです」 「お、おう……そういうことか。なら仕方ないな。課長ー! 鷲尾の分は払ってあげてくださいねー!」  そんなことは聞いていないぞ、と言いつつ、やはり酒で気分を良くした課長は、さっさと晃を連れて行ってくれる鷲尾に感謝さえしているようだった。  夜はそれなりに治安の悪い歓楽街。質素なスーツ姿の鷲尾と、いつでも高価なものを身に付けている癖のある晃。  これが一人であれば、見るからに金を持ったお坊っちゃまである晃は、そんな隙のある人間を狙った悪ガキ共に路地裏へ連れて行かれ、袋叩きに遭い、あげく金品を全て持ち逃げされていることだろう。  俺ならもっと上手くやるにしてもたぶんそうする、と考える鷲尾である。 「……美鈴のことは……口実、だよね」 「ええ。そりゃそうでしょう。俺もあんな低層の人間の集まりには辟易してましたから。でも、あなたとはあと一軒付き合いたいんです」 「……?」  鷲尾は大通りに出てタクシーを拾うと、晃を近くのビジネスホテルに連れて行った。  既に時間は午前零時を回り、部屋は夜の静けさに包まれている。  鷲尾が備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを持って来てやる。 「どうぞ」 「……ありがとう」  鷲尾も自分のぶんを取り出し、一気に飲み干した。  しかしながら、こんなところに連れ込まれた時点で、ただ朝まで寝るだけとは晃でさえ思うまい。 「さ……やっと二人きりになれましたね、篠宮さん」  鷲尾の声が低く淡白になったのは、ある種のスイッチのようなものだ。  晃はもう、それだけで肩を跳ねさせ、怯え切っている。 「あ……ゴム……あの、あるから……」  使って、と遠慮がちに手渡された。普段家にあるものだろうか、それともそこら辺の店で急遽買ったものだろうか。  鷲尾は渡されたものを見やる。晃は別に早漏とも遅漏という訳ではないはずだが、ごく薄いタイプのものだ。  なら、あくまで鷲尾との行為の為に用意したものという訳だ。なんだか心外だが、晃が望んで生感覚を味わいたいと言うのならまあいい。 「……その。中で出されると……お腹……緩くなることが多くて。今日はお酒も入ってるから、特に……。お願い……」  本当に晃は生娘のようだ。  子供ができたら結婚してと喚き立てる女だとか。そういう輩は死ぬほど見たし実際に死んだ。絶対の安心と責任を求めるなら、男ばかりに頼るのはお門違いではないのか。  鷲尾は面倒くさそうに首筋をぽりぽり掻いた。 「いいですよ。その代わり、全部自分でやってくださいね。俺、疲れてるんで」 「え……? 自分で、って……?」 「だから、勃起させてゴム被せて挿入して動いて俺を射精させる。一連の流れを、あなたが先導してやって」 「な……!」  想像したか、晃はますます萎縮してしまう。頬をほんのり染めて、困ったように眉を八の字に下げて。  外はもう真冬だ。クリスマスも近く、街中にはイルミネーションが惜しげもなく飾り付けられている。家族連れ、夫婦、恋人同士やそれ未満の初々しいカップルが身を寄せ合って歩いている。  晃も本来なら、美鈴の好きなデザインのジュエリーを、豪華なホテルとケーキと共にサプライズプレゼントする準備期間に違いない。  鷲尾が入社して少ししてからという時期だっただろうか。  晃は美鈴をモデルとして起用した商品の新作発表で一目惚れし、善は急げと当日に運命のプロポーズをした。  高価な食事に、指輪に、申し分のない職業と家柄。そんなことよりも、美鈴は最初こそ困惑しつつも、晃の不器用ながらも真っすぐで、優しい人柄を選んだ。  幸せになれるはずだった。お互いに年を重ねれば重ねるほど、仲良く穏やかに過ごせるよう、努力できるつもりだった。  それが今や、こんな安ホテルで男と夜を過ごすとは。なんて哀れな堕ちっぷりなのだ。

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