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21-3 ※鷲尾×晃、騎乗位、ハメ撮り

 晃が騎乗位でのピストン運動に集中している間、鷲尾はベッドサイドに置いてあった携帯に手を伸ばした。  画面に指を滑らせ、ムービーにして晃の醜態をしっかり収める。そして、 「煌成堂の篠宮輝明社長は殺人鬼のあげく、息子の篠宮晃は男好きの変態……っと」  わざと大きな声を出して、晃も気付くようにした。  もちろん晃はすぐに携帯を奪い取ろうとするが、それには自分から腰を突き上げてやることで阻止する。 「これ、今すぐネットにアップしたらどうなるかな。社員の目にも止まったりなんかしたら、大騒ぎになるかもしれませんね」 「でもっ……そ、そんなことしたら、君も……」 「俺はいいんですよ。大切な存在を奪われて、何も残ってない、すっからかんの人間だから。でもあなたは守りたいものが多すぎる……」  大事なのは、鷲尾の素性よりも、社会的地位も権力もある篠宮輝明の凶行が明るみに出ること。  もし再捜査が始まったところで、証拠くらいでっち上げられる。篠宮は警察組織を恨みながら、馬鹿な大衆に非難されながら収監されるのかもしれない。  そして晃も即刻クビになるだけならまだ良い方で、美鈴の家族までもがバッシングにさらされるかもしれない。  すぐに顔を両手で覆ったが、時既に遅し。 「や、やめて……撮らないで……」 「何ですかその口の利き方は」 「ぁう……やめてください……もう、撮らないでくださいっ……許してぇっ……!」  それには晃も涙を隠せなかった。 「パパ……こんなことになって……ごめんなさいっ……美鈴……愛してる……ううっ、うぁっ、ママぁ……ママ、助けてママぁっ……!」  想定外の人物の名が飛び出したことに、鷲尾も驚いた。  晃の母であるさつき。それを今さら呼んでどうするのか? 幼稚園児じゃあるまい。死者が助けてくれる訳がない。 「ママに会いたい?」  今度は子供に言って聞かせるように。晃はこくこくと首を縦に振った。 「会える訳ないだろ。それこそ死んでもな」 「そんなことない! ママは天国にいるんだ! 今はただ、その時が来るまで安らかに眠ってるだけ……! パパをっ、僕をっ、待っててくれてるん、だ……!」 「あの世があったとして……お前達親子は良い世界に行ける訳がない。お前なんかを助けてくれる人間はこの世に居ないんだ。いい加減現実を受け入れろ」  晃は首をふるふると振るのみだった。  死後の世界がどうあれ、やはり父親のしたこと、自らも真実を知らないでいることを、信じたくないのかもしれない。 「……っ、君が望むことは何でもするから……消してぇ……お願い、しますっ……」 「ああとっくに消しました、消しましたよ。ライブ配信じゃなくて良かったですね。あなたのこんな恥ずかしい姿を独占できるなんて、滅多なことがないと無理でしょうから」  ちらりと晃が鷲尾の携帯を見やる。録画モードになっていないと確認するや否や、ほんの少しは安堵したようだった。 「んはぁっ! あぁ、くは、ぁあ……」  と、今宵の目的を忘れてもらっては困る。軽く下から突いてやると、晃は「わかっている」というように頷いた。  再び晃からの抽送が始まる。  鷲尾は腕を後ろに組んで、ともすればそのまま寝てしまいそうなくらい全身をリラックスさせていた。 「はっ……はッ……怜仁くんっ……もうだめ……イキそ……イッちゃう……!」 「そう。ご勝手に」  晃のラストスパートは激しく、元よりゴムの外側に塗られた潤滑油のせいか、グチャグチャ淫猥な音が結合部から鳴り響く。  悩ましい声を噴きこぼしながら的確に肉壁をざわめかせ、ギリギリ精子を搾り取るかのような動きで扱き上げる。  鷲尾は晃の頑張りように免じて、ゴムの中に精を迸しらせた。 「んっ! んんぅっ、んあぁっああああ~~ッ!!」  薄かったせいだろうか、そもそも限界だったのか、その熱を感じ、晃もアヘ顔さらして射精した。  瞳はとろんと溶け、舌は犬のように突き出て、肩で息をしている。何よりも、その身は熱い。 「終わった? じゃ、早くどいて」  射精後特有の放心状態にある晃から己を無理やり引き抜いて、隣のベッドへ突き飛ばす。  ゴム風船のようになったそれの先端を縛ってゴミ箱に投げ入れ、ベッドでゴロゴロしていたら、自然と欠伸が出る。  今日はもう寝てもいいかな。ふと、窓側を見つめる。  それにしても今夜は冷える夜だ。酒と湯と暖房、そしてセックスがなかったら、さすがの鷲尾も縮み上がってしまう。  そういえば、今朝の天気予報では……思い立ってカーテンを開けると、ちらちらと白い粉雪が舞っていた。 「あ! 篠宮さん、見てください、雪降ってますよ、雪! ホワイトクリスマス……にはまだ早いけど、なんだかいいなぁ。今頃奥様はこれを一人で見てるんですかね」  少年のようにキャッキャと指を差す鷲尾に、晃はつまらないほど何も反応しなかった。  というより、反応したら負けだ、とすら思っているような感じだ。 「君は……やっぱり、ただただ寂しい人なんだね……。愛は美しいものだよ……。きっと君には……ほんの少し、人より足りないだけなんだ……」  俯き加減の晃が、鷲尾の背後に立つと、ぽつぽつと呟きだした。 「君は真面目で、努力家で、正義感があって、とっても……優しい人。僕は……君が本当にこんなことをしたくてしてるだなんて認めない。誰にどう言われようが、僕は君を信じてるから!」  また。また、晃は哀れむような目でこちらを見ていた。  晃にとって鷲尾は至極不幸な人間らしい。  自身の行動によって他人がどうなるかなんてどうでも良く、他人を傷付ける行為に悦びを見出す。  それは悲しいことだと晃は思っている。 「愛は美しいもの……ね。それではまるで俺が悪役のような言い草だ。まったく人聞きの悪い」  鷲尾は生まれてこのかた、不幸だなんて一度も思ったことはなかった。  むしろ自分ほどの幸せ者はいないのではないかと錯覚しているくらい、楽しくて仕方がない。  価値観なんて人それぞれであるのに。  他人の芝生を踏んでおいて勝手に悩み苦しんで、さらにはその偽善を押し付けようとしてくる晃の方が鷲尾にとっては不幸でしかない。 「そんなのガキでも知ってる。もちろん、俺だって愛の素晴らしさは重々承知だ」  そう。知っている。晃よりも、誰よりも。 「だから人間は愚かで面白いんじゃあありませんか! 愛の為なら何でもする! それこそ自分の命を投げ打ってでも! まさに今のあなたのように!」  振り返って元気のない晃を笑い飛ばしてやる。  左右非対称に捻じ曲がった歪な表情に、晃は面食らった。  本気でそう思っているのなら、もう並大抵の人間では手の施しようがない。彼は正真正銘、狂っている。  だが、それでも。 「怜仁くん」  顔を上げられない晃が胸板を軽く叩く。 「俺はね。何もかも、全部したくてしてるんですよ」 「嘘だって言って……」  そのままずるずると膝から崩れ落ちてしまった。所詮、晃の精神力もこの程度か。  そう思っているのもつかの間、 「……諦めないから」  次の拍子に聞こえてきたのは、凌辱された直後とは思えないほどの、震えながらも勇猛たる声音。 「君が自分の心を救えないって言うなら、僕が救ってみせる。……絶対に」 「…………」  まるで異常者と言われているようで腹が立ち、鷲尾は苛立たしさを乗せたため息を吐いた。  そんな日こそ、絶対に来ない。  だって俺は、あえて何事も荒立てず耐え忍ぶ生き方を選んでいる“変人”より、己の欲求のままに生きる“普通の人間”だから。

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